【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
10 / 23

10 ローズ・サリバンの恋人(※レイノルズ視点)

しおりを挟む
 彼女……花姫・ローズと呼ばれていたローズ・サリバンは、あっさりと私との交際を了承した。

 今まで身体を求められる事ばかりだったのだろう。それを自覚していながらも、彼女は求められるという事に対して貪欲だった。

 そのせいであんな事に、と、交際を初めてみて納得した。

「私以外の男を見ないでくれ」

「ローズの全ては私だけが知っていたい」

 そう囁くだけで、元々美しい容貌はしていたが、花が綻ぶように微笑んで頷く。男たちが群がるわけだ、と納得もしたし、彼女はそうして言葉と態度で私が彼女だけを求めていると示せば同じように、身持ちが固くなった。

 花姫、などと揶揄する言葉はもうどこからも聞こえない。今ではレイノルズ・モリガンによって真実の愛に目覚めた、と噂されるようになっている。

 ひとまずこれで、サリバン辺境伯家の評判の悪化は食い止められた。

 むしろ、ローズは献身的でありながら、淑女としての教養、教育は見事なものであり、更にはサリバン辺境伯夫人の血を継いでいると言われるほど社交界の女性に憧れられる存在になっていた。

 モリガン侯爵家の名を恐れて男たちの噂はピタリと止み、中にはローズに恋い焦がれる……私と違って、心から……者も現れ始めた。

 そろそろ手放しても良い頃だろうか、などと不穏な事を考えてもみるが、果たしてそうなればローズはまた逆戻りするだろう。私ほど熱心に、彼女に愛を囁いた者はいない。身体を求めず、ローズという女性の素晴らしさを讃えた男もいないだろう。

 確かに見た目は重要だ。相手にどんな印象を与えるか、それは最初の見た目や表情で変わってくる。

 ローズは変わった。最初は男を見定める目をして、他の令嬢を見下していた彼女は、私の愛の言葉で変化し、今では素晴らしい淑女であると言い切れる。

 これならば、最初の社交界デビューから1年の間に広まった悪評もすぐに忘れ去られる事だろう。噂は止まっても、まだ皆の心にローズの奔放だった頃の姿は記憶に新しい。

 夢中にさせておかなければ。ローズとは腕を組む以上の事はしていない。抱擁の一つも、もちろん口付けも。

 私の心にはいつも、凛と前を見定める美しい灰色の瞳が棲んでいる。

 ローズ。君は美しい。私はリリーの妹である君に幸せになって欲しいと心から思う。だが、私は君を心から愛してはいない。欲してもいない。騙しているんだ。

 段々と心苦しくなってくる。ローズの一身に向けてくれる愛情、私に恥をかかせないように振る舞う豹変ぶり、本来は性質のいい女性なのだろう。

 彼女に足りなかったのは、彼女だけに向けられる愛情だ。それさえあれば、彼女はこんなにも素晴らしい女性である。

 そんな女性を騙している事に罪悪感がある事は否めない。私の心にはいつもリリーがいて、愛の言葉の全ては心の中でリリーへ向けている。最低の男だろう。本当に、人生における汚点となってしまった。自分で自分が許せない、という意味で。

 しかし、本当にローズを愛する者が現れるまで、私はこの茶番を辞める事は許されない。始めた事はやり遂げなければいけない。今ここで彼女を突き放せば、必ずローズは地に落ちる。

 そんな折だった。私の兄であるリチャードが……つまり、モリガン侯爵家の次期当主であり、現在王立騎士団の分隊長を任されている……彼が言い出したのは。

「レイノルズ……、私はお前の恋人であると知りながら、ローズ・サリバン嬢へ懸想している。兄として恥ずかしい事だが、あんなに素晴らしい女性だとは知らなかった……。譲れ、などとは言わない。ただ、恋人であり弟であるお前に言わないでいるのは、余りにフェアでは無い……、すまない、レイノルズ」

「兄上……」

 これはチャンスでは無いだろうか?

 ローズ。君は素晴らしい女性だ。今では君を妻にしたいと思う男がどれだけいるか、きっと私しか見えていない君は知らないだろう。

 私は兄に本当の事を告げるか迷った。しかし、そうすれば兄は私に決闘を申し込むだろう。命を賭けた、正当なる決闘だ。そして私は兄に勝てる程の力量では無い。つまり、命を落とす。

 それは避けたい。私が望むのは、ずっと望んでいるのは、リリーの将来を、リリーの心を、リリーを守る事だけだ。

 病的なまでにリリーに恋をしている私は、いかにして誠実で公明正大であり、侯爵家当主として申し分のない兄とローズを引き合わせ、婚約させるか……それを真剣に考えた。

 例えば、そう、私の命は捧げられずとも、腕の一本を差し出す事で丸く治るのなら、と。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私

青空一夏
恋愛
妹が大嫌いな姉が仕組んだ身勝手な計画にまんまと引っかかった妹の不幸な結婚生活からの恋物語。ハッピーエンド保証。 中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。魔法のある世界。

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

処理中です...