【完結】周囲が皆、敵なのですが〜やさぐ令嬢と不良王子の勉強会〜

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
13 / 21

13 心の中に不法侵入(※グラード視点)

しおりを挟む
「一体、何をどうやったらこうなるんだ……」

 ひねくれている、やさぐれている、とは思ったが、強い女だと思っていた。

 しかし、他人と関わる事に関しての耐性があまりにも無さすぎる。これではとてもじゃないが連れて帰る事はできない。

 ルシアナ嬢の抱えている過去は分からないが、とにかくベッドに寝かせ、苦し気にしている額の汗を備え付けのタオルを濡らして拭いてやる。

 彼女の事を許容はできる。助ける事もできる。だが、彼女のソレは相当根深いようだ。一体彼女の過去に何があり、何でここまで拗れてしまったのだろうか。

 踏み込まれる事を怖い、と思っているようには見えなかった。どちらかといえば、自分の見た目を褒めない自分を受け容れていたように思う。喜んでいたとも。

「あぁ、くそ……、仕方ねぇな」

 明らかに体の異常じゃない。精神の異常だ。これを解決するには、自分が掛けられているような精神に作用する『魔法』に頼るしかない。

 この国には魔導具はあっても魔法使いはそこまでいない。小さい国だ、下手な武力を持つことは危険に直結する。幸い、どの国もこの国を攻めこもうとはしていない。その旨味がないからだ。俺の国とは地続きだが、他は三方山に囲まれている。

 そのお陰で平和に暮らしている。だから俺が命の心配をせずにこの国に留学に来れた。俺の国はでかい国だから、それこそ攻めたい国はその辺にゴロゴロいる。港も持っていて土地も広い、肥沃な平野に、魔石のとれる鉱山。

 この小さな国はある意味足止めにもなっている。この国を落とそうとすれば俺の国が出張ってくるし、そこまでした攻め落とした後に俺の国に追撃をかけるような兵力は……残念ながらどの国にもない。

 存在しているだけで俺の国を守っている……だから、この国は友好国であり、第一王子が留学してこれる国だ。

 その俺が嫁をこの国からもらおうとするのは、何もおかしなことはない。だからこそ、まぁ、本気で連れ帰ろうと思っていたが……先に、ルシアナ嬢の心のわだかまりをどうにかしないと何の話も進められない。

 魔法……この国では使えなくて、俺の国は魔石の鉱山のお陰か使える者が多い奇跡。

 俺にも使える。弟に劣るとはいえ、そんなのはあの化け物がおかしいだけだ。

 少しだけ躊躇ったが、俺はルシアナ嬢を気に入っている。少なくとも、この国では一番に。

「う……、く……!」

「待ってろ、今、楽にしてやるから」

 うだうだ考えている間にもルシアナ嬢は苦し気にうめき声をあげる。

 心的負荷でぶっ倒れるなんて、という思いはあるが、そこは他人の目には普通は見えない所だ。

 そっと額に掌をあてる。

「わりぃな、ちょっと入るぞ……」

 返事のないその言葉と同時に、青白い光がルシアナに当てた掌から漏れだした。

 そのまま俺は、ベッドの上に上体を倒した。心だけ、彼女の心の中に入った証拠だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

平民から貴族令嬢に。それはお断りできますか?

しゃーりん
恋愛
母親が亡くなり一人になった平民のナターシャは、魔力が多いため、母の遺言通りに領主に保護を求めた。 領主にはナターシャのような領民を保護してもらえることになっている。 メイドとして働き始めるが、魔力の多いナターシャは重宝され可愛がられる。 領主の息子ルーズベルトもナターシャに優しくしてくれたが、彼は学園に通うために王都で暮らすことになった。 領地に帰ってくるのは学園の長期休暇のときだけ。 王都に遊びにおいでと誘われたがナターシャは断った。 しかし、急遽、王都に来るようにと連絡が来てナターシャは王都へと向かう。 「君の亡くなった両親は本当の両親ではないかもしれない」 ルーズベルトの言葉の意味をナターシャは理解できなかった。 今更両親が誰とか知る必要ある?貴族令嬢かもしれない?それはお断りしたい。というお話です。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...