8 / 13
第8話 見舞い
しおりを挟む
大型バイクとぶつかった響だが、幸運にも骨折は無く打撲だけで済んだ。とは言っても、大事をとって入院することになった。
姫佳と相談した結果、能力者と戦って負傷したと言うと面倒になりそうだということで、階段上で転んで落ちたということにした。
「階段から落っこちるとか、ドジにもほどがあるぜ」
見舞いに来た貴志がベッドの傍の丸椅子に座って安堵の表情を浮かべつつ、呆れ顔でそう指摘する。
「そう言ってると、おまえもそうなるぞ」
「いやいや無いから!氷でできた階段じゃない限り転ばないね」
…まぁそりゃそうだ。と、響は心の中で納得する。嘘とはいえ、もうちょっとマシな理由があったのではないか。これのせいで、とってもドジなやつだと学校で思われるかもしれない。
「もう痛いから寝る。安眠の邪魔するなよ」
響はふて腐れたように体を寝かせて布団を被る。
「へーへー。またな」
貴志は困り笑いを浮かべつつ、立ち上がって病室を後にした。
貴志が出ていくと再び静寂が訪れて、響は心地よい眠気に誘われる。
コンコン
しかし、ドアをノックする音で意識が急に戻った。今度は誰だと響がドアに視線を向けると、ドアが開いて姫佳が中に入ってきた。手には紙袋を持っている。
「具合はどう?」
「まぁまぁ」
姫佳の問いかけに響は寝そべったまま簡素な返事をした。姫佳は丸椅子に座って紙袋からお菓子の入った箱を取り出した。
「はい。見舞いのお菓子」
そう言って、箱を傍にあるテーブルの上に置く。
「どうしたんだよ珍しい」
響は姫佳が見舞いの品を持ってくるなんて思いもしなかった。普段は響に対して素っ気ない態度の彼女が、今はなんだか温和な感じがする。
「あんたこそ、らしくないことしたじゃない」
珍しいという点では、響も人のことを言えない。彼も平穏をこよなく愛する性格をしていながら、姫佳を庇う場面が幾つかあった。少年の攻撃を利用した捨て身の一撃だって、普段の響からは想像がつかないものだった。
だが、唐突に訪れた強烈な非日常を前にして、響は何とかしたいと強く思ったのだ。
「別に悪くないと思うけどね」
姫佳はそう告げて、口元を緩める。…なんだかいつになく彼女の表情が穏やかなので、響は恥ずかしいようなそうでないようなよくわからない気持ちに襲われて、姫佳から目を逸らした。
「でも、無茶はだめ。体は大事にしないと」
「そうだな。俺もすごく痛感してる」
バイクにぶつかったときは無我夢中だったので痛みは感じなかったが、遅れて訪れた激痛にはやっぱり堪えた。今だってだいぶ和らいだものの、まだ痛みは残っている。
「早く良くなるといいね。じゃ、バイトに行ってくるから」
「おう。マスターによろしく」
立ち上がってドアに向かう姫佳を目で追いながら響はそう言う。…すると、姫佳が足を止めていじわるな笑みを向けてきた。
「おドジな猪苗代が階段からずっこけて入院しましたって言っとく」
「面白そうに言うな」
Sっ気を見せる姫佳に響は呆れ顔を浮かべる。嘘の理由なだけに変に広められるのは困る。
そんな響を横目に、姫佳はクスッと小さく笑いながら病室を後にした。
その頃、響に倒された少年はフラフラになりながら暗い路地裏を歩いていた。
「くそ…!くそ…!」
少年は苛立っていた。やられた上に財布も取り返されてしまい、この上ない敗北感を味わされた。せっかく高い金を出して異能の力を手にしたというのに、今の状況は非常に不愉快だ。
なんとしてでもこの敗北感を払拭したい―――少年の頭はそのことでいっぱいだった。
「ん?」
その時、前方に2人の人物がいるのを目にした。1人はスラッとした体型でサングラスをかけた男、もう1人は……少年に《アレ》を売った大柄な男だ。
大柄な男は懐から札束を取り出して、そっとサングラスの男に渡そうとしていた。…その光景を見て、少年はフッとにやけた。
『金を回収できたらこの敗北感も和らぐかな…』
すると、少年は近くにあった2つの大きなゴミ箱に触れた。
―――次の瞬間、ゴミ箱が少年から遠ざかるように勢いよく吹っ飛んだのだ。吹っ飛んだ2つのゴミ箱は猛スピードで2人の男に迫っていく。
「な、何だ!?」
気付いた大柄の男は驚愕するが
ドカッ!!
「うげっ!」
狭い路地裏の中で避ける暇も無く無残にも直撃してしまい、そのまま地面に倒れてしまった。
――しかし、少年は喜ぶどころか目を疑った。もう1人の姿が…忽然と消えたのだ。
「消えた!?」
少年が驚愕している―――その時、背後からサングラスの男が拳を振りかざし、少年の後頭部目掛けて勢いよく殴りつけた。
ゴンッ!
鈍い音と共に、少年は軽々と吹っ飛んで地面へと叩きつけられた。当たり所が悪かったようで、少年は簡単に意識を失ってしまった。
サングラスの男は地面に横たわった少年の前に行って彼を見下ろす。サングラスの奥に見える目は氷のように冷たい。
「異能の力を手にした子供がいきがるのは勝手だが…、ビジネスの邪魔をするのならば消えてもらう」
男はそう告げると、懐からサバイバルナイフを取り出して刃先を下に向けると、少年の首の真上からスッと持つ手を放した。
姫佳と相談した結果、能力者と戦って負傷したと言うと面倒になりそうだということで、階段上で転んで落ちたということにした。
「階段から落っこちるとか、ドジにもほどがあるぜ」
見舞いに来た貴志がベッドの傍の丸椅子に座って安堵の表情を浮かべつつ、呆れ顔でそう指摘する。
「そう言ってると、おまえもそうなるぞ」
「いやいや無いから!氷でできた階段じゃない限り転ばないね」
…まぁそりゃそうだ。と、響は心の中で納得する。嘘とはいえ、もうちょっとマシな理由があったのではないか。これのせいで、とってもドジなやつだと学校で思われるかもしれない。
「もう痛いから寝る。安眠の邪魔するなよ」
響はふて腐れたように体を寝かせて布団を被る。
「へーへー。またな」
貴志は困り笑いを浮かべつつ、立ち上がって病室を後にした。
貴志が出ていくと再び静寂が訪れて、響は心地よい眠気に誘われる。
コンコン
しかし、ドアをノックする音で意識が急に戻った。今度は誰だと響がドアに視線を向けると、ドアが開いて姫佳が中に入ってきた。手には紙袋を持っている。
「具合はどう?」
「まぁまぁ」
姫佳の問いかけに響は寝そべったまま簡素な返事をした。姫佳は丸椅子に座って紙袋からお菓子の入った箱を取り出した。
「はい。見舞いのお菓子」
そう言って、箱を傍にあるテーブルの上に置く。
「どうしたんだよ珍しい」
響は姫佳が見舞いの品を持ってくるなんて思いもしなかった。普段は響に対して素っ気ない態度の彼女が、今はなんだか温和な感じがする。
「あんたこそ、らしくないことしたじゃない」
珍しいという点では、響も人のことを言えない。彼も平穏をこよなく愛する性格をしていながら、姫佳を庇う場面が幾つかあった。少年の攻撃を利用した捨て身の一撃だって、普段の響からは想像がつかないものだった。
だが、唐突に訪れた強烈な非日常を前にして、響は何とかしたいと強く思ったのだ。
「別に悪くないと思うけどね」
姫佳はそう告げて、口元を緩める。…なんだかいつになく彼女の表情が穏やかなので、響は恥ずかしいようなそうでないようなよくわからない気持ちに襲われて、姫佳から目を逸らした。
「でも、無茶はだめ。体は大事にしないと」
「そうだな。俺もすごく痛感してる」
バイクにぶつかったときは無我夢中だったので痛みは感じなかったが、遅れて訪れた激痛にはやっぱり堪えた。今だってだいぶ和らいだものの、まだ痛みは残っている。
「早く良くなるといいね。じゃ、バイトに行ってくるから」
「おう。マスターによろしく」
立ち上がってドアに向かう姫佳を目で追いながら響はそう言う。…すると、姫佳が足を止めていじわるな笑みを向けてきた。
「おドジな猪苗代が階段からずっこけて入院しましたって言っとく」
「面白そうに言うな」
Sっ気を見せる姫佳に響は呆れ顔を浮かべる。嘘の理由なだけに変に広められるのは困る。
そんな響を横目に、姫佳はクスッと小さく笑いながら病室を後にした。
その頃、響に倒された少年はフラフラになりながら暗い路地裏を歩いていた。
「くそ…!くそ…!」
少年は苛立っていた。やられた上に財布も取り返されてしまい、この上ない敗北感を味わされた。せっかく高い金を出して異能の力を手にしたというのに、今の状況は非常に不愉快だ。
なんとしてでもこの敗北感を払拭したい―――少年の頭はそのことでいっぱいだった。
「ん?」
その時、前方に2人の人物がいるのを目にした。1人はスラッとした体型でサングラスをかけた男、もう1人は……少年に《アレ》を売った大柄な男だ。
大柄な男は懐から札束を取り出して、そっとサングラスの男に渡そうとしていた。…その光景を見て、少年はフッとにやけた。
『金を回収できたらこの敗北感も和らぐかな…』
すると、少年は近くにあった2つの大きなゴミ箱に触れた。
―――次の瞬間、ゴミ箱が少年から遠ざかるように勢いよく吹っ飛んだのだ。吹っ飛んだ2つのゴミ箱は猛スピードで2人の男に迫っていく。
「な、何だ!?」
気付いた大柄の男は驚愕するが
ドカッ!!
