【序章完結】魔力が無いと言われた青年、世界唯一の地脈使いでした〜攻撃・支援・回復なんでもこなす最強の傭兵は王にのみ忠誠を誓う〜

葉桜鹿乃

文字の大きさ
2 / 14

2 『慧眼』

しおりを挟む
 謁見の申し込みをして、待合室で待たされる。用意されていた水差しから水を飲んだノアは、恐怖と緊張で乾き切った喉をやっと潤した。

 ベイクス公爵は難しい顔でソファに座り、ノアは所在なさげにその対角に座った。まだ、陛下の許可が降りていない自分は貴族だが、魔力無しとされたのだから農奴に落ちるのは確定している。

 自分の立場というのがあやふやなだけに、ノアは落ち着く事ができなかった。今後どんな人生を歩むのか、それが今から決まる。もう、ほとんど決まっているようなものだが。

 考えを巡らせているうちに「陛下がお会いになります」と案内役がきた。ノアの心臓はもはやバクバクとうるさく音を立て、目の前が回って見える。

 それでも父親の後ろをついていき、陛下の執務室で膝をついて礼をする。ちらり、とノアは国王を覗き見た。

 金髪の長い髪に、夏の濃い青空と同じ瞳をした陛下は、80歳は超えているが、見た目は20代に差し掛かったところに見える。若い整った顔立ちの男性は、仕立てのいい服に身を包み、書類から顔を上げてベイクス親子を見た。

「で、その子が『泥の血』だって? ふぅん……」

「はい。ベイクス公爵家として、ノアを勘当します」

 ベイクス家が公爵となったのはずいぶん昔だ。いずれかの代の王妹を嫁にもらい公爵となり、以後ずっと公爵家でいる。

 王族は歳をとるのが遅くとも、ベイクス公爵家はそうではない。この目の前の国王陛下とは一滴ほどは同じ血が流れているかもしれないが、彼は面白そうにノアを見つめた。

「その子を勘当するんだね?」

「は……、何か?」

「いや、構わないよ。君が要らないなら私が貰い受けるまでだ」

 その言葉にはベイクス公爵もノアも驚いて顔を上げる。農奴に落ちるべき『泥の血』のノアを、この国王は貰い受けると言い放った。

 『泥の血』は恥だ。何故それを王族……国王が貰い受けるというのか。

「ベイクス公爵、帰ってよろしい。ノア、君は残って。あぁ、ベイクス公爵……ノアを返せと言ってもダメだからね」

 あっさりと帰れと言われた上に、返品は受け付けないと言われたベイクス公爵は苦々しい顔をした。

「返していただかずとも結構。傍系から出るだけでも恥というのに、嫡男が『泥の血』などと……全ての存在経歴の抹消を願います」

「もちろん。あぁ、君のためではない、ノアの為にね。もう行ってくれ」

「……失礼致します」

 傍目から見れば傲慢な若い国王が公爵を追い出したように見えるが、国王の方が年嵩である。目下に対して正当な対応だ。

 残されたノアはまだポカンとして跪いていたが、立って、と言われて言われるがままに立ち上がった。

 国王の瞳は確かに年月を重ねた深みがある瞳で、その目を悪戯っぽく輝かせて同じくらいの背丈のノアを真近でジロジロと見ている。

「君は知っているかな。この大地……星というのだけどね、星には血管のように力の道がある。それを地脈というんだ。そして、地脈の力の強いところに、城や神殿なんかの大事な場所を建てる」

「? は、はい」

「ふっふ、うん、君は知らないね。王族には必ず魔眼が宿る。私の魔眼は『慧眼』と言ってね、まぁ、あれだ、物事の本質や力の流れを見ることができるわけなんだけど……」

 国王はノアに顔を寄せたまま、胸にトン、と指を置いた。

「君には、地脈を扱う力がある」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...