【完結】婚約破棄をされたわたしは万能第一王子に溺愛されるようです

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
13 / 20

13 手が届かないと思っていた(※アルフォンス視点)

しおりを挟む
 初めて彼女を見たのは私が8歳、彼女が5歳の時だった。弟の婚約者となった少女は、プラチナブロンドの髪を春の日差しにきらめかせ、白い帽子にワンピース、赤いリボンを腰に巻いていた。

 私はそのころ、毒味役が続けて亡くなり、おのれの周辺に充満する死の気配や悪意に耐えられなくなっていた。食事は、王族にあるまじきことだが、みずから調理場におもむいて作って食べた。父はそれを許し、家事をしたことのない母も忙しい社交の合間をぬって一緒に作ってくれた。

 私はいつしか、自分か母の料理だけを食べるようになった。他人の手が……たとえ配膳だけでも、はいったものは口にしなかった。

 弟のパーシバルには何も起こらない。彼の周りには悪意など存在しないように……じっさいは、悪意によっていいように操られようとしていただけだが……優しい世界がひろがっているように見えた。

 うらやましい、と思っていた。なにも知らない弟、いずれ傀儡にされてしまう彼を、私は裏から守らなければならない。すべては国のためだと思えば、王家に生まれた者として当然だと納得していた。

「パーシバル殿下。いけません。優しい顔をしているものがみな、あなたの味方ではないのですよ」

 そう言って彼女は弟から、いくらするのか分からないようなこまかい細工の騎士の人形をとりあげた。

「かえしにいきますよ。誕生日でもないのに、家臣の誰かからとくべつなものを受け取ってはなりません。どなたからもらったかくらいは覚えておいででしょう?」

 たかが人形ひとつといえど、王族の子供に献上した。それで大きな法案は動かないかもしれないか、小さな不正くらいは見逃させることができる。

 人形といっても、遠目からでもわかるほど細工のこった良い品だとひと目でわかる。本物の銀をつかっているのだろう。子供のおもちゃには手にあまるものだ。

 たった5歳。自分より3つも下の少女は、それを理解していた。そして、それをおくせずパーシバルに告げる。

 後で知った。あれはパーシバルの婚約者であり、頭が悪いわけではないが思慮に欠ける弟をフォローするため、弟の分までこれから過酷な教育をほどこされる少女だと。

 ナターシャ・フォレスト侯爵令嬢。聡明さは元からのもの、婚約のさいに両親から、今後どれだけつらいことが待っているかわからないと言われても、国のため、家族のためならばやりとげます、と言い切ったという。

 彼女もまた、本当の悪意や死の気配は知らないひとだろう。それでも、私は彼女はそんなものに負けないと感じた。

 日の光のしたできらめく彼女の姿。これから行われる壮絶な日々をおもえば……それでも笑う少女に、私が惹かれない理由はなかった。

 パーシバルを助けることが彼女を助けることになるのなら、私は生きながらえよう。

 手に入れることができないとしても、国のためと思いながらも周りに死が転がっていた私は、死んでしまいたいと思っていた心が生き返るのを感じた。

 ナターシャの為にならば、生きながらえよう。文字通り、毒を喰らってでも。どこに出ても恥ずかしくない男になり、パーシバルを彼女と共に支えよう。

 愚かゆえに彼女というすばらしい女性を伴侶にする栄誉を得ながら、パーシバルはまんまと改革派の手に落ちた。

 あまりの愚かさに腹立たしさを覚えた。いくら助けようと思っていても、その土台を台無しにされては元も子もない。

 学園にはあらゆる貴族の子息令嬢が通う場所。未来の国を担う者が集まる場所で、それまで何度も助けてくれた彼女との婚約を破棄するとのたまったと言う。

 父上に聞いた時には私も愚弟のおろかさに頭が痛くなったが、その後偶然にも彼女とまみえることができた。

 間近で見た、成長した彼女は美しかった。薄暗い見知らぬ部屋にいながら、怯えることなく立つ彼女。

 自然と跪いた。彼女をおびえさせる気はない、むしろ、ずっと会いたかったのだと。勝手に同盟者と思って心の支えにしていたこと。

 命を狙われることのない愚弟よ、パーシバルよ、これだけは感謝しよう。

 彼女を手離し、王位継承権第一位を私に譲るしかない状況を作ってくれたこと。

 お前は彼女に守られていた。今度は私が彼女を守ろう。だから、なくしたものの大きさを胸に刻み、せめてもう少し、賢くなってくれ。

 私は彼女が大事だが、お前のことも大事に思っている。だが、守られる権利をなくした今、お前は自衛しなければならない。

 私はもう影に隠れない。彼女は日の光の下が似合う。堂々ととなりに立つ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

神様、来世では雑草に生まれたいのです

春先 あみ
恋愛
公爵令嬢クリスティーナは、婚約者のディスラン王子に婚約破棄を言い渡された。 これは愚かな王子が勝手に破滅する身勝手な物語。 ………… リハビリに書きました。一話完結です 誰も幸せにならない話なのでご注意ください。

婚約破棄されたら、国が滅びかけました

Nau
恋愛
「貴様には失望した!私は、シャルロッテ・グリースベルトと婚約破棄をする!そしてここにいる私の愛おしい、マリーネ・スルベリオと婚約をする!」 学園の卒業パーティーの日、婚約者の王子から突然婚約破棄された。目の前で繰り広げられている茶番に溜息を吐きつつ、無罪だと言うと王子の取り巻きで魔術師団の団長の次に実力があり天才と言われる男子生徒と騎士団長の息子にに攻撃されてしまう。絶体絶命の中、彼女を救ったのは…?

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...