【完結】冷徹騎士のプロポーズ〜身分の差を実力で捩じ伏せた幼馴染の執着〜

葉桜鹿乃

文字の大きさ
上 下
1 / 18

1 伯爵令嬢は釣書を見る事にした

しおりを挟む
 お父様から渡された立派な革張りの本と呼ぶには薄い冊子。中には金で家紋が箔押しされた物もある。

 姿絵と仔細な事まで、『盛って』書かれた(きっと売れない物書きにでも頼んだに違いない)紙の挟まった冊子が、10は机の上にのっかっている。

 これでもお父様は厳選したと言っていたのだから、果たして落とされた人はどんな内容と姿絵だったのか逆に気になる。

 ジェニック伯爵の娘、ミーシャ。領地に引きこもってばかりの深窓の伯爵令嬢、気弱で控えめで心根が優しくて、その美しさから都会を追い出された、と尾鰭どころか背鰭まで付け足された噂が流れているらしいのが、私。

 小さい頃は泥だらけで領民の子と走り回り、その時のある約束が忘れられずに、私は都会を去った。都では、必ず社交が付きまとう。

 気のない社交をするのは失礼だと思ったし、間違って求愛されても受ける気は無いのだからと、私は社交界デビューだけは済ませて領地に引っ込んだ。

 それからずっと、領地経営の手伝いをしている。今ではすっかりお父様の秘書だ。お父様はサインを書くだけで楽だと言うが、おかげで娘は教養よりも領地運営に詳しくなってしまいましたけど。

 ストロベリーブロンドの長い髪と菫色の瞳、スラリとした体型はスタイルがいいと言われるか、メリハリが無いと言われるか分かれる所だ。

 そんな私も今年20歳になる。成人が16歳で結婚の適齢期は22歳までと言われている世の中だ。さすがにお父様も焦ったのだろう。

 領地と首都を往来するお父様が、あの変な噂を聞きつけて私に教えてきたが、それを餌にこんなに要らない魚を釣ってこなくてもいいのに、と思う。

(潮時かな……、もう、7年も帰ってきていないし)

 私の忘れられない約束の相手は、13歳の時に冒険者になると言って領地を出て行った。両親にも止められていたが、13歳から冒険者登録は出来ることになっている。

 彼の夢がそれならば、私は応援する事しかできない。約束も忘れているかもしれない。私と、彼との間では約束の重みが違かったのだろう。

(でも、まぁ、5歳の約束をいつまでも引きずってる重い女を選ぶよりは、冒険者として身を立てる方が正解だよね)

 出ていく時、約束の事を言おうとしてもできなかった。恥ずかしかったし、そんなもので彼を引き止めても、彼はやがて夢を諦めきれずに居なくなるかもしれない。

 冒険者なんて危険極まりない仕事、やめて欲しいとは思うけど……、伯爵家のお嬢様と、平民の農家の息子ではどの道結婚は難しかっただろう。

 私は誕生日を明後日に控えている。ほぼほぼ20歳だ。

 潮時だろう。もう、諦めて、行き遅れになる前に私も結婚相手を決めて将来のことを考えないと。

 出窓に座って机から距離を置いて本を読んでいた私は、諦めて本を閉じて釣書の山と格闘する事にした。

 中に書かれている盛られた内容から、なるべく真実に近そうな内容を選ぼうとする。

 『社交的で顔が広く、資産も豊富』ギャンブル癖があるか、女性関係にだらしない。

 『何ごとにも真面目に取り組み、一つの事に集中して結果を出す』仕事ばかりで、家庭を顧みない、跡取りが産まれればいいタイプだ。

 『文武両道に秀で、祖父は勲章を貰ったことがある』秀でているなら本人が貰ってるでしょうが!

「あーもー!」

 やる気はなかったのでベッドの上で開いていたが、その邪魔な釣書を床に退けてベッドに顔を埋める。

 こんな嘘っぱちだらけの見合い相手は嫌だ。やっぱり、私の事も見てくれて、当たり前だけどちゃんと優秀で、何なら危ない事の全部から守ってくれる騎士様みたいな……、それで、硬い鎧で私を抱き上げて馬に乗せてくれたりして……、ロマンス小説を読みすぎたかな。

「あぁ! もう、ヴァンツァーのバカ!」

 その全ての妄想が、大人になった約束の相手の妄想姿で思い浮かぶ。

 そんな自分が嫌で、私は叫びながらクッションを抱きしめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。

112
恋愛
 皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。  齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。  マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ

川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」 フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。 ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。 その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。 彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。 しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。 貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。 そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。 一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。 光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。 静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

婚約者が肉食系女子にロックオンされています

キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19) 彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。 幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。 そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。 最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。 最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。 結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。 一話完結の読み切りです。 従っていつも以上にご都合主義です。 誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

ワシが育てた……脳筋令嬢は虚弱王子の肉体改造後、彼の元から去ります

キムラましゅろう
恋愛
ある日、侯爵令嬢のマーガレットは唐突に前世の記憶が蘇った。 ここは前世で読んだ小説の世界で自分はヒロインと敵対するライバル令嬢ボジだということを。 でもマーガレットはそんな事よりも重要な役割を見出す。 それは虚弱故に薄幸で虚弱故に薄命だった推しの第二王子アルフォンスの肉体改造をして彼を幸せにする事だ。 努力の甲斐あって4年後、アルフォンスは誰もが憧れる眉目秀麗な健康優良児(青年)へと生まれ変わった。 そしてアルフォンスは小説通り、ヒロインとの出会いを果たす。 その時、マーガレットは……。 1話完結の読み切りです。 それ故の完全ご都合主義。ノークオリティノーリアリティノーリターンなお話です。 誤字脱字の宝庫です(断言)広いお心でお読み下さいませ。 小説になろうさんにも時差投稿します。

【完結】山猿姫の婚約〜領民にも山猿と呼ばれる私は筆頭公爵様にだけ天使と呼ばれます〜

葉桜鹿乃
恋愛
小さい頃から山猿姫と呼ばれて、領民の子供たちと野山を駆け回り木登りと釣りをしていた、リナ・イーリス子爵令嬢。 成人して社交界にも出たし、今では無闇に外を走り回ったりしないのだが、元来の運動神経のよさを持て余して発揮しまった結果、王都でも山猿姫の名前で通るようになってしまった。 もうこのまま、お父様が苦労してもってくるお見合いで結婚するしか無いと思っていたが、ひょんな事から、木の上から落ちてしまった私を受け止めた公爵様に婚約を申し込まれてしまう。 しかも、公爵様は「私の天使」と私のことを呼んで非常に、それはもう大層に、大袈裟なほどに、大事にしてくれて……、一体なぜ?! 両親は喜んで私を売りわ……婚約させ、領地の屋敷から王都の屋敷に一人移り住み、公爵様との交流を深めていく。 一体、この人はなんで私を「私の天使」などと呼ぶのだろう? 私の中の疑問と不安は、日々大きくなっていく。 ずっと過去を忘れなかった公爵様と、山猿姫と呼ばれた子爵令嬢の幸せ婚約物語。 ※小説家になろう様でも別名義にて連載しています。

処理中です...