「うげっ!」
狭い路地裏の中で避ける暇も無く無残にも直撃してしまい、そのまま地面に倒れてしまった。
――しかし、少年は喜ぶどころか目を疑った。もう1人の姿が…忽然と消えたのだ。
「消えた!?」
少年が驚愕している―――その時、背後からサングラスの男が拳を振りかざし、少年の後頭部目掛けて勢いよく殴りつけた。
ゴンッ!
鈍い音と共に、少年は軽々と吹っ飛んで地面へと叩きつけられた。当たり所が悪かったようで、少年は簡単に意識を失ってしまった。
サングラスの男は地面に横たわった少年の前に行って彼を見下ろす。サングラスの奥に見える目は氷のように冷たい。
「異能の力を手にした子供がいきがるのは勝手だが…、ビジネスの邪魔をするのならば消えてもらう」
男はそう告げると、懐からサバイバルナイフを取り出して刃先を下に向けると、少年の首の真上からスッと持つ手を放した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ムーンショットを止めろ!
白い月
ファンタジー
火明星(ほあかりぼし)に他の星からの進軍と捉えられる程の転生者(ムーンショットをした人)が舞い降りた。
転生者を食い止めるためミハエル=シュピーゲルや水鏡冬華他は、転生者が湧きてでいる遺跡に向かう。
が、時々恋愛模様どしゃ降りになるのは誰にも分からない。
地球から遠く離れた火明星(ほあかりぼし)。電気ではなく魔導製品が発達した星。魔導のインターネットすら整備されている。そんな星の一幕である。
BLACK DiVA
宵衣子
ファンタジー
悪に染まった友達を止めるためにヒロインが奔走するお話です。(たぶん。笑)
更新不定期です。
多忙のため、何話か書き溜めて連続更新って形になるかと思います。
何話か更新したら間が結構空いてしまうと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです(^^)
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
彗星の降る夜に
れく
ファンタジー
少年「レコ」はある日親友の家で凄惨な現場を目撃してしまう。荒らされた家、血塗れの壁、そして居なくなった親友…。レコは親友を探すため、自ら苦境に手を伸ばしていた。
「彗星の降る夜に、彼らは必ず応えてくれる」
(*2022/05/12 全編完結済みです、ありがとうございました!今後も扉絵/挿絵は随時追加していきます!)
魔導兇犬録:哀 believe
蓮實長治
ファンタジー
そこは「この現実世界」に似ているが様々な「異能力者」が存在し、科学技術と超常の力が併存する平行世界の近未来の日本。
福岡県久留米市で活動する「御当地魔法少女」である「プリティ・トリニティ」は、日頃の活躍が認められ地元自治体の広報活動にも協力するなど順風満帆な日々をおくっていたのだが……。
ある日、突然、いつもと勝手が全く違う血飛沫が舞い散り銃弾が飛び交うスプラッタで命懸けの戦闘をやらされた挙句、サポートしてくれていた運営会社から、とんでもない事を告げられる。
「ごめん……親会社が潰れて、今までみたいに『怪人』役の手配が出来なくなった……」
「えっ?」
なんと、運営の「親会社」の正体は……彼女達の商売敵である「正義の味方」達が、つい最近、偶然にも壊滅させた暴力団だったのだ。
果たして彼女達が選ぶのは……廃業して収入を失しなう奈落への道か? それとも「台本無し・命懸け・今までのイメージぶち壊し」の地獄の三位一体か?
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)
この小説の執筆にあたり、下記を参考にしました。
体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉: 伊藤亜紗(著)/文藝春秋社
武術に学ぶ力の発揮:https://ameblo.jp/hokoushien/entry-12013667042.html
剣術の基本。:https://hiratomi.exblog.jp/20897762/
映画「フィールズ・グッド・マン」アーサー・ジョーンズ監督
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる