8 / 21
8 他人に伝えるということ
しおりを挟む
「えっ、と……私でよろしければ?」
「ありがとうございます! 次の時に席にお伺いしますね」
栗色の巻毛の令嬢は嬉しそうに笑うと友達の元に戻っていった。
さらに教室に入ると、別の令息が声をかけてくる。
「な、勉強教えるんなら俺にも教えてくれないか?」
「あ、私もお願いしたいです!」
「……え、えぇ、喜んで」
「やった!」
彼も彼女も今まで私の敵としか思ってなかったので、名前も覚えていない。ヤバい。どうしよう。
「もちろん私も混ぜてくれるよね?」
「は、い、グラード様……」
一体何が起きてるんだ? と思う反面、グラード様は私に教わることなど何もないはずだ。
と、そこでハッとした。
(わざと……? わざと挑発して、私に嫌がらせて、それを喧伝して……勉強会に混ざってくれたら名乗ってくれるし……)
うわ、と思った。やる事がスマートすぎる。性格反転中だから、尚更王子様っぽい。
プリントを教壇の上に置いた後、席に戻って次の時間の教科書とノートを出した私は、放心したまま次の時間の授業を聞き、機械的にノートを取って、次の休み時間には増えた令嬢令息とグラード様に囲まれて、名乗るところから始めてもらった。
そして勉強を教えている……私が、学問の面で認められて勉強を……。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。ランチはグラード様と一緒だったが、噂は広まって気軽に相席の許可を求められたりした。
グラード様も機嫌が良さそうだし、私は初めて普通の会話を学友とした。どの教科の担任の授業が眠くなる、だとか、何が苦手とか、食べ物なら何が好きとか。
私はまだショックが抜け切らないまま、午後の休み時間にも前の席の子に話しかけられたりしながら過ごし、結局放課後に反転の解けたグラード様にニヤニヤと笑われる羽目になった。
「な? 言わなきゃわかんねんだって。まぁ、お前の場合自分で『私は見た目を褒められるのが嫌』なんて言ったら反感買うだろうけどよ。楽しかったろ?」
「はい……あの、ありがとうございました」
「俺もココ使わせてもらってっからな。これでおあいこって事で。さーって課題からやるか」
私に全く気負わせない態度で、グラード様はノートを取り出した。
私も同じように前に座って黙々と課題を始める。……が、今日の事が嬉し過ぎて、どうしても集中できない。
「グラード様」
「なんだよ」
「甘いものはお好きですか?」
「いや、あんまり」
「わかりました!」
それだけの会話をしてノートにまた向かった私に、今度はグラード様が首を傾げている。
その日、私は寄り道をして帰った。
「ありがとうございます! 次の時に席にお伺いしますね」
栗色の巻毛の令嬢は嬉しそうに笑うと友達の元に戻っていった。
さらに教室に入ると、別の令息が声をかけてくる。
「な、勉強教えるんなら俺にも教えてくれないか?」
「あ、私もお願いしたいです!」
「……え、えぇ、喜んで」
「やった!」
彼も彼女も今まで私の敵としか思ってなかったので、名前も覚えていない。ヤバい。どうしよう。
「もちろん私も混ぜてくれるよね?」
「は、い、グラード様……」
一体何が起きてるんだ? と思う反面、グラード様は私に教わることなど何もないはずだ。
と、そこでハッとした。
(わざと……? わざと挑発して、私に嫌がらせて、それを喧伝して……勉強会に混ざってくれたら名乗ってくれるし……)
うわ、と思った。やる事がスマートすぎる。性格反転中だから、尚更王子様っぽい。
プリントを教壇の上に置いた後、席に戻って次の時間の教科書とノートを出した私は、放心したまま次の時間の授業を聞き、機械的にノートを取って、次の休み時間には増えた令嬢令息とグラード様に囲まれて、名乗るところから始めてもらった。
そして勉強を教えている……私が、学問の面で認められて勉強を……。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。ランチはグラード様と一緒だったが、噂は広まって気軽に相席の許可を求められたりした。
グラード様も機嫌が良さそうだし、私は初めて普通の会話を学友とした。どの教科の担任の授業が眠くなる、だとか、何が苦手とか、食べ物なら何が好きとか。
私はまだショックが抜け切らないまま、午後の休み時間にも前の席の子に話しかけられたりしながら過ごし、結局放課後に反転の解けたグラード様にニヤニヤと笑われる羽目になった。
「な? 言わなきゃわかんねんだって。まぁ、お前の場合自分で『私は見た目を褒められるのが嫌』なんて言ったら反感買うだろうけどよ。楽しかったろ?」
「はい……あの、ありがとうございました」
「俺もココ使わせてもらってっからな。これでおあいこって事で。さーって課題からやるか」
私に全く気負わせない態度で、グラード様はノートを取り出した。
私も同じように前に座って黙々と課題を始める。……が、今日の事が嬉し過ぎて、どうしても集中できない。
「グラード様」
「なんだよ」
「甘いものはお好きですか?」
「いや、あんまり」
「わかりました!」
それだけの会話をしてノートにまた向かった私に、今度はグラード様が首を傾げている。
その日、私は寄り道をして帰った。
1
お気に入りに追加
828
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる