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6 我が愛しきリディアの葬式(※シュヴァルツ視点)
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今日は喪服を着て外に出る。今まで部屋でだらけていたから身体が重い。
あの日から1週間。……身分が身分なだけに捜索せねばならなかったが、死体は見つからなかったらしい。どうせ野犬か熊にでも喰われたのだろう。
崖に不自然な穴がいくつも空いていたとか服も骨も見つからなかったらしいが……、まぁ気にすることはない。あの女があの高さから落ちて生きてる訳がないからな! あれで生きてたらとんだ化け物だ、そんな空恐ろしい女と結婚なんざできるか!
ま、蝶よ花よと大事に育てられたリディアには体力も無い。馬車の旅で疲れてすぐ眠ってしまったくらいた。
(葬式なんざ面倒だが……本当に手が掛かるが、おかげで俺のイメージはよくなる)
せいぜい、嘆き悲しんで花を捧げてこようじゃないか。空の棺にな! ははは! 滑稽だなぁリディア!
お前の頭の中と一緒の空っぽの棺! それで葬式とは、まったくお似合いだよ!
思わず暗い笑みを浮かべてしまっていたが、ノックの音に表情を引き締める。案の定兄上だ。今の俺は、悲しみのあまり使用人も遠ざけている身だからな。
「準備はできたか?」
「兄上……、はい。行きましょう」
「あぁ……」
ヤッベェなこいつ、弟の婚約者に横恋慕していた上に本気で悲しんでやがる。実の兄ながら気色悪ぃぜ。
俺にリディアとの婚約話がきたのは、そもそもマルセル侯爵がリディアに王妃の荷はかちすぎる、とかふざけた事を言ったからだ。兄上と本来は婚約するはずだった、俺はそれでよかったのによ。
あの脳内お花畑娘が王妃?! 笑わせんな、即刻兄上ごと王座から蹴り落としてやったっつーの。
そっちの方が誰も命を落とさずに済んだのになァ?
な、兄上、どうだ? 過保護な親のせいで結婚できなかった女の葬式に、弟であり、笑っちまうが、恋敵の俺と行くってのはよ。
粛々と歩いて黒塗りの馬車に乗り、マルセル侯爵邸についた時には噴き出しそうになるのを堪えたぜ。
なんだこのくっらい屋敷は、弔問客までみんな本気で悲しんでやがる。あのお花畑娘の何がそんなによかったんだか……。
と、その弔問客の中に宰相であるデオン侯爵もいた。通りすがりに耳を傾けて、俺は思わず心の中で舌打ちをした。
「この度は心よりお悔やみ申し上げます……」
「デオン侯爵……しかたありません、今回のことは事故です。シュヴァルツ王子も必死になってくださいました……」
「うちの娘に同い年でありながら教養の家庭教師として来ていただいていたのに……娘も悲しんでおります。塞ぎ込んで葬儀にも……すみません、本当によくできたお嬢様でした……」
「えぇ……、そう言っていただけて、私共もどれだけ救われるか……」
リディアがマリアンヌの家庭教師だ?
おいおい、ということはマリアンヌは家庭教師を裏切って俺に告白してきたってのか? はっ、どこまでも哀れな女だぜ、リディア。
それにしたってマリアンヌが塞ぎ込むとはな……、まずいことになった。向こうから俺を慰めにきてもらう予定が狂っちまう。
……あぁ、そうだ。リディアをよく知る者同士で、とかなんとか言やぁデオン侯爵公認でマリアンヌと会えるじゃねぇか。
手向けの花を笑顔の肖像画の前に置きながら、俺は内心次の計画を立て始めていた。
死んでなお俺の役に立ってくれるリディア。はは、愛しているぜ。
兄と共にマルセル侯爵に挨拶に向かう。涙を流しながらリディアの死を悲しむ俺に、マルセル侯爵も複雑な表情で、そして涙を流していた。
そうだぜ? お前が素直に兄上の嫁にリディアを差し出していりゃあ今頃リディアは幸せの絶頂だったろうによ。親子揃ってお花畑め。
さて後残り2ヶ月ちょっと。デオン侯爵に話でもしてくるか。
王子として、リディアの婚約者だった私が娘さんの心を少しでも癒せれば、とかなんとかよ。
あの日から1週間。……身分が身分なだけに捜索せねばならなかったが、死体は見つからなかったらしい。どうせ野犬か熊にでも喰われたのだろう。
崖に不自然な穴がいくつも空いていたとか服も骨も見つからなかったらしいが……、まぁ気にすることはない。あの女があの高さから落ちて生きてる訳がないからな! あれで生きてたらとんだ化け物だ、そんな空恐ろしい女と結婚なんざできるか!
