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妖怪と少年と
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あれから日没までに十数人ほどが門をくぐった。
合格者は先着順で十二名。たとえ諦めなかったとしても、早い決断が時には必要だと弓御前は言った。長く迷った者はみな不合格だった。
ここから厳しい修練を積み、勉強に励み、一流の舞人として所作をしっかり身に付けるまでに半数以上が脱落する。
一人も舞人になれなかった年もあり、一年経って見込みなしと判断されれば追放となる。また、在学中であればたとえ貴族から見初められようとも『未熟』として認められることはない。謡舞寮の名を守るためである。
十二名の新入生は、初日に大部屋に集められ、まず寝起きする部屋を割り振られた。二人部屋である。
「あたしと同じ部屋だね、よろしくセナ」
セナはりつと相部屋になった。
「よろしく……」
静乃はサギリと同じ部屋である。
「よろしくね、サギリちゃん」
「ちゃん……よ、よろしく」
弓御前がみんなに向かって言った。
「今日からあなたがたは謡舞寮の生徒です。帝のご期待を一身に受け、この学び舎の看板を背負っていると自覚なさい」
謡舞寮で学ぶ娘たちを『生徒』と呼ぶ。
京の都には、大学寮という教育施設があり、そこで学ぶ者を『学生』と呼んで区別していた。多くの学生は公家や有力武士の子弟たちである。
翌朝、寮部屋の前には修練用の紺色の装束が置かれていた。袖と裾が短く動きやすい。ここでの制服である。
「御前様ってさ、帝の師匠らしいよ」
りつは着替えながら言った。弓御前は謡舞寮の長官にあたる。
「師匠?」
「歌と舞のお師匠様さ。隠居暮らしだったのを、帝が直々に弟子にしてくれって頼んで都に招いたんだって」
「……そう」
弓御前――セナにとって今まで会ったことのない種類の人間だった。
老女なので腕っぷしの強さはないが、不思議と威風が備わっている。背筋は巨木のように、歩みは水面を流れる笹の葉ように、まったく淀みがない。
帝が自ら招くほどの舞人ならば、日ノ本一だろうか。そんなことを思った。
修練の広間に集められた生徒たちの前に、弓御前が立つ。
「しばらくは身体作りのため、毎朝、走り歩きの修練をおこなう。朱雀大路を通って羅城門まで行き、そこにいる女官に証明書きをもらって戻って来た者から朝餉を摂ってよい」
「ええっ、これから!?」
すっかり空腹だったりつは思わず声を上げた。弓御前は睨む。
「本来であれば、食事の支度も自分たちでせねばならぬ。帝の舞人たることは、己が心身を律すること――。早く飯にありつきたければ、速く走れるようになればよいのです。行きなさい!」
娘たちは蜘蛛の子を散らすように大部屋から駆け出した。
朱雀門から羅城門までの距離は三十五町(約4キロメートル)になる。往復となれば大人の足でも徒歩で一刻(約2時間)以上はかかる。
セナたちは並んで朱雀大路を駆けた。しかし、サギリが少し遅れる。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
四分の一ほど行ったところで、その場にへたり込んだ。
「なんだよ、だらしないなあ」りつは足を止めて振り返った。
「仕方ないでしょ、こんな修練があるなんて聞いてない!」
「あたしは田植えで鍛えられてるからね」
「だ、だからそんなに足が太いのよ」
「うるさいな、走れないよりいいだろ。さ、立てるか?」
りつはサギリの背中をさすってやった。その額には玉のような汗が浮かんでいる。静乃も頬を赤く染め、口で息をしている。
「ふう……セナは平気そうね?」
「慣れてるから」
セナだけが涼しい顔である。鬼童丸の命令では、野鳥よりも速く情報を届けなければならなかった。一日中ずっと駆け続けたこともある。
「私もけっこう自信あったけど、いざ走ると大変ね。ご飯、入るかなあ」
「入るよ……たぶん」
この程度の距離など文字どおり朝飯前だったが、全力を出して目立つワケにもいかない。
真の目的は帝の暗殺なのだから――。
サギリに合わせて走ると、羅城門到着時点で一刻が経とうとしていた。
「ほれ、証明書きじゃ。なくせばメシ抜きであるぞ。ふああ」
羅城門にいた担当女官は大あくびをした。ずいぶんと待ったらしい。
「や、やっと半分か……これが毎日……うへえ」
さすがのりつも顔が引きつる。サギリはすでに抜け殻だった。
