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1 姉と妹
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私、リリーの私物は妹のローズからのお下がりが多い。
年子で、赤ん坊の頃は私のお下がりを妹が着ていたけれど、それの最初は私が6歳で妹が5歳の時だった。
「やだ! もう、お姉ちゃんのお下がりはやだ!」
一緒に子供の交流を兼ねたお茶会に行くとなった時の事だ。私が去年着たドレスを与えられた妹が、新しいドレスを与えられた私を指差して両親に向かって駄々を捏ねた。
確かにうちは辺境伯の家庭で裕福である訳だし、何も私のお下がりを妹が着る必要はない。ただ、辺境伯というのは国境沿いの国の守りの要であるからして、父は多少財布の紐が硬い……有り体に言えばケチな部分があった。
だが、母親は社交界という場所を知っていたし、そこに妹が姉のお下がりのドレスを着ていけば(子供は覚えていなくとも、大人は覚えているものだ)、世間体的にもよろしくない、と口添えし、妹は新しいドレスを手に入れた。
私はその時から然程社交の場に興味も無く、ドレスも着られればなんでもいいという気持ちもあったので、お下がりになる予定のドレスは部屋着として使うことにした。家庭教師が来る日などの、ちょっとしたオシャレ着とでも言おうか。
お茶会の次の日、私がまだ寝ている時に、勝手に部屋に入ってきた妹は買ってもらったばかりのドレスを私に投げて寄越した。
「もう着たから、これはお姉ちゃんにあげる」
「え?」
「おさがりをあげるって言ってるの!」
そう言って階下に走って行った。
私は眠い目を擦りながら後をつけると(寝巻きで歩き回るなんて行儀が悪いのだけれど)妹はお父様の足に縋っていた。
「昨日のドレスはお姉ちゃんにとられたの! 新しいドレスかって!」
「とってないよ?! 勝手にローズが私に投げてきたの!」
「違うもん! お姉ちゃんは黙ってて! とにかく新しいのを買って!」
私はあまりの事にびっくりしていた。
寝ている姉の顔にドレスをぶつけて、勝手に押し付けて置きながら親には取られたと言って新しいものをねだる。その上、実の姉に『黙ってて』……?
あまりの無礼さに私はカッとなった。手には握りしめてきた先程顔にぶつけられたドレス。
妹につかつか近づくと、肩を掴んでこちらを向かせ、私は妹の頰を平手で叩いた。
初めて人に叩かれた妹は呆然として目を見開き固まっている。
私はそんな妹に先程のドレスを突き返し、父親を真っ直ぐ見上げて言った。
「私はローズのものをとっていません。必要にも思っていませんし、要らない物を押し付けられた挙句に泥棒呼ばわりされたので頰を打ちました。私に何かお咎めはありますか? お父様」
私の淡々とした言葉と、目にいっぱいに溜めた怒りに、父親は首を横に振りました。お咎めなし、という事です。
ローズはそこで漸く事態を理解し、頬の痛みもあって、買ってもらったばかりの一回しか着ていないドレスをだんだん! と踏みつけながら癇癪を起こして泣きました。
(醜い……)
寝ている所を半ば無理やり起こされて、泥棒呼ばわりされた挙句、この有様。
「ひとまず、リリー。部屋で身支度しておいで」
泣いて暴れるローズは侍女が抱き抱えて宥めていました。ドレスはもう、雑巾に使うしかないでしょう。
私は泣き声を背に聞きながら、父親に促されるままに部屋に戻ります。その途中、泣き止まないローズを宥めるために父親は言いました。
「新しいドレスを買ってあげよう。だからそう泣くな、ローズ」
その声に、ピタリと止む泣き声。
パパ大好き、とかなんとか言っている声が聞こえてきましたが、私は朝からとても気分が悪くなりました。
ここから、私は妹のお下がりばかりを受け取る羽目になったのですから。
年子で、赤ん坊の頃は私のお下がりを妹が着ていたけれど、それの最初は私が6歳で妹が5歳の時だった。
「やだ! もう、お姉ちゃんのお下がりはやだ!」
一緒に子供の交流を兼ねたお茶会に行くとなった時の事だ。私が去年着たドレスを与えられた妹が、新しいドレスを与えられた私を指差して両親に向かって駄々を捏ねた。
確かにうちは辺境伯の家庭で裕福である訳だし、何も私のお下がりを妹が着る必要はない。ただ、辺境伯というのは国境沿いの国の守りの要であるからして、父は多少財布の紐が硬い……有り体に言えばケチな部分があった。
だが、母親は社交界という場所を知っていたし、そこに妹が姉のお下がりのドレスを着ていけば(子供は覚えていなくとも、大人は覚えているものだ)、世間体的にもよろしくない、と口添えし、妹は新しいドレスを手に入れた。
私はその時から然程社交の場に興味も無く、ドレスも着られればなんでもいいという気持ちもあったので、お下がりになる予定のドレスは部屋着として使うことにした。家庭教師が来る日などの、ちょっとしたオシャレ着とでも言おうか。
お茶会の次の日、私がまだ寝ている時に、勝手に部屋に入ってきた妹は買ってもらったばかりのドレスを私に投げて寄越した。
「もう着たから、これはお姉ちゃんにあげる」
「え?」
「おさがりをあげるって言ってるの!」
そう言って階下に走って行った。
私は眠い目を擦りながら後をつけると(寝巻きで歩き回るなんて行儀が悪いのだけれど)妹はお父様の足に縋っていた。
「昨日のドレスはお姉ちゃんにとられたの! 新しいドレスかって!」
「とってないよ?! 勝手にローズが私に投げてきたの!」
「違うもん! お姉ちゃんは黙ってて! とにかく新しいのを買って!」
私はあまりの事にびっくりしていた。
寝ている姉の顔にドレスをぶつけて、勝手に押し付けて置きながら親には取られたと言って新しいものをねだる。その上、実の姉に『黙ってて』……?
あまりの無礼さに私はカッとなった。手には握りしめてきた先程顔にぶつけられたドレス。
妹につかつか近づくと、肩を掴んでこちらを向かせ、私は妹の頰を平手で叩いた。
初めて人に叩かれた妹は呆然として目を見開き固まっている。
私はそんな妹に先程のドレスを突き返し、父親を真っ直ぐ見上げて言った。
「私はローズのものをとっていません。必要にも思っていませんし、要らない物を押し付けられた挙句に泥棒呼ばわりされたので頰を打ちました。私に何かお咎めはありますか? お父様」
私の淡々とした言葉と、目にいっぱいに溜めた怒りに、父親は首を横に振りました。お咎めなし、という事です。
ローズはそこで漸く事態を理解し、頬の痛みもあって、買ってもらったばかりの一回しか着ていないドレスをだんだん! と踏みつけながら癇癪を起こして泣きました。
(醜い……)
寝ている所を半ば無理やり起こされて、泥棒呼ばわりされた挙句、この有様。
「ひとまず、リリー。部屋で身支度しておいで」
泣いて暴れるローズは侍女が抱き抱えて宥めていました。ドレスはもう、雑巾に使うしかないでしょう。
私は泣き声を背に聞きながら、父親に促されるままに部屋に戻ります。その途中、泣き止まないローズを宥めるために父親は言いました。
「新しいドレスを買ってあげよう。だからそう泣くな、ローズ」
その声に、ピタリと止む泣き声。
パパ大好き、とかなんとか言っている声が聞こえてきましたが、私は朝からとても気分が悪くなりました。
ここから、私は妹のお下がりばかりを受け取る羽目になったのですから。
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