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7 私、山賊を引き渡したらお金をいただきました
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「みなさん、街が見えてきましたよ。手当してもらえます、よかったですね」
ひとり元気な私は、片手に4人ずつの手負の山賊を引きずりながら、大きな関所のある街の手前まで来た。
これでみなさんの怪我を見てもらえる。状況を説明したら、きっと綺麗な服と食事、仕事も斡旋してもらえるかもしれない。
なぜか背中の方からはずっとすすり泣く声が聞こえていたけど、街と聞いてみなさん、慌てふためいたりほっとしてみたり忙しい様子。
「そこの門兵の方、お手伝いしてくださいませんこと? みなさん怪我をしてらっしゃいますの」
「は? なんだおま……え……、そのボロボロの姿はどうされたんですか?!」
「これはちょっとうっかりで……、私のことよりこちらの方々の手当てを。あと、清潔な服やご飯もあげてください。随分お困りな様子で、私に剣を向けてきて……」
「剣を?! お怪我は?!」
「えぇ、剣が折れてしまって。それで、私に殴る蹴るの暴行を加えてきたのですが……」
「殴る蹴る?! お怪我は?!」
「はい、それが私は無傷なんですが、その時に彼らの手や足の骨が折れてしまったらしくて。すみませんが、みなさんの手当てをお願いできませんか?」
「……状況はよくわかりませんが、ひとまず男たちは我々が預かります。手当もしますのでご安心を」
「ありがとうございます」
血のついた手袋にボロボロのドレス姿で笑いかけると、兵士は仲間を呼んで彼らを連れて行った。私も事情を聞きたいと言われたので、山賊に襲われた所だけ話そうと思ってついて行った。
私は別室で、話を聞く前にと温かいポタージュと白パンを出してもらえた。お腹の虫が宥められなくて……恥ずかしかったけど、助かったのも本当だ。
流石に1週間も何も食べていなかったので、お腹が空いてどうにかなりそうだった。貪るような真似はせず、丁寧に食べ終わる。……3回だけおかわりしてしまったけど。
そのあと事情を説明することになったものの、私はどうしたものか迷っている。見知らぬ男たちに名乗ったのは、貴族としてそれが正しい姿だと示すためだ。
しかし、兵士に身分を明かしてしまった場合……私が生きていた、と伝令が走ってしまう可能性がある。他の方は崖から落ちたら死ぬ、ということは当たり前に知っていることだ。私は騙りを働いたとして捕まるかもしれない。
そこで私は本当の事半分、嘘半分で話をすることにした。真面目な兵士さん、ごめんね。山賊が覚えていて私のことを話す前にここをでなければ。
「……実は、ところどころ記憶が混濁しておりまして……、侯爵家の者だったと思うんです。気がついたらこの身形で……、ただ、このドレスとアクセサリーは私の身分を保証してくれると思うんです。少しボロボロで血塗れですが。侯爵家の人間、ということは覚えているので、王都に向かっています」
「怪しいが……たしかに、食事姿もその服装も平民とは思えない。まして山賊を連れてきて、自ら兵に声をかけるとなると、後ろ暗いことがあるとは思えないし……」
後ろ暗いことはない。ただ、私はシュヴァルツ王子に進言しなければいけない。この身を持って、人間は崖から落ちたら死ぬんですよ、と。愛してる人を落としていい場面じゃないんです、と。
それを先に報告されては進言の意味がなくなる。私は元気だし、知らなかった事で、王族とはいえ高位貴族の婚約者を下手したら殺していたとなれば罰が下る。さすがにそれでシュヴァルツ王子が裁かれるのはかわいそうだ。知らなかっただけなのだから。
そんなことを考えていたら、目の前にドサっと革袋とマントが置かれた。
「これは山賊を捕まえてきた報奨金です。こちらのマントは……その身形は目立つので隠すのに使ってください。山賊たちは殺しはやっていないので……商家の馬車が何度か襲われて荷を渡したくらいですね。怪我が治ったら、あなたの言った通り綺麗な服と食事もある、労役に就くことになるでしょう」
「まぁ、それならよかったです。ちゃんと罰を与えるのも大事ですが、罰せられる方が働き、服と食事が与えられる、これは大事なことです。嬉しく思います」
「こちらこそ。あなたのおかげか、山賊は素直にアジトの場所も吐きました。商品も少しは戻ってくるでしょう。あぁ、あと、マントを被ってくださればこの先のもう少し王都に近い街まで乗り合い馬車が出てますよ。その金で馬車も宿屋も食事にも使えるでしょうから、なるべく安全にお戻りください」
親切な兵士さんのおかげで、だいぶ王都への道が明確になった。お金の使い方はよく分からないけれど……これだけあれば大丈夫のはず。