「大丈夫、きっと慣れるよ。がんばろ?」
静乃は持ち前の愛らしい笑みを向けた。りつもサギリも子供のように頷く。
遅れて他の生徒たちもやって来た。みんな息も絶え絶えだった。
そんな中、セナは羅城門を通る人の流れに、見覚えのある行商人を見つけた。背中に千駄櫃を背負っている。流れの薬売りらしい。
「みんな、先に行ってて」セナは行こうとした。
「どこ行くんだ?」りつが呼び止める。
「ちょっと、そこまで」
セナは返事を待たずに一人離れた。
「……アンタって、ほんとガサツね」
りつはサギリの言葉の意味がわからなかった。
薬売りの少しだけ後ろを歩いたセナは、その背中に小さく声をかける。
「ホオヅキ」
鼻から下を隠した覆面顔。はたしてホオヅキだった。ホオヅキは振り返ることなく歩みを緩め、まわりの様子を眼球の動きだけで確かめる。
「うまく潜入できたようだな」
「うん。これからどうする?」
「謡舞寮の屋敷を調べろ。お頭の命令だ」
「謡舞寮? 大内裏じゃなくて?」
「ああ、俺たちが思う以上に謡舞寮は重要だそうだ」
「わかった」
セナとホオヅキは、一度も視線を合わせずそのまま別れた。
セナは静乃たちに追いつくべく、全力で走った。人の流れをたくみに避け、大あくびをしていた女官の背後をすり抜ける。女官は風が吹いたぐらいにしか思わず、また大あくびを一つ拵えた。
謡舞寮に戻るころには、すっかり日は昇っていた。全員が戻るには二刻もかかった。遅い朝餉。ほぼ昼餉になっている。
生徒たちは食堂に集まった。屋敷の中に食事専用の施設があるのは珍しい。それも厨房と隣接している。かなり規模が大きい。
「うう~、食欲ない」
サギリは青ざめた顔で、漆塗りのお膳を見る。ほかの生徒たちも同じだった。
「食べないとチカラ出ないぞ?」
「りつ……アンタが羨ましいわ」
「白米が食べられるんだ。こんなに嬉しいことはないよ。うちでは米作ってたけど、ぜんぶお上に召し上げられて麦ばっかり食べてたから」
「わ、わかってるわよ、そのぐらい」
サギリは炊き立てのご飯を口にした。ほのかな甘みと極上の柔らかさ。まったくなかった食欲が沸いてきて、パクパクと箸が進む。
「あわてるなよ」
「うるさい」
その様子を見て、静乃は微笑んだ。
「白米なんて久しぶり……美味しいね、セナ」
「うん」
セナも久しぶりの白米がたいそう美味く感じた。
鬼童丸のもとで食べた白米は、支配下の村々から納められた物だ。本来なら都に納める物をごまかし、隠し、盗んだ物になる。都に納められた米はとても上質で、鬼童丸に献上された物は少し質が落ちる物だと気付いた。
が、今は、目の前の任務だけを考えなければ――。
※
草木も眠る丑三つ時。
セナは目を開けた。隣ではりつがぐっすり寝入っている。
束ね上げた髪の毛に黒い笄を挿し、静かに部屋から出ると、夜空には朧月が潤んだ光をはなっていた。
周囲に気配はない。門には篝火が焚かれ、不寝番の衛士が立っている。彼らの隙を見計らって、謡舞寮の屋敷を奥へと進んでいく。
謡舞寮には、歌と舞の修練場となる本殿と、食堂と合体した宿舎、そして弓御前の私邸の三つの建物が敷地内に存在する。
白砂を踏んで音が立つのを避け、軒下を素早く移動した。塀の外に枝がせり出した巨大な松の木に登る。
全体を見渡すと、特別変わった様子はない。日中に見た本殿の間取りと、外観の形状を頭の中で比べてみても、隠し部屋があるような場所はなかった。
「あとは弓御前の屋敷か……」
セナはふと振り返って、京の都を一望した。愛宕山にある鬼童丸の根城から見える景色とは違う。民家や屋敷といった人の営みが鮮明に見える。
そして、大内裏――夜でも多くの炬火を焚き、煌々と夜を照らしている。
あの奥深くに、倒すべき大妖怪がいる――。
何やら人影がサッと動いた。人影は弓御前の屋敷の裏手に消えた。
「気配を殺してた……何者……?」
セナは高い松の木から飛び降り、着地の瞬間に前転して衝撃を逃がすと走りながら体勢を立て直した。まさに猫のような身のこなしだった。
植込みに身を隠し、辺りを窺う。遠くで犬が鳴いている。
(行くか……)
黒い笄を髪の毛から抜き取り、手の中に隠し持った。
屋敷の裏手に回り込み、渡り廊下から侵入した。池を配した中庭が見える。水面には朧月を映し込んでいる。部屋がいくつもあり、どこにあの人影が忍んでいるかわからない。
セナは意識を鋭くし、気配を殺して歩く。
