上 下
2 / 20

2 婚約は破棄します、王家の有責で

しおりを挟む
「むぐ、というわけでお父様、もぐ、申し訳ないのですが婚約の破棄を陛下にお申し出いただけますか? もちろんあちらの有責で」

 今のわたしは帰宅した正装姿そのままに、フォレスト侯爵……お父様の執務室に運ばせたアフタヌーンティーセットとあらゆるケーキやマカロンやフィナンシェを口に入れ、お茶で口をリセットしながら甘味をこれでもかとたんのうしつつ、お父様にことのあらましを説明しおえたところです。

 わたしのこれは一種のストレス解消でして、きびしい教養と多国語と異文化、複数の教義を持つ宗教などの教育、そのほかにはダンス、乗馬、剣技に弓道、暗器による自衛から重量のあるドレスとハイヒールでの館内徒競走も含まれます。食べたら動きますので太りません、ご安心を。

 こんな過密スケジュールですから、わたしには寝て忘れるだとか趣味をたしなむだとか、そういうストレス解消はありません。結果、小さいころからストレスがたまって爆発する前に甘味で心を癒しています。あ、このフィナンシェのアーモンドプードルの効き具合、絶妙ですね。後でおかわりしましょう。

 それを知っているのでお父様はわたしのストレス解消行動には何も言いませんが、話の内容にはわたしと同じく頭を痛めているようです。

 お行儀が悪いのもおとがめなしです。外ではちゃんとしているのと、お父様は領地の運営のほかに宰相としても働いています。第二王子について思うところがあったのはわたしだけではなく、結果わたしが飛び抜けて優秀でなければならないと思い至っての過密スケジュールでしたから。このくらいは許されなければ、人間壊れてしまいます。

「……言ってもせん無いことだが、お前はそれで構わないのか?」

 はて、構わないのか、とはどういうことでしょうか? フィーナ嬢の証言ひとつで証拠もないでっちあげを理由に、国中から集められた同年代の貴族の子息令嬢の前でわたしは婚約破棄を言いわたされました。

「逆にお尋ねしますが、これで婚約を破棄しなかった場合、ことがすんなり進むとお思いですか? お父様」

「…………非常にいまいましいが、思わないな」

 そう、もしこれで……バカだバカだとは思っていましたが、王家と侯爵家の婚約を王子ひとりの意思でもって人目のある場所で破棄を宣言しながら、婚約解消とならなかった場合、パーシバル殿下のお立場が悪くなります。

 あれだけ堂々と婚約破棄を、しかもまだ成立していない状態でほかのご婦人の肩を抱いて宣言しておいて、両家の間では無効です、では顔がたたないのは王家です。

 腹の黒い家臣も当然います、つけいる隙になることは間違い無いでしょうね。

「わたしが、むぐ、耐えてきたのは国のため、ひいては我が家のためです。クーデターなど、あぐ、起こされては全てが無意味。みにつけたことは無駄にはなりませんので、わたしのことは気にせず婚約は破棄しましょう。ただし、これまでにかかったわたしの養育費の8割と、んっく、もぐもぐ……、慰謝料として2割。その程度でかたむく王家ではございませんでしょう」

「我が家の育て方は婚約が決まった時点で間違ってはいなかったが……、そのだな、もう少しさめざめ泣くだとか、これまでの努力は、とか、あとはもう少し緊張感は持てないのか?」

 と、言われましても。問題となるのは今後の嫁ぎ先くらいで……それでも、王家有責の婚約破棄ならばそんなに支障もございませんし。

 そうですね……私が憂える事といえば、せいぜいこの国の未来くらいでしょうか?
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」 「私が愛しているのは君だけだ……」 「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」 背後には幼馴染……どうして???

だって私たち運命のふたり。

白雪狐 めい
恋愛
病弱で優しい弟王子に予想外にざまぁされちゃった兄王子とその彼女のお話。 ※婚約者様の好きにはさせません。に出てくるソレルとウルティカの話をウルティカ視点で書いた話です。 ※あと、2話で完結の予定です。

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

処理中です...