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15 邪魔なサリバン(※???視点)

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 気に入らない。前代も、前々代の当主の代から気に入らないと思っていた。あのサリバン辺境伯家。国境沿いの金鉱、鉱山を独占しているあの家が。本来なら我が家に恩恵があってしかるべきなのに、山脈を丸ごと領地としているサリバンが気に食わない。

 流れの裏町の男を選び、貴族に仕立ててパーティーに参加させた。女に性を売って生計を立てている男だ。生娘にそれを教え込むのも、避妊の仕方も、避妊のための煎じ薬も持たせ、何もかもローズに対してうまくやってくれた。

 我が家で催したパーティーだが、その男はもう金を払って放逐した。我が家を探っても何も出てこない。

 噂も流した。ローズは誘えば誰にでも股を開くと。婚約者の決まっていない、閨教育を施された貴族の子息どもは、あのローズの美貌を一晩でも手中にできると聞いて群がった。

 そうだ、事実が先ではない。噂が先にあって、ローズは落ちた。

 なのにモリガンの小僧めが……!

 落ちた花は朽ちていくだけ、そのまま家名ごと落ちてくれればよかったものを、モリガンの所の次男が噂をものともせずにローズに交際を申し込んだ。

 モリガン侯爵家は王立騎士団の家系。迂闊に手を出せば武力行使に訴えられる事もあれば、騎士団としての忠誠心の厚さもあるからこそ、王家にまで目をつけられる事もある。

 一度落ちた花の評判は、花瓶にでも飾られたかのように少しずつ戻ってきている。ローズはただのあばずれだと思っている男は何人もいるだろう。それでも手を出せないのは、モリガンが清い交際をローズと続けている所にある。

 こうなると、最初に避妊の仕方まで教えたのは早計だったかもしれない。長く奔放なままでいてくれればと思ったが、いっそどこの誰の子とも分からない子供を身篭らせればよかった。

 口惜しい。成人したばかりの小娘、姉の方は隙が無かったが、妹の方は籠絡しやすかった。せっかくうまくいきかけていた、あのままいけばサリバンの家は爵位降格は間違いなく、にあの鉱脈が任されるはずだったのに。

 代々の恨みは深い。隣で金が採れるというのに、我が領土では穀物しかとれぬ。出土される金から考えて微々たる量で食糧を買い付けるサリバンめ!

 辺境伯家は隣国との守りの要。領にいる間は手出しできなんだが、王都にいれば話は違う。

 そうだ、うまくいっていた。全てモリガンの小僧が現れるまで。モリガンの小僧のせいで、ローズはまた美しい花としての価値を取り戻し始めている。

 一生悪評はついてまわるだろう。しかし、それに負けない強さ……社交の場での強さは、ローズの母譲りだろうか。

 元は隣国の王家に連なる血を持つサリバンの妻にかかれば、皇太后や王妃もある程度の助け舟を出す事も考えられる。

 やはり身篭らせておけばよかった。子供というモノがあれば、永遠にローズは、サリバンは、地に落ちたままだったろうに。

 口惜しい……。サリバンも、モリガンも気に喰わん!

 必ずもう一度評判を、信頼を、落としてやる。

 ……そう、建国祭がいい。爵位を持つ者なら必ず招かれる、王侯貴族の衆人環視のもと、ローズに、サリバンに、今一度汚泥を塗ってやる。

 そして、先祖代々の願い、あの鉱脈を手に入れてやる……。
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