もっとも大きな部屋の明かり障子を開け、中を覗き込む。ひときわ立派な御帳(天蓋付きのベッドのこと)があり、そこに弓御前が寝ていると思われる。
それにしても、かなり豪奢な御帳である。帝の寵愛の深さがわかる。
本当に弓御前の部屋かどうか確かめるため、天蓋から下りた薄布の帳をそっと開けて覗き込む――と、セナはギョッとして思わず飛び退いた。
帳の向こうで、座禅を組んだ弓御前が、こちらを見ていたのである。
(まさか、気付いていたのか……)
セナは覚悟した。が、反応がない。
恐る恐るまた覗き込むと、弓御前は先ほどから微塵も動かず、静かに寝息を立てている。なるほど、これが彼女の寝姿らしい。
(目を開けて寝てる……座ったまま……恐ろしい)
セナはホッと安堵する一方、見てはいけないモノを見た心地になった。
これで屋敷の間取りと、夜間の弓御前の居場所はわかった。
(……アレは?)
寝室の隣に、もう一つ大きな部屋があることに気付く。そっと近づく。
すると、いきなり明かり障子が開いた。セナはあわてて飛び退き、背後に面した中庭の軒下に身を隠す。
障子を開けた何者かは夜の闇に消えた。
(この部屋に誰かが忍び込んだ……?)
セナは周囲を確かめ、調査のために部屋に入った。
中は真っ暗――のはずが、月の光を受けてぼんやりと輝く何かがある。
そこには、太陽を模した天冠、白綾の狩衣、薄色の袴が――まるで一人の舞人が纏っているかのように飾られていた。夜の中でも輝きを失わず、ひっそりと部屋の中にあった。
(綺麗……でも、どうしてこれだけこんなところに……)
そのとき、部屋の外から声がした。セナはとっさに舞装束の後ろに隠れる。
「おい、見つかったか?」
夜間警備の衛士らしい。セナは息を止め、闇に溶けて存在を無にした。松明の橙色の光に地面が照らされ、衛士の足音がこちらに近づく。
「いいえ、逃げられました」
もう一人、別の若い衛士が答える。
「異変はありませんが、とにかく報告を」
「いや……このことは忘れろ」
「なぜです?」
「猫一匹でも侵入を許したと知られれば、家族のクビも六条河原に並ぶぞ」
「ひっ……」
「明日から見回りを強化する。今夜はまばたきするなよ?」
「は、はいっ」
衛士たちは去って行った。気配の移動を察して、セナは部屋から出た。
「まずいな……しばらくおとなしくするか」
セナは自室に戻った。そっと寝床に入るとりつが話しかけて来た。
暗闇の中、声だけがする。
「どこ行ってたんだ?」
「……かわや(トイレのこと)」
「そっか。なあ、セナ……ありがとな」
「何のこと……?」
「セナのおかげで、あたしは謡舞寮に入ることが出来た。あのときセナが諦めなかったから、あたしも諦めないでいられた。そのお礼」
「私は別に……何も」
「そんなことない。セナがいなかったら今ごろ村に戻って隠れて泣いてた。そんで死ぬまでノラ仕事。誰かの嫁に行って、子供産んで……」
「……嫌?」
「そうじゃない。ただ、あたしには夢があるから」
「夢?」
「親父が誉めてくれた歌で、みんなを楽しませたい。セナの夢は?」
「私は……」
何もない。考えもしなかった。ただ、目の前の『使命』を果たすのみだ。
「ない。でも、舞人にはなる。それだけ」
「ふうん……舞人になって、どうしたいってのは?」
「……」妖怪を殺す――とは言えなかった。
「ま、いいさ。夢も後から見つければいい。さ、寝よう」
セナは、真っ黒な天井をしばらく見つめていた。
ひと月後――毎朝の走りの修練にもみんな慣れて来た。謡舞寮から出て戻るまで、全員が一刻を切るようになったのである。
だが、本格的な舞の修練にはまだ入っていない。食事の支度や掃除、貴人を前にした礼儀の習得が続き、みんな少し飽き始めていた。
くわえて、この座学――。
「舞には二つの姿があります」
筆頭女官・望月による『お勉強』である。
「まず一つは文舞――ゆったりと雅な調べに乗り、その身で『陰』を体現せしめる静かな舞」
次に、と望月は続ける。
「もう一つは武舞――強く雄々しい調べに乗り、その身で『陽』を体現せしめる激しき舞」
そして、と望月は語調を強めた。
「陰と陽が合わさる時、天女の舞が顕現するという――」
しかし、セナは頭の左半分で講義を聞き、右半分で別のことを考えていた。
あの夜、弓御前の屋敷に侵入した者は一体何だったのか。
外から侵入するには高い塀を越えねばならず、身体一つではとうてい難しい。謡舞寮の周りにはつねに警備の衛士が巡回している。自分でも困難を極める。
では、内部の人間か――?
セナはそれとなく生徒たちを見渡した。みんな、だらけている。朝の修練を終えて腹いっぱい食べたとあって、あくびがそこかしこで起こった。
隣ではりつが慣れない勉強に頭を抱え、サギリもうつらうつら。静乃は変わらず凛とした姿勢で講義を聞いているが、時おり小さなあくびを一つ。
この中にいるとは思えない。だとすると女官たちになるが。
「――喝!!!!」
突然、望月が怒鳴った。みんなビクリとして目を覚ます。
「何たる態度かお前たちは! なにゆえ入門できたか忘れたか!」
全員の背筋がピンと伸びる。少し遅れて目覚めたサギリもよだれを拭って、何やら怖い雰囲気を察して身を縮めた。
「ゆめゆめ忘れるな――入門叶っていざ漕ぎ出したお前たちの舟は、叶わなかった者たちの涙の海に浮いていることを」
「涙の海……」
セナはその言葉が妙に印象に残った。
試験の日、さまざまな想いを抱いてみんな謡舞寮の門を叩いたはずだ。自分がここにいる一方で、涙を流した者がいる。セナは隣のりつを盗み見た。
セナが諦めなかったから――。
違う、そうじゃない。諦めなかったわけじゃない。そうするしかなかっただけだ。だから本当は、入門する資格なんてなかった。セナはそう思った。
望月は、よいか! と強く言った。
「これより謡舞寮に帝がおいでになる。お前たちは光栄にもお言葉を賜るのだ」
帝が来る――。生徒たちはざわつく。
「だまらっしゃい! ともかく粗相のないように」
座学はそこで終わり、それぞれの部屋に戻った。
セナたち四人は静乃とサギリの部屋に集まった。
「なあ、帝だってさ。どうする?」
「どうするって……ねえ?」
りつのふわふわした問いを、サギリが受け流す。
「帝は日ノ本で一番偉いお方よ。きっとお顔を見ることもかなわないわ。本来なら御簾の向こうにおられる方だから。もし覗き見たら……」
静乃の脅かすような口ぶりに、りつもサギリも青ざめた。
「そ、そんな帝が何しに来るんだ?」
「謡舞寮は帝がお作りになったのよ? 別に不思議じゃないわ。それに弓御前さまは帝のお師匠なのだから」
「えーっ、そうなの!?」
「何だぁ? 知らなかったのかぁ?」
りつは鼻で笑いながらサギリを見る。
「し、知ってるからってエライっていうの!?」
「別にぃ……なあ静乃、帝はよく来るのかな?」
「さあ、それは私にも。でもどうして?」
「いや、ちょっと気になっただけさ」
「あっ、さてはアンタ! 帝に媚び売って抜け駆けする気ね!?」
サギリはりつに詰め寄った。
「ばっ、バカ言うな! そんなことしないよ。なあ、セナ……セナ?」
セナは心ここにあらず。思わぬ好機の到来に少し戸惑っていた。
さて、どうするか――帝を殺せる絶好の機会だ。しかし、ホオヅキに知らせて鬼童丸の指示を仰ぐ時間はない。黒い笄ならば、かすり傷一つでも付ければ仕留められるはずだが、ここでやってしまっていいものか。
その時は、みんなの前で帝を襲う必要がある。
(あとのことは考えてもムダ……帝を殺すことが目的……そうだ)
セナは心の中で呪文のように繰り返す。
「おい、セナ!」
やっと気付いてセナは顔を上げた。
「なに?」
「なにって……こっちの台詞だよ」
「さては、寝てたわねェ!」
サギリは得意げに言った。静乃は無言で見つめる。
「サギリ、あんたじゃないんだから……ま、とにかく行こうか」
りつは腰を上げた。サギリも、なによぉ、と言いながら立った。
※
生徒たちは白砂の庭に集められた。試験会場にもなった場所である。
みんなそわそわしていた。望月たち女官も顔が強張っている。
その頃、謡舞寮の前の路地を、ゆっくりと進む行列があった。
先頭には、十四人の力者(担ぎ手)の肩に担がれ、数多の衛士に守られた帝の輦輿(乗り物)があった。金粉を塗った屋根に宝玉の装飾、屋形の窓の四方には簾がかかっている。
