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6 価値観の違い
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「しかしなぁ、俺がお前の見た目だったら最大限利用して楽に生きるけどな」
「は?」
楽に生きる? どうやって? というのが私の感想である。
何をしても見た目だけしか褒められない。不機嫌でいようと褒められる。歪む自信しかないし、実際、私は歪んだ。楽さとは程遠い所にいるのだ。
「俺は顔しか取り柄がねーからな。めちゃくちゃ気を使ってんだぜ、スキンケアに筋トレ、髪もだ。お陰で、見目の良さ、だけは褒められてなんとか第一王子って体面を保ってるようなもんだぜ。他はまぁ、弟に負けるのは悔しいから努力したが……あいつめ、さくっと俺の上を行きやがる」
「……私は、どうにかこうにかこの見た目を崩せないかと、夜更かしに夜中のおやつ、暴飲暴食にだらけた生活をしてみた事もあるんですが……医学書を読んでなんとかプロポーションだけでも崩せないかとも思い勉強したんですけれど、体質的にこれはもう、変わらないようで。かといって、不潔は嫌いですので不潔にする気もなく」
「おい、どんだけ羨ましい事やってんだ。俺はこれを保つので精いっぱいだっつのに。っかぁ~~、俺とお前が逆だったらよかったのになぁ……。お前はだって、見た目以外を見て欲しかったんだろ? 王族ってのは見た目以上に能力が求められる。俺はそこんとこよぉく見られてっからな」
私はなんと返したものか迷った。
グラード様は私から見れば、いい王様、になれる人だ。王様が全部の公務をやるわけではない。だから貴族がいて、各役職につき、さらに末端には文官がいて支えている。
私の思ういい王様は、人を見て仕事を割り振れる人だ。信をおける人を見ぬき、信をおけない者は利用する。
グラード様には人を見る目がある。どうも、たぶん、弟が崇拝しているのはその部分であり、弟以外もしそれに気付いていないのだとしたら、お隣の国はさっさとグラード様に王位を譲った方がいい。
「あんだよ。俺の顔に何かついてんのか? げ、染みとかできてねぇだろうな」
「そのお歳でニキビではなく染みを気にするのはどうかと」
「ばっか、お前、男の肌の染みは見苦しいんだぞ。女と違って化粧するもんでもねぇし」
「されたらいいじゃないですか、化粧。というか実はしてますよね? 入浴後のスキンケアだとか」
「それは化粧じゃなくスキンケアだろうが。化粧ってのはおしろい塗ったりするやつだろ。俺がおしろい塗って瞼と唇に色を乗せてみろ。……いや、案外わるかねぇかもな?」
最後の言葉に私は噴き出して、しばらく肩を揺らして笑ってしまった。
いや、うん、本当に悪くはないと思う。だけれど、それ、自分で言いますか、男性が。
「似合うと思うんだよなぁ。旅の恥はかき捨てっつーし、留学最後の日にでもやってみっかな」
「恥だと思ってるならやめてください。私、声をあげて笑いますよ」
「いいんじゃね? 笑ってる方がいいよ、ルシアナ嬢は」
何を言われたのか一瞬理解が追い付かず、向こうもきょとんとしてこちらを見ている。
見た目が綺麗だ、可愛いという意味じゃない。この、いい、は、内面を指してのことだ。
「でもまぁ夢見てる皆さんの前じゃ出さねぇ方がいいだろうな。……いや、一回出してみてもいいかもしれねぇけど」
「? そういうものですか?」
「そういうもんだよ。人間の頭の中なんざ、誰が言われずに理解できるかってんだ」
そういわれるとその通りなのだが、私は一度、親友と思った相手にそれをして失敗している。
曖昧に笑って、そうですね、と答えるに留めた。グラード様が、何か考える顔になっていたが、お互いこの話はそこでやめた。
「は?」
楽に生きる? どうやって? というのが私の感想である。
何をしても見た目だけしか褒められない。不機嫌でいようと褒められる。歪む自信しかないし、実際、私は歪んだ。楽さとは程遠い所にいるのだ。
「俺は顔しか取り柄がねーからな。めちゃくちゃ気を使ってんだぜ、スキンケアに筋トレ、髪もだ。お陰で、見目の良さ、だけは褒められてなんとか第一王子って体面を保ってるようなもんだぜ。他はまぁ、弟に負けるのは悔しいから努力したが……あいつめ、さくっと俺の上を行きやがる」
「……私は、どうにかこうにかこの見た目を崩せないかと、夜更かしに夜中のおやつ、暴飲暴食にだらけた生活をしてみた事もあるんですが……医学書を読んでなんとかプロポーションだけでも崩せないかとも思い勉強したんですけれど、体質的にこれはもう、変わらないようで。かといって、不潔は嫌いですので不潔にする気もなく」
「おい、どんだけ羨ましい事やってんだ。俺はこれを保つので精いっぱいだっつのに。っかぁ~~、俺とお前が逆だったらよかったのになぁ……。お前はだって、見た目以外を見て欲しかったんだろ? 王族ってのは見た目以上に能力が求められる。俺はそこんとこよぉく見られてっからな」
私はなんと返したものか迷った。
グラード様は私から見れば、いい王様、になれる人だ。王様が全部の公務をやるわけではない。だから貴族がいて、各役職につき、さらに末端には文官がいて支えている。
私の思ういい王様は、人を見て仕事を割り振れる人だ。信をおける人を見ぬき、信をおけない者は利用する。
グラード様には人を見る目がある。どうも、たぶん、弟が崇拝しているのはその部分であり、弟以外もしそれに気付いていないのだとしたら、お隣の国はさっさとグラード様に王位を譲った方がいい。
「あんだよ。俺の顔に何かついてんのか? げ、染みとかできてねぇだろうな」
「そのお歳でニキビではなく染みを気にするのはどうかと」
「ばっか、お前、男の肌の染みは見苦しいんだぞ。女と違って化粧するもんでもねぇし」
「されたらいいじゃないですか、化粧。というか実はしてますよね? 入浴後のスキンケアだとか」
「それは化粧じゃなくスキンケアだろうが。化粧ってのはおしろい塗ったりするやつだろ。俺がおしろい塗って瞼と唇に色を乗せてみろ。……いや、案外わるかねぇかもな?」
最後の言葉に私は噴き出して、しばらく肩を揺らして笑ってしまった。
いや、うん、本当に悪くはないと思う。だけれど、それ、自分で言いますか、男性が。
「似合うと思うんだよなぁ。旅の恥はかき捨てっつーし、留学最後の日にでもやってみっかな」
「恥だと思ってるならやめてください。私、声をあげて笑いますよ」
「いいんじゃね? 笑ってる方がいいよ、ルシアナ嬢は」
何を言われたのか一瞬理解が追い付かず、向こうもきょとんとしてこちらを見ている。
見た目が綺麗だ、可愛いという意味じゃない。この、いい、は、内面を指してのことだ。
「でもまぁ夢見てる皆さんの前じゃ出さねぇ方がいいだろうな。……いや、一回出してみてもいいかもしれねぇけど」
「? そういうものですか?」
「そういうもんだよ。人間の頭の中なんざ、誰が言われずに理解できるかってんだ」
そういわれるとその通りなのだが、私は一度、親友と思った相手にそれをして失敗している。
曖昧に笑って、そうですね、と答えるに留めた。グラード様が、何か考える顔になっていたが、お互いこの話はそこでやめた。
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