7 / 20
7 アルフォンス殿下の事情
しおりを挟む
あまりの事に固まってしまいましたが、一国の王子を跪かせたままというのはよろしくありません。
「あの、とりあえず立ち上がっていただけますか、アルフォンス殿下……?」
「君をこうして真近に見ていられるだけで、私は幸せなのだが……わかった」
すっくと立ち上がったアルフォンス殿下はパーシバル殿下よりずっと背が高いです。何より成長途中のパーシバル殿下に比べてしっかりとした大人の体つき。そして美形で、パッと見頭もよさそうです。
少なくともパーシバル殿下より思慮深いのは確かでしょう。
彼は自らテーブルの上の燭台を灯し、わたしをソファに招きました。たしかに、淑女をいつまでも立たせておくものではありませんが、初対面の殿方の部屋で席についていいものかどうか……迷ったわたしは、素直に席につくことにしました。
ソファが一つなので充分距離を開けて、わたしはアルフォンス様のとなりに腰掛けます。
「いきなりの事で驚かせてしまってすまない。君は、私のことを知らないだろうに……私は君をずっと見ていた。いつかこうして話せる日を……それがたとえ、弟の嫁としてだとしても」
さきほどから大変熱烈に愛を囁かれている気がします。薄暗くてよかったです、いまごろ恋愛耐性0のわたしの顔は真っ赤になっているでしょうから。
「本当はお茶を出してゆっくりと招きたいのだが、今日は両家の懇親会……まぁ仲をとりももうという会だったはずだ。もう少しだけ、私に君を見つめる栄誉をあたえて欲しい」
見つめる栄誉ときましたか。本格的に恥ずかしいですね。
しかし、これはチャンスなのでは?
今の王位継承権第一位はあのパーシバル殿下。わたしという婚約者を失ったので、正直もう王位につくのは無理でしょう。
そして目の前のアルフォンス殿下。彼は別段病弱には見えません。これはぜひ説得して王位継承権第一位になっていただきたいところ。
「アルフォンス殿下。おっしゃるとおりわたしには本日、あまり時間がございません。ですので、多少言葉は乱雑になりますが、質問とお願いがございます」
「君の話なら喜んで耳を傾けよう」
そんなとろけるように笑ってもダメです。いえ、ダメではないんですが。あぁ、わたしの恋愛耐性0が憎らしい。
わたしはつとめて事務的にお話をしました。
「まず、なぜ貴方様が王位継承権第一位ではないのでしょうか? はっきり言ってパーシバル殿下はバカです。一臣民として彼の治める国には期待できません」
「それは、私が優秀だからだ。……自分で言うのもなんだが、幼い頃から優秀すぎた。おかげで何度か殺されかけている。毒見役も何人か……、そのため、小さい頃から毒に体を慣らしている。寝込む事も多かったが、最近は致死量の毒でもすぐに吐き出せば問題ない程度になった。パーシバルが無事なのは、あいつがバカだからだ。殺すより手玉にとる方がリスクが低い。父上はその事情を鑑みて、私を守るため、そして私がパーシバルを守るために、私は病弱という事にしてあらゆる教育をほどこされた。君もだろう?」
アルフォンス殿下に……第一王子に王位継承権第一位を継がせなかったのは、アルフォンス殿下の命を守るため。陛下の愛ですね……そして、実害が出ている以上見過ごせないことだったのでしょう。
アルフォンス殿下は賢く聡明な方だと、この話を聞いただけでもわかります。実際に子供の頃から自分や周りに死が充満していたとしたら……それに負けない体づくり、そしてパーシバル殿下が学業はできてもバカなままなのは、命を狙われないため。
アルフォンス殿下が命を狙われ続けないように、あえて御しやすいと判断できるパーシバル殿下に国を継がせ、そのパーシバル殿下を操ろうとする誰かをアルフォンス殿下がふるい落としていく。
陛下も考えられましたこと。そして、アルフォンス殿下はそれに納得せざるをえなかったのでしょう。
「毒をあおるようになったのは父上のせいではない、私が嘆願してのことだ。こうして生きながらえ、更にはパーシバルを支えるために、私は影に生きることを選んだ。……ひとつだけ、後悔したのは、君をみつけてしまったこと」
アルフォンス殿下はわたしの長いプラチナブロンドを指に絡めとります。今日は正式な晩餐会ではなかったのでハーフアップにしていたのです。
わたしの緑の瞳を見つめながら、その髪に唇をつけます。よほど……わたしがいうのは恥ずかしいですが、よほどわたしに惚れていらっしゃるのは間違いないようです。
「パーシバルと婚約破棄になったと聞いた。これで私にも……チャンスが巡ってきた。私はこれから、君のため、そして国のために、影の存在は卒業する」
アルフォンス殿下はそうおっしゃると、わたしにそろそろ戻るようにと仰って道を教えて部屋を出しました。
わたしは少しの間、高鳴る心臓に歩き出すことができませんでした。
「あの、とりあえず立ち上がっていただけますか、アルフォンス殿下……?」
「君をこうして真近に見ていられるだけで、私は幸せなのだが……わかった」
すっくと立ち上がったアルフォンス殿下はパーシバル殿下よりずっと背が高いです。何より成長途中のパーシバル殿下に比べてしっかりとした大人の体つき。そして美形で、パッと見頭もよさそうです。
少なくともパーシバル殿下より思慮深いのは確かでしょう。
彼は自らテーブルの上の燭台を灯し、わたしをソファに招きました。たしかに、淑女をいつまでも立たせておくものではありませんが、初対面の殿方の部屋で席についていいものかどうか……迷ったわたしは、素直に席につくことにしました。
ソファが一つなので充分距離を開けて、わたしはアルフォンス様のとなりに腰掛けます。
「いきなりの事で驚かせてしまってすまない。君は、私のことを知らないだろうに……私は君をずっと見ていた。いつかこうして話せる日を……それがたとえ、弟の嫁としてだとしても」
さきほどから大変熱烈に愛を囁かれている気がします。薄暗くてよかったです、いまごろ恋愛耐性0のわたしの顔は真っ赤になっているでしょうから。
「本当はお茶を出してゆっくりと招きたいのだが、今日は両家の懇親会……まぁ仲をとりももうという会だったはずだ。もう少しだけ、私に君を見つめる栄誉をあたえて欲しい」
見つめる栄誉ときましたか。本格的に恥ずかしいですね。
しかし、これはチャンスなのでは?
今の王位継承権第一位はあのパーシバル殿下。わたしという婚約者を失ったので、正直もう王位につくのは無理でしょう。
そして目の前のアルフォンス殿下。彼は別段病弱には見えません。これはぜひ説得して王位継承権第一位になっていただきたいところ。
「アルフォンス殿下。おっしゃるとおりわたしには本日、あまり時間がございません。ですので、多少言葉は乱雑になりますが、質問とお願いがございます」
「君の話なら喜んで耳を傾けよう」
そんなとろけるように笑ってもダメです。いえ、ダメではないんですが。あぁ、わたしの恋愛耐性0が憎らしい。
わたしはつとめて事務的にお話をしました。
「まず、なぜ貴方様が王位継承権第一位ではないのでしょうか? はっきり言ってパーシバル殿下はバカです。一臣民として彼の治める国には期待できません」
「それは、私が優秀だからだ。……自分で言うのもなんだが、幼い頃から優秀すぎた。おかげで何度か殺されかけている。毒見役も何人か……、そのため、小さい頃から毒に体を慣らしている。寝込む事も多かったが、最近は致死量の毒でもすぐに吐き出せば問題ない程度になった。パーシバルが無事なのは、あいつがバカだからだ。殺すより手玉にとる方がリスクが低い。父上はその事情を鑑みて、私を守るため、そして私がパーシバルを守るために、私は病弱という事にしてあらゆる教育をほどこされた。君もだろう?」
アルフォンス殿下に……第一王子に王位継承権第一位を継がせなかったのは、アルフォンス殿下の命を守るため。陛下の愛ですね……そして、実害が出ている以上見過ごせないことだったのでしょう。
アルフォンス殿下は賢く聡明な方だと、この話を聞いただけでもわかります。実際に子供の頃から自分や周りに死が充満していたとしたら……それに負けない体づくり、そしてパーシバル殿下が学業はできてもバカなままなのは、命を狙われないため。
アルフォンス殿下が命を狙われ続けないように、あえて御しやすいと判断できるパーシバル殿下に国を継がせ、そのパーシバル殿下を操ろうとする誰かをアルフォンス殿下がふるい落としていく。
陛下も考えられましたこと。そして、アルフォンス殿下はそれに納得せざるをえなかったのでしょう。
「毒をあおるようになったのは父上のせいではない、私が嘆願してのことだ。こうして生きながらえ、更にはパーシバルを支えるために、私は影に生きることを選んだ。……ひとつだけ、後悔したのは、君をみつけてしまったこと」
アルフォンス殿下はわたしの長いプラチナブロンドを指に絡めとります。今日は正式な晩餐会ではなかったのでハーフアップにしていたのです。
わたしの緑の瞳を見つめながら、その髪に唇をつけます。よほど……わたしがいうのは恥ずかしいですが、よほどわたしに惚れていらっしゃるのは間違いないようです。
「パーシバルと婚約破棄になったと聞いた。これで私にも……チャンスが巡ってきた。私はこれから、君のため、そして国のために、影の存在は卒業する」
アルフォンス殿下はそうおっしゃると、わたしにそろそろ戻るようにと仰って道を教えて部屋を出しました。
わたしは少しの間、高鳴る心臓に歩き出すことができませんでした。
31
お気に入りに追加
3,150
あなたにおすすめの小説

神様、来世では雑草に生まれたいのです
春先 あみ
恋愛
公爵令嬢クリスティーナは、婚約者のディスラン王子に婚約破棄を言い渡された。
これは愚かな王子が勝手に破滅する身勝手な物語。
…………
リハビリに書きました。一話完結です
誰も幸せにならない話なのでご注意ください。

婚約破棄されたら、国が滅びかけました
Nau
恋愛
「貴様には失望した!私は、シャルロッテ・グリースベルトと婚約破棄をする!そしてここにいる私の愛おしい、マリーネ・スルベリオと婚約をする!」
学園の卒業パーティーの日、婚約者の王子から突然婚約破棄された。目の前で繰り広げられている茶番に溜息を吐きつつ、無罪だと言うと王子の取り巻きで魔術師団の団長の次に実力があり天才と言われる男子生徒と騎士団長の息子にに攻撃されてしまう。絶体絶命の中、彼女を救ったのは…?

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
(完)婚約破棄されたので、元婚約者のイケメン弟とお仕事します!
青空一夏
恋愛
私、サラ・クレアンはお父様からこの婚約で、名門クレアン伯爵家を助けてくれと言われる。お父様はお人好しで友人の連帯保証人になり負債を抱え込んでしまったのだ。婚約の相手は富豪のディラン・アシュレで末端男爵家の嫡男だ。ディランは高慢でモラハラな奴だったが、私はクレアン伯爵家のために我慢していた。ところが、ディランは平民のブリアンナに心を奪われた。
「私は、真実の愛に目覚めた。サラのような言いなりの犬などいらない。私は天真爛漫なブリアンナと婚約する」
ディランに宣言された私は、もう猫をかぶるのはやめたわ。だいたい、こんな男、大っ嫌いだったのよ。私は、素に戻り自分の道を歩み始めた。ディラン様の双子の弟のイライジャ様とホームセンターやっていくハチャメチャコメディー。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる