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12 貴族裁判
しおりを挟むこんなに気持ちが浮かない夏休み前なんて初めてだ。
いつもなら待ち遠しくて堪らないのに...。
食堂で列に並んでいると、俊也に気づいた一部の生徒がなにやらコソコソ話してる。
黒髪になってるのが珍しいんだと思うけど...髪色の変化くらいで注目を浴びる俊也、て気の毒だな、て感じる。
もし俺が俊也のように金髪で黒髪にしたとしても特に話題なんかにはならないだろう。
不意に食堂を見渡し、視線が辿り着いた先には遥斗くんと和斗くんが並んで食事していた。
仲良さそうな笑顔の二人。
...やっぱり、付き合ってるとかなのかな。
トレイに食事を乗せて貰い、俺は意を決して遥斗くんと和斗くんの前に向かった。
「ちょ、樹」
涼太が驚いた様子で引き止めようとしたけど。
二人の前にトレイを置き、立ち竦んだ俺を二人が見上げた。
その瞬間、なんとも言えない違和感を覚えた。
一卵性の双子だから、同じ顔なのは確かなのに、遥斗くんはきょとん、とした眼差し、兄の和斗くんの瞳は細められ険しかった。
「なに?てか、誰?お前」
...和斗くんのセリフに、遥斗くんは俺の事を和斗くんに話してない事に気づいた。
遥斗くんが、
「知らない。席間違えてない?」
と、まるで、俺をそこから離したいかのようだった。
ゴクリ、喉を鳴らして、席に座った。
「....質問があって」
「....質問?」
和斗くんが険しさを変えずに訝しんだ。
「....徒歩で移動中のあなたですが、うっかり寝坊してしまい、このままでは大事な待ち合わせに遅れてしまいそうです。さて、どうしますか?」
以前、俊也にされた心理テストだ。
その後、涼太からアレはサイコパス診断だと聞いた。
サイコパスは事故や事件を作り上げて理由にするのらしい。
「なにそれ。心理テストかなんか?」
遥斗くんの問いに頷くと、しばらく、遥斗くんは斜め上を向き、うーん、と唸り、
「ごめん、もう一回」
先程の俊也の心理テストを反芻した。
「大事な待ち合わせ、か。相手とかその待ち合わせの事情もあるな。友達とかなら待ってて貰うし、無理なら帰って貰う。けど、大事な人だったり、遊びじゃない、こう、今は学生だけど、仕事とかだったら、上司に連絡したりあるだろうし...」
思いがけず、遥斗くんは真剣に考えてくれた。
「まあ、そうだな。悪い、遥斗、自販機でコーヒー買って来てくんない?いつもの奴」
「えっ、うん、いいけど」
「悪いな」
和斗くんの笑顔に遥斗くんも微笑みを返し立ち上がり、食堂の入口にある自販機に向かっていく。
その背中を見つめた。
「サイコパス診断だろ、それ」
「えっ」
慌てて和斗くんに視線を戻す。
和斗くんは箸を持ったまま口元を歪め、笑みを含んでた。
「しょーもな。てかさ、俺たちをサイコパスとでも思った訳?めっちゃ失礼だよな」
「....ごめん」
「つーか、サイコパスとは無縁なんで、俺はさ」
....俺は?
遥斗くんはどうなるんだろう。
真剣に考えていた遥斗くんとは明らかに違う。
「....和斗くん、このテスト知ってたんだね」
「まあな」
「...遥斗くんを自販機に行かせたのは...診断の内容を知ってたから....?」
はっ、と和斗くんが笑った。
「勘繰りすぎ。サイコパスなんじゃねー?お前」
「....」
唖然とし、言葉を失った。
「お待たせ、兄さん」
「ああ、サンキュ」
「ううん」
途端、和斗くんは狡猾な笑みを消し、遥斗くんを見上げ優しく微笑み、缶コーヒーを受け取った。
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