ま、蝶よ花よと大事に育てられたリディアには体力も無い。馬車の旅で疲れてすぐ眠ってしまったくらいた。
(葬式なんざ面倒だが……本当に手が掛かるが、おかげで俺のイメージはよくなる)
せいぜい、嘆き悲しんで花を捧げてこようじゃないか。空の棺にな! ははは! 滑稽だなぁリディア!
お前の頭の中と一緒の空っぽの棺! それで葬式とは、まったくお似合いだよ!
思わず暗い笑みを浮かべてしまっていたが、ノックの音に表情を引き締める。案の定兄上だ。今の俺は、悲しみのあまり使用人も遠ざけている身だからな。
「準備はできたか?」
「兄上……、はい。行きましょう」
「あぁ……」
ヤッベェなこいつ、弟の婚約者に横恋慕していた上に本気で悲しんでやがる。実の兄ながら気色悪ぃぜ。
俺にリディアとの婚約話がきたのは、そもそもマルセル侯爵がリディアに王妃の荷はかちすぎる、とかふざけた事を言ったからだ。兄上と本来は婚約するはずだった、俺はそれでよかったのによ。
あの脳内お花畑娘が王妃?! 笑わせんな、即刻兄上ごと王座から蹴り落としてやったっつーの。
そっちの方が誰も命を落とさずに済んだのになァ?
な、兄上、どうだ? 過保護な親のせいで結婚できなかった女の葬式に、弟であり、笑っちまうが、恋敵の俺と行くってのはよ。
粛々と歩いて黒塗りの馬車に乗り、マルセル侯爵邸についた時には噴き出しそうになるのを堪えたぜ。
なんだこのくっらい屋敷は、弔問客までみんな本気で悲しんでやがる。あのお花畑娘の何がそんなによかったんだか……。
と、その弔問客の中に宰相であるデオン侯爵もいた。通りすがりに耳を傾けて、俺は思わず心の中で舌打ちをした。
「この度は心よりお悔やみ申し上げます……」
「デオン侯爵……しかたありません、今回のことは事故です。シュヴァルツ王子も必死になってくださいました……」
「うちの娘に同い年でありながら教養の家庭教師として来ていただいていたのに……娘も悲しんでおります。塞ぎ込んで葬儀にも……すみません、本当によくできたお嬢様でした……」
「えぇ……、そう言っていただけて、私共もどれだけ救われるか……」
リディアがマリアンヌの家庭教師だ?
おいおい、ということはマリアンヌは家庭教師を裏切って俺に告白してきたってのか? はっ、どこまでも哀れな女だぜ、リディア。
それにしたってマリアンヌが塞ぎ込むとはな……、まずいことになった。向こうから俺を慰めにきてもらう予定が狂っちまう。
……あぁ、そうだ。リディアをよく知る者同士で、とかなんとか言やぁデオン侯爵公認でマリアンヌと会えるじゃねぇか。
手向けの花を笑顔の肖像画の前に置きながら、俺は内心次の計画を立て始めていた。
死んでなお俺の役に立ってくれるリディア。はは、愛しているぜ。
兄と共にマルセル侯爵に挨拶に向かう。涙を流しながらリディアの死を悲しむ俺に、マルセル侯爵も複雑な表情で、そして涙を流していた。
そうだぜ? お前が素直に兄上の嫁にリディアを差し出していりゃあ今頃リディアは幸せの絶頂だったろうによ。親子揃ってお花畑め。
さて後残り2ヶ月ちょっと。デオン侯爵に話でもしてくるか。
王子として、リディアの婚約者だった私が娘さんの心を少しでも癒せれば、とかなんとかよ。
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