【完結】周囲が皆、敵なのですが〜やさぐ令嬢と不良王子の勉強会〜

葉桜鹿乃

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10 これが恋だと認めたら死ぬ

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 私は学園から帰ると、いつも通り部屋着のドレスに着替え、晩餐の席に向かった。

 落ち込んでいる……いや、思い悩んでいる……私だが、家の中では未だに「見た目の美しいルシアナ」のままだ。家族に相談なんてできないし、ましてや、家族にどうやって「見た目を褒められるのが死ぬ程嫌い」と言えばいいのだろうか。

 学園ではグラード様が助けてくれた。だけど、ここは家で学園ではない。助けてくれるわけも無いし、これは私が解決しなければいけない問題だ。

 家族との間に暗くて深くて広い価値観の隔絶という断崖絶壁があるのは問題だ。なんとか橋をかけたい。そして、ちゃんと「美しいルシアナ」じゃなく、「家族のルシアナ」として相談がしたい。

 そう思いながら晩餐を静かに食べていると、義兄が話を振って来た。

「どうした? 学園で嫌なことでもあったのかい? 憂いを帯びた表情も素敵だけれど、ルシアナは笑っている方がずっと綺麗だよ」

 何かが、プツン、と切れた気がする。私の、そう、いうなれば頭の中で。

「お義兄様、それが家族が落ち込んでいる時にかける言葉ですか? 笑っている方が美しい? では、私は家でも感情を隠して笑っていろと?」

「あ、いや、そういう意味では……」

「では他にどのような意味があるというのです。この際だからお父様とお母様にも言っておきます。私、見た目を褒められるの、死ぬっほど嫌いなんですの」

 突如静かにキレた私に、家族は狼狽して顔を見合わせている。

 そりゃ、普通は見た目を褒められるって嬉しい事だと思うよ? でもね、限度ってもんがある。

 これだけささくれだって捻くれた私の内面に、何故毎日顔を突き合わせて会話している家族が気付かないのか。

 私が伝えなかったからだ。もう、取り繕うのは御終い。こんな見た目一つに振り回される茶番は御終いだ。

「もーー、ほんっとうに嫌で嫌で仕方なかった! 私は勉強も頑張っているし、努力してできるようになったこともたくさんあるのに、何かあれば二言目には見た目を褒めそやしてそっちは全然褒めてくれない! それに、不機嫌にしているなら不機嫌にしているで、そういうのは淑女としてよろしくないとか、ちゃんと注意して! 私はね、お人形じゃないの、人間なの。造作が綺麗だってのはもう分かったから、いい加減私の中身も見て!」

 勢いに任せて大きな声を出してしまった。びっくりして家族が固まっている。

 だけど、まぁ、私はすっきりした。今日はちょっと行儀悪くご飯を食べてもいいだろう。メインのお肉を大きくきってがぶりとかぶりつく。はー、美味しい。お肉最高。

「……ルシアナ、そんな……すまない、我々がそんなにお前を追い詰めていたとは」

「ルシアナちゃん、ごめんねぇ……っ!」

「わ、私はなんて失言を……。悩みがあるなら何でも言え! この義兄が何でも解決してやる!」

 早速私のお行儀悪には何も言わないが、それより先に私のやさぐれっぷりをようやく認識してもらえて、私はちょっと気分が高揚していたようだ。

 狼狽したまま手の止まっている家族を置き去りにしてメインを食べ終わると、綺麗に口元を拭ってからうっかり、本当にうっかり、相談をしてしまった。

「……学園で、私に初対面で、可愛くない、と言った方がいたんです。いいお友達で、私が見た目を褒められるのを嫌だということもすぐに許容してくれて……、その方のお陰で、今は学友とも楽しく会話できています。ですが、私はその方にお礼をしたいのに、なんだかこう……胸が詰まってしまって、うまく、話せなくなり……困っています」

 家族は目を丸くして顔を見合わせて、訳知り顔で頷きあい、お父様から口を開いた。

「ルシアナ、それはだな」

「そうね、それは一般的には」

 最後に、義兄が特大のハンマーで私の頭を殴った。

「恋、というんじゃないだろうか」

 がっつーん、と思いっきり頭を言葉で殴られた私は、無表情で固まってしまった。

 いや。いやいやいや。ダメでしょう。私が生きてきて初めて私を真っ向から可愛くないと言って、許容はしながらも勿体ないと言って、お互い共犯者であれど理解者ではない。

 そんな私たちの間に恋愛感情? いやいや、ダメだ。そんなものを持ち込んではいけない。嫌だ。

 親友の時もそうだった。本当の心を話したら、関係は壊れる。学園ではグラード様が助けてくれたから。家では家族だからなんとかなっただけで。

 グラード様に恋している? 私がその感情を認めてしまったら、私は死んでしまう気がする。

 失いたくないものに……学園での繋がり以上のない相手に……恋を?

 それを私が私で認めたら、なんだろう、ものすごく死にたいし、余計落ち込んでしまった。これ、ちゃんと認めてしまったら、死ぬ気がする。
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