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3 来客の日には黙っているのです
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「このようなデザインでどうですか? お嬢様」
デザイナーの見せてきたデザイン画を気に入った私は、黙って頷いた。
来客のある時に喋ってはいけない、と言われている。物心がついた頃からだろうか。両親のいいつけを破ったこともあったと思うが、私はそれで叱られたことはない。記憶にないからだ。
小さい頃から繰り返し言いつけられていて、何か買い物がある時にはお母様が一緒にいるのが当たり前になった。私の細かな表情から、だいたい正確なことを伝えてくれる。
「本当に気に入ったようですわ。このドレスでお願いします」
「かしこまりました、前日にはお持ちいたします」
「ありがとう」
私も座ったまま頭を下げる。
何故喋ってはいけないのか、を両親に聞いたことが無いわけではない。
ただ、明確な答えが返って来たことはない。困った様に顔を見合わせた二人は、よくこんな事を言う。
「人間誰しも慣れってものがあるからな……」
「そうね、大体の人は夢中になっちゃって何にも進まなくなっちゃうし……」
「それになぁ、デビュタント前に下手に気に入られると……」
「そうねぇ、ジャスミンくらい熱狂的なファンになるならまだしも、ライバル心で変な気を起こされても困るし……」
「とにかく、まぁ、そういう物だと思っておいてくれ」
という具合に話は終わってしまう。意味がわからない。
むしろ、この会話からどんな理由が導き出されるのか、理解できる人がいたら教えて欲しい。
私が喋ると生意気なことを言って怒らせてしまうのかな、と思ったが、専任の家庭教師たちはその点は否定してくれる。良い生徒だ、と褒めて伸ばしてくれるくらいだ。
私は今のところ、両親、使用人、家庭教師、ジャスミンとそのご両親の前でだけ喋っていいことになっている。
その縛りを思えば、お茶会の予定を悉く潰していくジャスミンの存在も悪いわけではないのだろう。両親がそれを歓迎していることからも明らかだ。
ジャスミン様が私のファン……、ファンで済むのか? 信者では? いや、とにかく私に傾倒し、私の幸せを願い、私を守ろうとしている、というのはなんとなく分かった。
むしろ守られるのは、初めて出会った時から変わらない、あの天使の美貌だと思うのだけれど。
デザイナーたちを見送り、私はお母様と2人になった時、やっと詰めていた息を吐いた。
「ふぅ……、お母様、デビュタントでは喋ってよろしいのですよね?」
「もちろんよ。デビュタントでは存分にお喋りしていいわ。——お喋りだけで済むとは思わないのだけれど」
「何故です? 何か行事があるのですか?」
お母様は若々しい顔で困った様に笑うと、頰に手を当てて少し悩んでから付け加えた。
「貴女が喋ったら、行事になるわね」
私はまるきり意味が分からなかったが、エントランスの置き時計が時間を告げる鐘を打った。
「声楽の授業がありますので、失礼します」
「えぇ、またあとでね」
デザイナーの見せてきたデザイン画を気に入った私は、黙って頷いた。
来客のある時に喋ってはいけない、と言われている。物心がついた頃からだろうか。両親のいいつけを破ったこともあったと思うが、私はそれで叱られたことはない。記憶にないからだ。
小さい頃から繰り返し言いつけられていて、何か買い物がある時にはお母様が一緒にいるのが当たり前になった。私の細かな表情から、だいたい正確なことを伝えてくれる。
「本当に気に入ったようですわ。このドレスでお願いします」
「かしこまりました、前日にはお持ちいたします」
「ありがとう」
私も座ったまま頭を下げる。
何故喋ってはいけないのか、を両親に聞いたことが無いわけではない。
ただ、明確な答えが返って来たことはない。困った様に顔を見合わせた二人は、よくこんな事を言う。
「人間誰しも慣れってものがあるからな……」
「そうね、大体の人は夢中になっちゃって何にも進まなくなっちゃうし……」
「それになぁ、デビュタント前に下手に気に入られると……」
「そうねぇ、ジャスミンくらい熱狂的なファンになるならまだしも、ライバル心で変な気を起こされても困るし……」
「とにかく、まぁ、そういう物だと思っておいてくれ」
という具合に話は終わってしまう。意味がわからない。
むしろ、この会話からどんな理由が導き出されるのか、理解できる人がいたら教えて欲しい。
私が喋ると生意気なことを言って怒らせてしまうのかな、と思ったが、専任の家庭教師たちはその点は否定してくれる。良い生徒だ、と褒めて伸ばしてくれるくらいだ。
私は今のところ、両親、使用人、家庭教師、ジャスミンとそのご両親の前でだけ喋っていいことになっている。
その縛りを思えば、お茶会の予定を悉く潰していくジャスミンの存在も悪いわけではないのだろう。両親がそれを歓迎していることからも明らかだ。
ジャスミン様が私のファン……、ファンで済むのか? 信者では? いや、とにかく私に傾倒し、私の幸せを願い、私を守ろうとしている、というのはなんとなく分かった。
むしろ守られるのは、初めて出会った時から変わらない、あの天使の美貌だと思うのだけれど。
デザイナーたちを見送り、私はお母様と2人になった時、やっと詰めていた息を吐いた。
「ふぅ……、お母様、デビュタントでは喋ってよろしいのですよね?」
「もちろんよ。デビュタントでは存分にお喋りしていいわ。——お喋りだけで済むとは思わないのだけれど」
「何故です? 何か行事があるのですか?」
お母様は若々しい顔で困った様に笑うと、頰に手を当てて少し悩んでから付け加えた。
「貴女が喋ったら、行事になるわね」
私はまるきり意味が分からなかったが、エントランスの置き時計が時間を告げる鐘を打った。
「声楽の授業がありますので、失礼します」
「えぇ、またあとでね」
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