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4 帰ってきた幼馴染のプロポーズ
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ヴァンツァーが帰ってきた。
驚きすぎて、私は両手で口を覆うと兜を地面に置いた彼を見つめて、涙をボロボロと溢してしまった。
顔に怪我をしている。きっと体のあちこちに怪我をしたに違いない。それでも、冒険者として身を立てたのは間違いない。
「ミーシャ。待たせた、約束を果たしたい」
約束、の言葉に私の心臓が跳ねる。
まさか、覚えていてくれたの……?
「俺と、結婚してくれ」
素直にうんと言いたい。頷きたい。だけど、なんでヴァンツァーは一度も笑わないの? 身分の差は? 勝手に置いていったのに、また出ていかないと言える?
私の頭の中は悪い言葉でいっぱいに埋め尽くされた。
目の前にヴァンツァーがいるのに、私は結婚の申し込みを素直に受け止めることができない。
ねぇ、ヴァンツァー。冒険者と貴族の結婚はうまくいくの? 私は、平民の貴方と結婚していいの? うちの跡取りになるのかな、お父様は後進を育て始めている。いつか義兄となって我が家を継ぐ筈だ。
なら私が平民になる? ヴァンツァーならきっと苦労はさせないだろうけど、冒険者として働く貴方を毎日送り出すのは辛いよ。
側で守っててくれないと嫌。急に出て行って笑わなくなった貴方の変化に私は追いつけない。
「ほ……」
「ほ?」
「保留! 保留にさせて! わ、私今のヴァンツァーのこと何も知らないもん!」
ヴァンツァーは、確かに、と視線を少し落としてから頷いて立ち上がった。
「今日から隣の領を拠点に暮らす。明日また来る」
「え、保留でいいの……?」
再び兜を身につけた彼は、あぁ、と答えた。
「ミーシャの言うことはもっともだ。とにかく、帰ってきたら顔を見たくなって、結婚の申し込みだけは一番にしたかった」
「あ、明日もまた来るって……」
「この馬は相棒のバルト。いい馬だ、足が速い。領の往来は何も問題ない」
本気のようだ。
声も喋り方も兜越しのせいなのか、無機質で抑揚がなく聞こえる。
必要な事しか喋らないし、実家に顔を出したり実家で暮らしたりする気はなさそうだ。
隣の領は栄えた街がある。うちは農作物と酪農、染物で生計を立てている領だが、隣は王の直轄地で、うちの領のちょうど反対側に金と銀の鉱山があり、金銀と輝石で運営されている筈だ。
それだけに魔物退治の依頼が多い。廃坑となった穴の中に魔物が棲みつきやすいのだ。
「ヴァ、ヴァンツァー! あの……、危ないことは、もうしないでね……」
「……分かった。ミーシャを守る時以外は、しない」
少し考えてからの返事に顔が赤くなる。
ヴァンツァーが帰ってきた。
私がどれだけ喜んでいるか、そして、今どれだけ苦しいかなんて知らないような風で、彼は馬に乗り込んだ。
馬上の人になったヴァンツァーはますます高い位置にある顔をこちらに向けて、また明日、と言ってあっさり帰っていった。
私は彼の姿が屋敷の門を通って見えなくなると、地面の上だというのにへなへなと腰を抜かして座り込んでしまった。
ヴァンツァー、あなた、一体何をしたの?
笑わず、声も平坦な、素性も感情も読めない騎士となった彼への疑問で頭がいっぱいになった。
彼が明日またくる。
サリーに助け起こされながら、私は考えることでいっぱいの頭を抑えて部屋に戻った。
驚きすぎて、私は両手で口を覆うと兜を地面に置いた彼を見つめて、涙をボロボロと溢してしまった。
顔に怪我をしている。きっと体のあちこちに怪我をしたに違いない。それでも、冒険者として身を立てたのは間違いない。
「ミーシャ。待たせた、約束を果たしたい」
約束、の言葉に私の心臓が跳ねる。
まさか、覚えていてくれたの……?
「俺と、結婚してくれ」
素直にうんと言いたい。頷きたい。だけど、なんでヴァンツァーは一度も笑わないの? 身分の差は? 勝手に置いていったのに、また出ていかないと言える?
私の頭の中は悪い言葉でいっぱいに埋め尽くされた。
目の前にヴァンツァーがいるのに、私は結婚の申し込みを素直に受け止めることができない。
ねぇ、ヴァンツァー。冒険者と貴族の結婚はうまくいくの? 私は、平民の貴方と結婚していいの? うちの跡取りになるのかな、お父様は後進を育て始めている。いつか義兄となって我が家を継ぐ筈だ。
なら私が平民になる? ヴァンツァーならきっと苦労はさせないだろうけど、冒険者として働く貴方を毎日送り出すのは辛いよ。
側で守っててくれないと嫌。急に出て行って笑わなくなった貴方の変化に私は追いつけない。
「ほ……」
「ほ?」
「保留! 保留にさせて! わ、私今のヴァンツァーのこと何も知らないもん!」
ヴァンツァーは、確かに、と視線を少し落としてから頷いて立ち上がった。
「今日から隣の領を拠点に暮らす。明日また来る」
「え、保留でいいの……?」
再び兜を身につけた彼は、あぁ、と答えた。
「ミーシャの言うことはもっともだ。とにかく、帰ってきたら顔を見たくなって、結婚の申し込みだけは一番にしたかった」
「あ、明日もまた来るって……」
「この馬は相棒のバルト。いい馬だ、足が速い。領の往来は何も問題ない」
本気のようだ。
声も喋り方も兜越しのせいなのか、無機質で抑揚がなく聞こえる。
必要な事しか喋らないし、実家に顔を出したり実家で暮らしたりする気はなさそうだ。
隣の領は栄えた街がある。うちは農作物と酪農、染物で生計を立てている領だが、隣は王の直轄地で、うちの領のちょうど反対側に金と銀の鉱山があり、金銀と輝石で運営されている筈だ。
それだけに魔物退治の依頼が多い。廃坑となった穴の中に魔物が棲みつきやすいのだ。
「ヴァ、ヴァンツァー! あの……、危ないことは、もうしないでね……」
「……分かった。ミーシャを守る時以外は、しない」
少し考えてからの返事に顔が赤くなる。
ヴァンツァーが帰ってきた。
私がどれだけ喜んでいるか、そして、今どれだけ苦しいかなんて知らないような風で、彼は馬に乗り込んだ。
馬上の人になったヴァンツァーはますます高い位置にある顔をこちらに向けて、また明日、と言ってあっさり帰っていった。
私は彼の姿が屋敷の門を通って見えなくなると、地面の上だというのにへなへなと腰を抜かして座り込んでしまった。
ヴァンツァー、あなた、一体何をしたの?
笑わず、声も平坦な、素性も感情も読めない騎士となった彼への疑問で頭がいっぱいになった。
彼が明日またくる。
サリーに助け起こされながら、私は考えることでいっぱいの頭を抑えて部屋に戻った。
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