2 / 22
2 殺したいと思っていた(※シュヴァルツ視点)
しおりを挟む
リディア・マルセル。彼女との婚約は5年前に決まっていた。兄はまだ身を固める気はないと言っていたが、俺は違う。
王位継承権は兄と俺では第一位と第二位の違いがある。婚約者としてマルセル侯爵の娘は悪いコマではなかったが、最善の手では無い。
俺が狙っていたのは宰相の娘、マリアンヌ・デオン侯爵令嬢。マルセル侯爵は貴族の保守派ではそこそこの発言力を持つが、デオン侯爵は中立派で最上位の発言力を持つ。当たり前だ、宰相なのだからな。
マリアンヌはまだ淑女としては、などとはぐらかしやがって。中立派が王子のどちらかに傾くのを避けるためだとは知っていた。
兄は王位継承権第一位にあり実務に忙しい。俺もそれなりに実務をこなしてはいたが、このままでは産まれたのが先というだけで兄が国王になるだろう。
俺は貴族の後ろ盾が欲しい。それも強力な。
そして数ヶ月前、マリアンヌが俺に、婚約者がいるのは分かっているがお慕いしています、なんて事を言ってきた! これこそ神の思し召し! マリアンヌには、今すぐは応えられる身ではないと誠実さを見せて、ハンカチを預けた。かならず、迎えにいく、と。結婚式の日取りが決まったせいだろう、父親の思惑など知らずに俺に釣られやがった! 役に立つバカ女だぜまったく!
そのあとすぐに計画をたてた。角が立たないように婚約破棄をしなければいけない。
しかし、リディアには瑕疵のひとつもない。家格に始まり見た目から教養まで何ひとつだ。行動も常に誰かが一緒にいて、罪をでっち上げることもできやしない。忌々しい女だ。まぁ抱く前に離れるのは少し惜しい程の美人だがな。
どうしたって婚約破棄はしたい。そこで、まずはマルセル侯爵家からリディアを引き離すことにした。
婚前旅行と言って直轄地へ行く。護衛は国から出す。そこまで言ってリディアを婚約者である王子の俺に預けないのは不敬罪にも問われかねない。
心配していたようだが、心配しなくていい。手を出したりはしないさ。
ただ、殺すだけ。あぁ、この数ヶ月、本当にお前を殺したかったよリディア!
「朝陽が綺麗なんだ、散歩にいかないか?」
「喜んで、殿下」
そうだ、最後にはとびきり綺麗なものを見せてやろう。王都しか知らないお前に、外の世界を。
直轄地の中でも特に緑の綺麗な王都から離れた場所を選び、父が母にプロポーズした思い出の場所で……、国もこのように険しい崖の縁に立たされることもあるかもしれない、その時隣で支えて欲しい、となんとも歯の浮くようなプロポーズをした、まさに! その! 場所で!
俺はリディアが朝陽に見惚れて前に一歩踏み出たのに合わせて軽く背中を押しただけだ。
そして、腹這いになって助けようとした。それは調べられればすぐわかる。実際に腹這いになった跡も、服に土がついているのも本当だからな。
あぁ、かわいそうなリディア。お前と最後に見たあの美しい朝陽は一生忘れないとも。
「リディア、君は何も悪くない」
ただ俺が、お前と結婚したくないだけだ。
さようならリディア。永遠に。
王位継承権は兄と俺では第一位と第二位の違いがある。婚約者としてマルセル侯爵の娘は悪いコマではなかったが、最善の手では無い。
俺が狙っていたのは宰相の娘、マリアンヌ・デオン侯爵令嬢。マルセル侯爵は貴族の保守派ではそこそこの発言力を持つが、デオン侯爵は中立派で最上位の発言力を持つ。当たり前だ、宰相なのだからな。
マリアンヌはまだ淑女としては、などとはぐらかしやがって。中立派が王子のどちらかに傾くのを避けるためだとは知っていた。
兄は王位継承権第一位にあり実務に忙しい。俺もそれなりに実務をこなしてはいたが、このままでは産まれたのが先というだけで兄が国王になるだろう。
俺は貴族の後ろ盾が欲しい。それも強力な。
そして数ヶ月前、マリアンヌが俺に、婚約者がいるのは分かっているがお慕いしています、なんて事を言ってきた! これこそ神の思し召し! マリアンヌには、今すぐは応えられる身ではないと誠実さを見せて、ハンカチを預けた。かならず、迎えにいく、と。結婚式の日取りが決まったせいだろう、父親の思惑など知らずに俺に釣られやがった! 役に立つバカ女だぜまったく!
そのあとすぐに計画をたてた。角が立たないように婚約破棄をしなければいけない。
しかし、リディアには瑕疵のひとつもない。家格に始まり見た目から教養まで何ひとつだ。行動も常に誰かが一緒にいて、罪をでっち上げることもできやしない。忌々しい女だ。まぁ抱く前に離れるのは少し惜しい程の美人だがな。
どうしたって婚約破棄はしたい。そこで、まずはマルセル侯爵家からリディアを引き離すことにした。
婚前旅行と言って直轄地へ行く。護衛は国から出す。そこまで言ってリディアを婚約者である王子の俺に預けないのは不敬罪にも問われかねない。
心配していたようだが、心配しなくていい。手を出したりはしないさ。
ただ、殺すだけ。あぁ、この数ヶ月、本当にお前を殺したかったよリディア!
「朝陽が綺麗なんだ、散歩にいかないか?」
「喜んで、殿下」
そうだ、最後にはとびきり綺麗なものを見せてやろう。王都しか知らないお前に、外の世界を。
直轄地の中でも特に緑の綺麗な王都から離れた場所を選び、父が母にプロポーズした思い出の場所で……、国もこのように険しい崖の縁に立たされることもあるかもしれない、その時隣で支えて欲しい、となんとも歯の浮くようなプロポーズをした、まさに! その! 場所で!
俺はリディアが朝陽に見惚れて前に一歩踏み出たのに合わせて軽く背中を押しただけだ。
そして、腹這いになって助けようとした。それは調べられればすぐわかる。実際に腹這いになった跡も、服に土がついているのも本当だからな。
あぁ、かわいそうなリディア。お前と最後に見たあの美しい朝陽は一生忘れないとも。
「リディア、君は何も悪くない」
ただ俺が、お前と結婚したくないだけだ。
さようならリディア。永遠に。
20
お気に入りに追加
2,330
あなたにおすすめの小説
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
【完結】婚約破棄されましたが国を追放されたのは私ではなく糾弾してきた王子の方でした
愛早さくら
恋愛
「お前との婚約は破棄する!」
卒業式の日。そう、大勢の前でネフィを糾弾してきたのは幼い頃からの婚約者である、ここ、カナドゥサ国のレシア第一王子でした。
ネフィはにんまりと笑みを浮かべます。
なぜなら、周り中全てが自分の味方であることを知っていたからです。
だからネフィは答えました。
「構いませんわ。ですが私と婚約を破棄して、国を追われるのは貴方の方でしてよ?」
そう告げるネフィの隣には……
・定番中の定番みたいな話を私も書いてみたくなって!
・でもあんまりざまぁはないです。多分。
・地味に某お話と同じ世界観。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
死に戻り令嬢の華麗なる復讐(短編まとめ)
水無瀬流那
恋愛
「おねが、い、しにたくな、」
最後に見えたのは、それはそれは嬉しそうに笑う妹の顔だった。
そうして首を切り落とされて死んだはずの私はどうやら過去にループしてきたらしい!?
……あぁ、このままでは愛していた婚約者と私を嵌めた妹に殺されてしまう。そんなこと、あってはなるものか。そもそも、死を回避するだけでは割に合わない。あぁ、あの二人が私に与えた苦しみを欠片でも味わわせてやりたい……っ。
復讐しなければ。私を死に追いやったあの二人に。もう二度と私の前に顔を表さなくなるような、復讐を――
※小説家になろうでも掲載しています
※タイトル作品のほかに恋愛系の異世界もので短めのものを集めて、全部で4本分短編を掲載します
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!
宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。
女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。
なんと求人されているのは『王太子妃候補者』
見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。
だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。
学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。
王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。
求人広告の真意は?広告主は?
中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。
お陰様で完結いたしました。
外伝は書いていくつもりでおります。
これからもよろしくお願いします。
表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。
彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】裏切っておいて今になって謝罪ですか? もう手遅れですよ?
かとるり
恋愛
婚約者であるハワード王子が他の女性と抱き合っている現場を目撃してしまった公爵令嬢アレクシア。
まるで悪いことをしたとは思わないハワード王子に対し、もう信じることは絶対にないと思うアレクシアだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる