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9 美男と美女とゴボウ
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「なんだこれ?」
今日も一日他の生徒と交流した後、やはり息抜きにグラード様と勉強会をしている。
長年の積み重ねでやさぐれまくった心にプラスしていきなりの社交(やさぐれすぎない程度に数匹の猫を被っている)は、私の心的疲労にも繋がった。いきなりはまずい。
「お礼です」
「甘いものは……」
「そこまでなんですよね? これ、甘く無いですから」
私とグラード様の間には、箱入りの大量のクッキーがあった。
私も正直そこまで甘いものは好まない。いや、無理すれば食べられるけど、どうにも口の中に残る甘さやしつこさが気になって、結局クッキー位がちょうどいい。
そして、このクッキーは私のお気に入りのおやつだった。自宅用に昨日、もう一箱買ってある。
「ふぅん……、ってなんだこれ」
気の無さそうに一枚手に取って匂いを嗅いだグラード様は、驚きに声を上げた。
そうでしょう、そうでしょう、香ばしい香りがするでしょう!
「これ、野菜のクッキーなんです。これはゴボウなんですけど、他にもにんじんやたまねぎのもあるんですよ。私はこれが大好きで」
「ゴボウ?! あの、茶色くて細長い木の根みたいなやつか? この黒いつぶつぶがそうなんかね……、……?! んっま!」
ざく、っという小気味よい音を立てて一口齧ったグラード様は目を見開いている。
野菜のクッキーだから、甘さは殆どない。甘さは逆に味を悪くする。
素材の香りや味を活かしたお菓子で、私のお気に入りはこのゴボウのクッキー。似合わない、と言われてもこればっかりはやめられない。
ただ、この量を一度に食べるとお腹が詰まる。2~3日は湿気らず日持ちもするように、箱の中には湿気を弾く薄紙も敷かれている。
「一気に食べると何でも体に悪いので、持ち帰ってくれてもいいですよ」
「マジ?! ありがてー、これはハマるわ。甘くないクッキーとか初めてだ。国に帰る時に職人も連れて帰るかな?」
「やめてください、私のお気に入りなんですから」
「はは、ならルシアナ嬢も連れ帰ればいいな」
いつもの冗談だと分かっているのに、私は固まってしまって上手く軽口が返せなかった。
私を連れて帰る、というのは、婚約者として、としか受け止めようがない。
私のこと可愛くないと言っている王子の言葉なのに、私は、うっかりときめいてしまったのだ。冗談なのに。
「あーでも国が傾くだろうからな~、このクッキー代で国政が傾いたら困るからな~」
と、グラード様が冗談で間を取り持ってくれた。
全くもって困る。私は、彼の弟の気持ちが少し分かるような気がした。
こんな感情は初めてで、というか初めての事が続きすぎて、私は本当に何も言葉にできず、困った顔を向けてしまった。
「あ? 大丈夫だよ、連れて帰ったりしねぇって。二号店を出してくれ、とは頼むけどな。なぁ、また買ってきてくれるか? タマネギのやつが気になるわ」
ダメだ、とても敵わない。
踏み込んでこない。核心をつくのに、嫌な部分はない。私のこの言葉にならない感情まで絶対にお見通しで、それだけ言ってグラード様はクッキーをつまみながら課題に取り掛かった。
私は課題に、今日も集中できなかったが、とにかくペンを進めた。
今日も一日他の生徒と交流した後、やはり息抜きにグラード様と勉強会をしている。
長年の積み重ねでやさぐれまくった心にプラスしていきなりの社交(やさぐれすぎない程度に数匹の猫を被っている)は、私の心的疲労にも繋がった。いきなりはまずい。
「お礼です」
「甘いものは……」
「そこまでなんですよね? これ、甘く無いですから」
私とグラード様の間には、箱入りの大量のクッキーがあった。
私も正直そこまで甘いものは好まない。いや、無理すれば食べられるけど、どうにも口の中に残る甘さやしつこさが気になって、結局クッキー位がちょうどいい。
そして、このクッキーは私のお気に入りのおやつだった。自宅用に昨日、もう一箱買ってある。
「ふぅん……、ってなんだこれ」
気の無さそうに一枚手に取って匂いを嗅いだグラード様は、驚きに声を上げた。
そうでしょう、そうでしょう、香ばしい香りがするでしょう!
「これ、野菜のクッキーなんです。これはゴボウなんですけど、他にもにんじんやたまねぎのもあるんですよ。私はこれが大好きで」
「ゴボウ?! あの、茶色くて細長い木の根みたいなやつか? この黒いつぶつぶがそうなんかね……、……?! んっま!」
ざく、っという小気味よい音を立てて一口齧ったグラード様は目を見開いている。
野菜のクッキーだから、甘さは殆どない。甘さは逆に味を悪くする。
素材の香りや味を活かしたお菓子で、私のお気に入りはこのゴボウのクッキー。似合わない、と言われてもこればっかりはやめられない。
ただ、この量を一度に食べるとお腹が詰まる。2~3日は湿気らず日持ちもするように、箱の中には湿気を弾く薄紙も敷かれている。
「一気に食べると何でも体に悪いので、持ち帰ってくれてもいいですよ」
「マジ?! ありがてー、これはハマるわ。甘くないクッキーとか初めてだ。国に帰る時に職人も連れて帰るかな?」
「やめてください、私のお気に入りなんですから」
「はは、ならルシアナ嬢も連れ帰ればいいな」
いつもの冗談だと分かっているのに、私は固まってしまって上手く軽口が返せなかった。
私を連れて帰る、というのは、婚約者として、としか受け止めようがない。
私のこと可愛くないと言っている王子の言葉なのに、私は、うっかりときめいてしまったのだ。冗談なのに。
「あーでも国が傾くだろうからな~、このクッキー代で国政が傾いたら困るからな~」
と、グラード様が冗談で間を取り持ってくれた。
全くもって困る。私は、彼の弟の気持ちが少し分かるような気がした。
こんな感情は初めてで、というか初めての事が続きすぎて、私は本当に何も言葉にできず、困った顔を向けてしまった。
「あ? 大丈夫だよ、連れて帰ったりしねぇって。二号店を出してくれ、とは頼むけどな。なぁ、また買ってきてくれるか? タマネギのやつが気になるわ」
ダメだ、とても敵わない。
踏み込んでこない。核心をつくのに、嫌な部分はない。私のこの言葉にならない感情まで絶対にお見通しで、それだけ言ってグラード様はクッキーをつまみながら課題に取り掛かった。
私は課題に、今日も集中できなかったが、とにかくペンを進めた。
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