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11 幼馴染の知らない側面
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朝に出てきて、今は昼時を少し過ぎた位だ。お店に入って対面でご飯を食べる気分でもないな、と指輪を気にしながら思っていると、公園にヴァンツァーが連れて行ってくれた。
遊歩道と緑が多く、所々に出店が出て軽食や飲み物を売っている。景観を邪魔しないような可愛らしいお店ばかりで、お昼のピークが過ぎたからか人はあまりいない。
ベンチの一つに私を座らせて、少し待っててくれ、と言われたので、頷いた。
一人になると私は大きく息を吐いた。考え過ぎて肩が強張っていたらしい。背凭れにもたれかかって空を見上げる。
くよくよ悩んでしまったことが申し訳なくなった。楽しもうとして私を連れ出してくれて、実際楽しくて、頑張った証の指輪をくれたのだ。
陽の光にかざすように右手をあげて、まじまじと指輪を見る。光の調子で金色にも白にも見える指輪は、本当に綺麗。
『ミーシャを予約させて欲しい』
思い出した言葉に顔が赤くなる。
ちゃんと約束を覚えていてくれた。帰ってきてくれた。願いを叶えてくれた。
それがどれだけ尊いことなのか、改めて実感する。これで他の男を選ぶなんて、私はただの馬鹿だろう。
「……っ?!」
急に、私の口に猿轡が回された。叫べないようにしたところで、ベンチの後ろの植物の中に連れ込まれる。
ここは栄えていて大きい街で、治安も悪くないはずだ。街中にも兵士が歩いているのを何度も見た。
何が起こっているか分からないうちに、私の体がロープでぐるぐるまきにされる。腕を後ろに回されて、手首までキツく締められた。
「へへ、ジェニック伯爵の秘蔵の娘、こいつを連れて帰れば俺たちゃ……」
「あぁ、ちょっとした小金持ちだ。既成事実を作っちまえばあっちのもんだろうよ」
「そんな心配そうな顔すんなよ? なぁ、別にここでどうこうしようって訳じゃねぇんだ」
下卑た男たちだった。5人いる。髭の生えた顔に、黄ばんだ歯をしていて、身なりも平民の服を着崩したような感じだ。
誰の差金かは知らないし、どこから私が今日ここにくるのかが漏れたのかも今は分からない。
私は本当に引きこもりだったから、出かける時もお父様についていく商談の場くらいで、まさかこんな目に遭うとは想定していなかった。
(誰の差金? 目的は何? 私どうなるの、ヴァンツァー! ヴァンツァー!)
心の中で何度もヴァンツァーの名前を呼ぶ。怖い。怖い。助けて。
泣そうになって目をきつく閉じる。その瞬間、鈍い音がした。
「目を開くなミーシャ。お前に見せたくない」
ヴァンツァーの硬い声がした。その声にゾッと背筋が凍るような寒気が走る。怖くて、どちらにしろ目は開けられなかった。
「なんだおまぇごっ?!」
「喋るな。動くな」
ヴァンツァーの硬い声に、男たちの野次も止まる。
「お前たちに剣は勿体無い。しかし、彼女を傷つけた事は許さない」
人を殴る鈍い音と、低く冷たい声が聞こえる。あとは、悲鳴。逃げようとする人を逃さない、ヴァンツァーは全員を動けなくすると、私のロープを慌てて解いて抱き締めた。
「ヴァ……」
「……無事で、よかった……」
彼の広い肩に阻まれて、後ろの様子は見えない。
怖かった。私の言葉は声にはならず、彼にしがみついて声を上げて泣いた。
遊歩道と緑が多く、所々に出店が出て軽食や飲み物を売っている。景観を邪魔しないような可愛らしいお店ばかりで、お昼のピークが過ぎたからか人はあまりいない。
ベンチの一つに私を座らせて、少し待っててくれ、と言われたので、頷いた。
一人になると私は大きく息を吐いた。考え過ぎて肩が強張っていたらしい。背凭れにもたれかかって空を見上げる。
くよくよ悩んでしまったことが申し訳なくなった。楽しもうとして私を連れ出してくれて、実際楽しくて、頑張った証の指輪をくれたのだ。
陽の光にかざすように右手をあげて、まじまじと指輪を見る。光の調子で金色にも白にも見える指輪は、本当に綺麗。
『ミーシャを予約させて欲しい』
思い出した言葉に顔が赤くなる。
ちゃんと約束を覚えていてくれた。帰ってきてくれた。願いを叶えてくれた。
それがどれだけ尊いことなのか、改めて実感する。これで他の男を選ぶなんて、私はただの馬鹿だろう。
「……っ?!」
急に、私の口に猿轡が回された。叫べないようにしたところで、ベンチの後ろの植物の中に連れ込まれる。
ここは栄えていて大きい街で、治安も悪くないはずだ。街中にも兵士が歩いているのを何度も見た。
何が起こっているか分からないうちに、私の体がロープでぐるぐるまきにされる。腕を後ろに回されて、手首までキツく締められた。
「へへ、ジェニック伯爵の秘蔵の娘、こいつを連れて帰れば俺たちゃ……」
「あぁ、ちょっとした小金持ちだ。既成事実を作っちまえばあっちのもんだろうよ」
「そんな心配そうな顔すんなよ? なぁ、別にここでどうこうしようって訳じゃねぇんだ」
下卑た男たちだった。5人いる。髭の生えた顔に、黄ばんだ歯をしていて、身なりも平民の服を着崩したような感じだ。
誰の差金かは知らないし、どこから私が今日ここにくるのかが漏れたのかも今は分からない。
私は本当に引きこもりだったから、出かける時もお父様についていく商談の場くらいで、まさかこんな目に遭うとは想定していなかった。
(誰の差金? 目的は何? 私どうなるの、ヴァンツァー! ヴァンツァー!)
心の中で何度もヴァンツァーの名前を呼ぶ。怖い。怖い。助けて。
泣そうになって目をきつく閉じる。その瞬間、鈍い音がした。
「目を開くなミーシャ。お前に見せたくない」
ヴァンツァーの硬い声がした。その声にゾッと背筋が凍るような寒気が走る。怖くて、どちらにしろ目は開けられなかった。
「なんだおまぇごっ?!」
「喋るな。動くな」
ヴァンツァーの硬い声に、男たちの野次も止まる。
「お前たちに剣は勿体無い。しかし、彼女を傷つけた事は許さない」
人を殴る鈍い音と、低く冷たい声が聞こえる。あとは、悲鳴。逃げようとする人を逃さない、ヴァンツァーは全員を動けなくすると、私のロープを慌てて解いて抱き締めた。
「ヴァ……」
「……無事で、よかった……」
彼の広い肩に阻まれて、後ろの様子は見えない。
怖かった。私の言葉は声にはならず、彼にしがみついて声を上げて泣いた。
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