ドレスを摘んで一礼すると、ご飯のお礼に、革袋にどっさり入っていた銀貨を一枚置いて、マントを被って詰所を出た。
さて、馬車はどこかな。
ひとり元気な私は、片手に4人ずつの手負の山賊を引きずりながら、大きな関所のある街の手前まで来た。
これでみなさんの怪我を見てもらえる。状況を説明したら、きっと綺麗な服と食事、仕事も斡旋してもらえるかもしれない。
なぜか背中の方からはずっとすすり泣く声が聞こえていたけど、街と聞いてみなさん、慌てふためいたりほっとしてみたり忙しい様子。
「そこの門兵の方、お手伝いしてくださいませんこと? みなさん怪我をしてらっしゃいますの」
「は? なんだおま……え……、そのボロボロの姿はどうされたんですか?!」
「これはちょっとうっかりで……、私のことよりこちらの方々の手当てを。あと、清潔な服やご飯もあげてください。随分お困りな様子で、私に剣を向けてきて……」
「剣を?! お怪我は?!」
「えぇ、剣が折れてしまって。それで、私に殴る蹴るの暴行を加えてきたのですが……」
「殴る蹴る?! お怪我は?!」
「はい、それが私は無傷なんですが、その時に彼らの手や足の骨が折れてしまったらしくて。すみませんが、みなさんの手当てをお願いできませんか?」
「……状況はよくわかりませんが、ひとまず男たちは我々が預かります。手当もしますのでご安心を」
「ありがとうございます」
血のついた手袋にボロボロのドレス姿で笑いかけると、兵士は仲間を呼んで彼らを連れて行った。私も事情を聞きたいと言われたので、山賊に襲われた所だけ話そうと思ってついて行った。
私は別室で、話を聞く前にと温かいポタージュと白パンを出してもらえた。お腹の虫が宥められなくて……恥ずかしかったけど、助かったのも本当だ。
流石に1週間も何も食べていなかったので、お腹が空いてどうにかなりそうだった。貪るような真似はせず、丁寧に食べ終わる。……3回だけおかわりしてしまったけど。
そのあと事情を説明することになったものの、私はどうしたものか迷っている。見知らぬ男たちに名乗ったのは、貴族としてそれが正しい姿だと示すためだ。
しかし、兵士に身分を明かしてしまった場合……私が生きていた、と伝令が走ってしまう可能性がある。他の方は崖から落ちたら死ぬ、ということは当たり前に知っていることだ。私は騙りを働いたとして捕まるかもしれない。
そこで私は本当の事半分、嘘半分で話をすることにした。真面目な兵士さん、ごめんね。山賊が覚えていて私のことを話す前にここをでなければ。
「……実は、ところどころ記憶が混濁しておりまして……、侯爵家の者だったと思うんです。気がついたらこの身形で……、ただ、このドレスとアクセサリーは私の身分を保証してくれると思うんです。少しボロボロで血塗れですが。侯爵家の人間、ということは覚えているので、王都に向かっています」
「怪しいが……たしかに、食事姿もその服装も平民とは思えない。まして山賊を連れてきて、自ら兵に声をかけるとなると、後ろ暗いことがあるとは思えないし……」
後ろ暗いことはない。ただ、私はシュヴァルツ王子に進言しなければいけない。この身を持って、人間は崖から落ちたら死ぬんですよ、と。愛してる人を落としていい場面じゃないんです、と。
それを先に報告されては進言の意味がなくなる。私は元気だし、知らなかった事で、王族とはいえ高位貴族の婚約者を下手したら殺していたとなれば罰が下る。さすがにそれでシュヴァルツ王子が裁かれるのはかわいそうだ。知らなかっただけなのだから。
そんなことを考えていたら、目の前にドサっと革袋とマントが置かれた。
「これは山賊を捕まえてきた報奨金です。こちらのマントは……その身形は目立つので隠すのに使ってください。山賊たちは殺しはやっていないので……商家の馬車が何度か襲われて荷を渡したくらいですね。怪我が治ったら、あなたの言った通り綺麗な服と食事もある、労役に就くことになるでしょう」
「まぁ、それならよかったです。ちゃんと罰を与えるのも大事ですが、罰せられる方が働き、服と食事が与えられる、これは大事なことです。嬉しく思います」
「こちらこそ。あなたのおかげか、山賊は素直にアジトの場所も吐きました。商品も少しは戻ってくるでしょう。あぁ、あと、マントを被ってくださればこの先のもう少し王都に近い街まで乗り合い馬車が出てますよ。その金で馬車も宿屋も食事にも使えるでしょうから、なるべく安全にお戻りください」
親切な兵士さんのおかげで、だいぶ王都への道が明確になった。お金の使い方はよく分からないけれど……これだけあれば大丈夫のはず。
ドレスを摘んで一礼すると、ご飯のお礼に、革袋にどっさり入っていた銀貨を一枚置いて、マントを被って詰所を出た。
さて、馬車はどこかな。
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