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19 私、実家で泣かれてしまいました
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深夜、家の門で門兵に顔を見せた。
薄汚れた私ではありますが、私の家の者で私を知らない者はいない。
驚いた門兵が、深夜に声を上げそうになったのをぐっと堪え、涙目でおかえりなさいとだけ言って門を開けてくれた。
ひとりは家の中に走っていった。きっとお父様とお母様を起こしにいったのだろう。にわかに屋敷のあちこちの部屋で灯りがつきはじめる。
私はマントを脱ぎ、血で汚れた長手袋と薄汚れ、ぼろ布のようになったオートクチュールのドレス姿で、家のドアが開くのを待った。
開いたのは、お父様。
泣きながらお母様が口を抑えてへたりこむ。
「遅くなりました。ただいま戻りました、お父様、お母様。みんな、深夜なのにありがとう」
使用人たちも皆起き出して、中には泣きながらおかえりなさいと声をかけてくれた者もいた。
「いったい……いったい何があったんだ、リディア……あぁ、神よ、娘を返してくださりありがとうございます……!」
「リディア……! リディア……!」
お父様とお母様に抱きしめられ、私は帰ってきた安心感に涙目になりました。
わかってくれた。この格好で、傷付いているからこそ私が生きていると理解してくれて、よかった。私は死んだ者として扱われていたはずだけど、ブーツの鳴らす足音は本物だ。
「……私には生命神様の加護がありました。シュヴァルツ殿下は……崖から人が落ちたら死ぬ、ということがわからなかったのだと思います。愛してる、さようなら、そう言われて……殿下は私の手を離して崖の下に落としました」
私は玄関のエントランスでそれだけ話すと、ひとまずサロンへと移動することになった。
そして腰を落ち着け、何があったかを順に話していく。
身に付けているオートクチュールは私にしか合わないサイズの一点もの。アクセサリーにしてもそう。他にもマントや革袋に銀貨の残りという物品や目撃証言、そして、銀貨でお釣りを貰わずに乗り合い馬車や街の宿に泊まりながらここまで戻ってきたこと。
全てを話すと、使用人が証言者を集めるのは安易でしょうと太鼓判を押してくれた。
そして、お父様とお母様が、見たこともない形相になっている。
「シュヴァルツ……! あの男……!」
「当然ただでは済ませませんわ……いくら加護があったとしても、リディアはとても傷付き、苦労してここまで帰ってきた……。加護がなかったら死んでいた、ふふ、リディア……シュヴァルツ殿下が本当にそれを分かっていなかったと思っているの?」
「……それは、本人にお尋ねしてみませんと」
少しお母様の迫力に怯んでしまう。
あとは私の加護をシュヴァルツ殿下の前で認めさせ、私はシュヴァルツ殿下に進言するだけ。
いいえ。話し合いたい。国を良くするために。ヴァイス殿下も交えて、これからの国を作っていくために、この旅で学んだことを。
「しかし、リディア……お前の鬼籍を廃することは、神官どのの生命神様の加護のお告げを受ければ可能だ。だが、今……シュヴァルツ殿下は、マリアンヌ・デオン侯爵令嬢との婚約の話が進んでいる」
「いいのです。私はもう、殿下の婚約者ではない。あの時……崖から落とされた時にそれは決まっていたことです。しかし、その婚約破棄の理由が、私が鬼籍に入った事だとしたら……、さて、二重契約はできませんね」
「リディア……」
「婚約の契約を結ばれるのはいつですか? お父様がそこまで知っているということは、お父様も立ち会うのでしょう?」
でなければ、亡くなった婚約者の親にそんな詳細な話をするはずがない。
「明日だ。……明日の昼、婚約の書類が取り交わされる」
「では、一緒に参りましょう。それが済んだら、私、まずはお風呂に入りたいです」
さすがに清潔な自分の家にいればわかる。
私、今、とてもひどい臭いだ。
薄汚れた私ではありますが、私の家の者で私を知らない者はいない。
驚いた門兵が、深夜に声を上げそうになったのをぐっと堪え、涙目でおかえりなさいとだけ言って門を開けてくれた。
ひとりは家の中に走っていった。きっとお父様とお母様を起こしにいったのだろう。にわかに屋敷のあちこちの部屋で灯りがつきはじめる。
私はマントを脱ぎ、血で汚れた長手袋と薄汚れ、ぼろ布のようになったオートクチュールのドレス姿で、家のドアが開くのを待った。
開いたのは、お父様。
泣きながらお母様が口を抑えてへたりこむ。
「遅くなりました。ただいま戻りました、お父様、お母様。みんな、深夜なのにありがとう」
使用人たちも皆起き出して、中には泣きながらおかえりなさいと声をかけてくれた者もいた。
「いったい……いったい何があったんだ、リディア……あぁ、神よ、娘を返してくださりありがとうございます……!」
「リディア……! リディア……!」
お父様とお母様に抱きしめられ、私は帰ってきた安心感に涙目になりました。
わかってくれた。この格好で、傷付いているからこそ私が生きていると理解してくれて、よかった。私は死んだ者として扱われていたはずだけど、ブーツの鳴らす足音は本物だ。
「……私には生命神様の加護がありました。シュヴァルツ殿下は……崖から人が落ちたら死ぬ、ということがわからなかったのだと思います。愛してる、さようなら、そう言われて……殿下は私の手を離して崖の下に落としました」
私は玄関のエントランスでそれだけ話すと、ひとまずサロンへと移動することになった。
そして腰を落ち着け、何があったかを順に話していく。
身に付けているオートクチュールは私にしか合わないサイズの一点もの。アクセサリーにしてもそう。他にもマントや革袋に銀貨の残りという物品や目撃証言、そして、銀貨でお釣りを貰わずに乗り合い馬車や街の宿に泊まりながらここまで戻ってきたこと。
全てを話すと、使用人が証言者を集めるのは安易でしょうと太鼓判を押してくれた。
そして、お父様とお母様が、見たこともない形相になっている。
「シュヴァルツ……! あの男……!」
「当然ただでは済ませませんわ……いくら加護があったとしても、リディアはとても傷付き、苦労してここまで帰ってきた……。加護がなかったら死んでいた、ふふ、リディア……シュヴァルツ殿下が本当にそれを分かっていなかったと思っているの?」
「……それは、本人にお尋ねしてみませんと」
少しお母様の迫力に怯んでしまう。
あとは私の加護をシュヴァルツ殿下の前で認めさせ、私はシュヴァルツ殿下に進言するだけ。
いいえ。話し合いたい。国を良くするために。ヴァイス殿下も交えて、これからの国を作っていくために、この旅で学んだことを。
「しかし、リディア……お前の鬼籍を廃することは、神官どのの生命神様の加護のお告げを受ければ可能だ。だが、今……シュヴァルツ殿下は、マリアンヌ・デオン侯爵令嬢との婚約の話が進んでいる」
「いいのです。私はもう、殿下の婚約者ではない。あの時……崖から落とされた時にそれは決まっていたことです。しかし、その婚約破棄の理由が、私が鬼籍に入った事だとしたら……、さて、二重契約はできませんね」
「リディア……」
「婚約の契約を結ばれるのはいつですか? お父様がそこまで知っているということは、お父様も立ち会うのでしょう?」
でなければ、亡くなった婚約者の親にそんな詳細な話をするはずがない。
「明日だ。……明日の昼、婚約の書類が取り交わされる」
「では、一緒に参りましょう。それが済んだら、私、まずはお風呂に入りたいです」
さすがに清潔な自分の家にいればわかる。
私、今、とてもひどい臭いだ。
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