ちなみに、帝は車輪のついた牛車には乗らない。こうして人が担いだ輦輿で移動をする。牛車に乗るのは主に公家たちである。
行列は一歩ずつ、一歩ずつ、謡舞寮に向かって進んだ。
回廊から弓御前がその白頭巾姿を見せた。
「畏れ多くも帝のご到着です。みなの者――心せよ!」
弓御前の発声が、生徒たちの呼吸の乱れをキリリと正した。不思議と空気が冷たく感じる。
そして、帝が姿を現した――。
「あれが……妖怪」
その容姿は、つるりと剃ったハゲ頭、真四角の顔、ギョロリと剥いた目玉、拳が入るほど大きな口、背は高くないが芯の通った立ち姿、純白の生地に金の鳳凰の刺繍を施した豪奢な法衣――だった。
そして、そのすぐ後ろに一人の巨漢を、随身(ボディーガードのこと)として連れている。素朴な顔立ちだが、全身の筋肉が盛り上がってまるで鎧を着込んだような体躯。帝のそばにも関わらず、まさかりを担いでいる。
帝はこの巨漢一人だけをお供として、謡舞寮を訪れたのだった。
(鬼童丸は、日ノ本が震えあがる大妖怪だと言っていた……けど)
そのようには見えない。威風は備えているが、強そうでもない。
「面を上げよ」
帝の第一声はこうだった。みんな、伏せていた顔を恐る恐る上げる。
帝は満面の笑みを浮かべ、ギョロギョロの目を生徒たちに向ける。
「お前たちは、万里の国を知っておるか?」
むろん返事はない。が、帝はかまわず続ける。
「海の向こうの大陸である。そこにかつて斉という国があった。あるとき緜駒という歌上手が、街にいながらにして国の半分を歌で魅了したという。もし、緜駒が京の都にいたらどうであろうか――この問いの意味がわかるか?」
生徒たちは戸惑うばかりである。
「そこのお前、どう思う?」
帝が視線を向けたのは、遠巻きに控えていた一人の女官だった。まさか自分が指されるとは思わず、女官は冷や汗をかいて慌てる。
「は、はい……ええと」
「遅いのう……五、四、三、二」
帝は数を数えはじめた。女官は青ざめながら答える。
「こ、こ、この世の広さがわかります……!」
「その心は?」
「大陸の半分を魅了するとなれば、この日ノ本はすべて魅了されるでしょう」
「うむ、なぜだ?」
「それは……」
「なぜかと聞いておる」
冷たい沈黙が訪れた。必死に考えていた女官だったが、何と答えても正しいと思えず脂汗が白砂に垂れ落ちる。緊張が頂点に達した。
「ワッハッハッハッハ! 惜しいのう! あと少しで正解だのに!」
帝は大笑した。が、女官ホッとしたのもつかの間、笑い声がピタリとやむ。
「その答えでは五分だ……謡舞寮の女官がそれでは困る。弓御前よ」
「はい」
「あの者に暇を出す。わし好みの答えに免じて郷里の家族に会わせてやろう」
「……はい」
それを聞いた女官が、白砂の庭を駆けて帝の前でひざを突いた。
「お待ちください! それだけは何とぞ! お許しください!」
「蛾王」
帝はぼそりと言った。蛾王と呼ばれた巨漢は、無言で回廊の階段を下り、女官の着物を指でつまんで軽々と持ち上げた。そして、そのまま塀の外に向かって空高く放り投げてしまう。外では衛士たちが控えていた。
その様子を、生徒たちは引きつった顔で見ていた。
セナは、帝が妖怪と呼ばれる所以の一端を垣間見たことを知り、さらにあの蛾王という難敵の存在を知った。
(うかつに手が出せない……あの男をどうにかしないと)
「悲しいことじゃ……」
帝は、自分がしたことにも関わらず、心底悲しそうに眼を伏せた。
「謡舞寮はのう、我が分身と同じである……弓御前よ」
「はい」
「謡いの稽古は少し休んでからでよいか?」
「ええ、そういたしましょう。では、奥の御殿に」
帝が去ろうとした時、生徒たちの中から声が上がった。
「畏れながら申し上げます!」
静乃だった。これは、前代未聞である。生徒の身分で帝に声をかけるなどあってはならない。公家の中でも高位の『公卿』でさえやらないことである。
弓御前がキッと睨むのを、帝は自らの手で制した。
「……なんじゃ?」
「残り五分は何なのでしょうか。お聞きしたく存じます」
「ふむ、その意気込みは良し。だが、答えとは与えられるモノにあらず」
「……」
「精進いたせ。そちの無礼、嬉しく思う。ゆえに目をつむる」
帝は蛾王をともなって、弓御前と一緒に奥の屋敷に消えた。
※
その日の夜更け、謡舞寮の近くでは、行商に扮したホオヅキが様子を窺っていた。
セナと連絡を取るために来てみれば、凄まじい光景が広がっていた。
「チッ、なんて数だ」
物々しい警備である。松明を持った甲冑姿の衛士がずらりと並び、謡舞寮の塀を隙間なく固めている。近いうちに帝が謡舞寮を訪れるという情報を苦労して掴んだものの、まさか今日だとは思わなかった。
「帝の気まぐれには困ったものだが……さて」
衛士の数を数えるまでもなく、忍びこめる隙はない。
「以前の倍はいるぞ……何故だ――それに」
それに、謡舞寮に宿泊するとは思わなかった。
以前までは、昼に謡いの稽古を終えると大内裏にある清涼殿に戻っていた。それが今日は帰る気配がない。衛士たちも不寝番の態勢である。
「ということは、弓御前の屋敷に泊まるのか……だが、御前はかなりの高齢。男女の仲とも思えないが……」
ホオヅキは顔を覆った布をずらし、皓々と輝く月を見上げる。その頬には生々しい傷跡が左右の頬に広がっていた。
「セナのヤツ、早まってくれるなよ……」
夜更け――セナはりつが寝入ったのを確かめると部屋を出た。束ねた髪に黒い笄を挿し、夜の闇をまとって謡舞寮の敷地を黒猫のように駆けた。
目的は、弓御前の屋敷である。
(あの白い舞装束があったのが……帝の部屋ってことか……)
今宵、帝がそこにいるのはわかっている。
寝所に忍び込み、笄で突き刺せば、日ノ本を支配する大妖怪は死ぬはずだ。
弓御前の屋敷のそばまで来た。不思議とふだんの警備と変わりがない。昼間のことを考えると、謡舞寮に兵士を入れたくないのだと思われる。
だが、一つだけ違う。帝の部屋の前に例の巨漢――蛾王の姿が――。
蛾王は起きているのか眠っているのか、巨木のように立ち尽くしている。
(護衛はたった一人だけど、それだけで十分ということか……)
どうする――蛾王と戦っている間に帝に気付かれる可能性がある。それに蛾王を殺せても、自分もタダでは済まないだろう。
(死なばもろとも……か)
妖怪に傷をつけさせすれば、使命は果たせる。後のことなんか考える必要はない。たとえ捕まろうと、蛾王に絞め殺されようと、関係ない。
蛾王は巨体だ。この身の素早さをもってすれば、寝所に突入できる。
(よし……)
セナは死を覚悟して、大きく息を吸った。
そして、止める――その瞬間、背後から声がした。
「やめたほうがいいよ」
驚いて飛び退くと、そこには見知らぬ一人の少年がいた。
セナは黒い笄を抜いて構える。まったく気配に気付かなかった。
「あの蛾王という男はね、寝ないんだ。普段から頭の半分を寝かせて、半分で起きていられるから眠る必要がない。だから、あの男に隙はない」
「……誰」
「僕の名前はシュウジン――傀儡師だよ。見習いだけどね」
「くぐつし……」
ほら、と言って少年は足元に置いていた木偶人形を持ち上げる。腕や足の節まで精巧に造られた人形は、糸で操作するものだった。
シュウジンという少年は木偶人形を操り、おどけた仕草をしてみせた。
「僕はふだん大学寮で学んでいる。もとは君たち舞人も同じだったけど、十年以上前に謡舞寮ができて別れてしまった」
「そんなあなたが、なぜここに?」
「君を見かけたからさ」
「私を……?」
「謡舞寮をこっそり見学しようと来てみたら、今にも帝を殺そうとしている子がいたからね」
「どうしてそれを」
「目を見ればわかる」
雲間から月明かりが降り注ぐ。光に照らされたシュウジンは、微笑をたたえて何とも優しげな顔をしていた。年齢は同じか少し上に見える。
「それで、私をどうする気?」
「別に、何も」
「え……?」
「帝の命を狙う人間は多い。一人増えたところで蛾王がみんな殺してしまうさ。だから止めに来た。命を粗末にするなってね」
「それだけ?」
「うん。他に何かあるかい? 素性を聞いたところで話す気はないんだろ? だから聞かない、何もしない」
「そう……だけど、私にはあなたを殺すことができる」
セナは黒い笄の切っ先をシュウジンに向けた。
「なるほど……それは思いつかなかった」
シュウジンは糸を手繰り、木偶人形の両手を広げた。無防備である。この距離なら一足で飛び込んで胸をひと突きできる。
しかし、頭の中で殺しの想像をしてみるものの、どうしてか実感が湧かない。まるで水面に映った虚像でも相手にしている心地になる。このまま刺したところで殺せないような気がしてきた。こんな感覚は初めてだった。
セナは黒い笄を収めた。
「やらないのかい?」
「ここで死体の始末はできない。だからあなたを殺さない」
「見逃がしてくれるの?」
「違う。取引。これは二人だけの秘密」
シュウジンは何が可笑しいのか、ニッコリと、でも儚げに笑った。
「約束しよう。死が二人を分かつまで、今宵のことは誰にも言わない」
「……?」セナは首をかしげる。
「さあ、君も」
「……死が二人を分かつまで……今宵のことは誰にも言わない」
シュウジンはまた微笑を浮かべた。
「よし。じゃあ、頑張って舞人になるといい。いずれ帝を殺せる好機が来るかもしれない。その時には、僕は目をつむっていよう」
じゃあね――シュウジンは、それだけ言って夜の闇に消えた。
合格者は先着順で十二名。たとえ諦めなかったとしても、早い決断が時には必要だと弓御前は言った。長く迷った者はみな不合格だった。
ここから厳しい修練を積み、勉強に励み、一流の舞人として所作をしっかり身に付けるまでに半数以上が脱落する。
一人も舞人になれなかった年もあり、一年経って見込みなしと判断されれば追放となる。また、在学中であればたとえ貴族から見初められようとも『未熟』として認められることはない。謡舞寮の名を守るためである。
十二名の新入生は、初日に大部屋に集められ、まず寝起きする部屋を割り振られた。二人部屋である。
「あたしと同じ部屋だね、よろしくセナ」
セナはりつと相部屋になった。
「よろしく……」
静乃はサギリと同じ部屋である。
「よろしくね、サギリちゃん」
「ちゃん……よ、よろしく」
弓御前がみんなに向かって言った。
「今日からあなたがたは謡舞寮の生徒です。帝のご期待を一身に受け、この学び舎の看板を背負っていると自覚なさい」
謡舞寮で学ぶ娘たちを『生徒』と呼ぶ。
京の都には、大学寮という教育施設があり、そこで学ぶ者を『学生』と呼んで区別していた。多くの学生は公家や有力武士の子弟たちである。
翌朝、寮部屋の前には修練用の紺色の装束が置かれていた。袖と裾が短く動きやすい。ここでの制服である。
「御前様ってさ、帝の師匠らしいよ」
りつは着替えながら言った。弓御前は謡舞寮の長官にあたる。
「師匠?」
「歌と舞のお師匠様さ。隠居暮らしだったのを、帝が直々に弟子にしてくれって頼んで都に招いたんだって」
「……そう」
弓御前――セナにとって今まで会ったことのない種類の人間だった。
老女なので腕っぷしの強さはないが、不思議と威風が備わっている。背筋は巨木のように、歩みは水面を流れる笹の葉ように、まったく淀みがない。
帝が自ら招くほどの舞人ならば、日ノ本一だろうか。そんなことを思った。
修練の広間に集められた生徒たちの前に、弓御前が立つ。
「しばらくは身体作りのため、毎朝、走り歩きの修練をおこなう。朱雀大路を通って羅城門まで行き、そこにいる女官に証明書きをもらって戻って来た者から朝餉を摂ってよい」
「ええっ、これから!?」
すっかり空腹だったりつは思わず声を上げた。弓御前は睨む。
「本来であれば、食事の支度も自分たちでせねばならぬ。帝の舞人たることは、己が心身を律すること――。早く飯にありつきたければ、速く走れるようになればよいのです。行きなさい!」
娘たちは蜘蛛の子を散らすように大部屋から駆け出した。
朱雀門から羅城門までの距離は三十五町(約4キロメートル)になる。往復となれば大人の足でも徒歩で一刻(約2時間)以上はかかる。
セナたちは並んで朱雀大路を駆けた。しかし、サギリが少し遅れる。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
四分の一ほど行ったところで、その場にへたり込んだ。
「なんだよ、だらしないなあ」りつは足を止めて振り返った。
「仕方ないでしょ、こんな修練があるなんて聞いてない!」
「あたしは田植えで鍛えられてるからね」
「だ、だからそんなに足が太いのよ」
「うるさいな、走れないよりいいだろ。さ、立てるか?」
りつはサギリの背中をさすってやった。その額には玉のような汗が浮かんでいる。静乃も頬を赤く染め、口で息をしている。
「ふう……セナは平気そうね?」
「慣れてるから」
セナだけが涼しい顔である。鬼童丸の命令では、野鳥よりも速く情報を届けなければならなかった。一日中ずっと駆け続けたこともある。
「私もけっこう自信あったけど、いざ走ると大変ね。ご飯、入るかなあ」
「入るよ……たぶん」
この程度の距離など文字どおり朝飯前だったが、全力を出して目立つワケにもいかない。
真の目的は帝の暗殺なのだから――。
サギリに合わせて走ると、羅城門到着時点で一刻が経とうとしていた。
「ほれ、証明書きじゃ。なくせばメシ抜きであるぞ。ふああ」
羅城門にいた担当女官は大あくびをした。ずいぶんと待ったらしい。
「や、やっと半分か……これが毎日……うへえ」
さすがのりつも顔が引きつる。サギリはすでに抜け殻だった。
「大丈夫、きっと慣れるよ。がんばろ?」
静乃は持ち前の愛らしい笑みを向けた。りつもサギリも子供のように頷く。
遅れて他の生徒たちもやって来た。みんな息も絶え絶えだった。
そんな中、セナは羅城門を通る人の流れに、見覚えのある行商人を見つけた。背中に千駄櫃を背負っている。流れの薬売りらしい。
「みんな、先に行ってて」セナは行こうとした。
「どこ行くんだ?」りつが呼び止める。
「ちょっと、そこまで」
セナは返事を待たずに一人離れた。
「……アンタって、ほんとガサツね」
りつはサギリの言葉の意味がわからなかった。
薬売りの少しだけ後ろを歩いたセナは、その背中に小さく声をかける。
「ホオヅキ」
鼻から下を隠した覆面顔。はたしてホオヅキだった。ホオヅキは振り返ることなく歩みを緩め、まわりの様子を眼球の動きだけで確かめる。
「うまく潜入できたようだな」
「うん。これからどうする?」
「謡舞寮の屋敷を調べろ。お頭の命令だ」
「謡舞寮? 大内裏じゃなくて?」
「ああ、俺たちが思う以上に謡舞寮は重要だそうだ」
「わかった」
セナとホオヅキは、一度も視線を合わせずそのまま別れた。
セナは静乃たちに追いつくべく、全力で走った。人の流れをたくみに避け、大あくびをしていた女官の背後をすり抜ける。女官は風が吹いたぐらいにしか思わず、また大あくびを一つ拵えた。
謡舞寮に戻るころには、すっかり日は昇っていた。全員が戻るには二刻もかかった。遅い朝餉。ほぼ昼餉になっている。
生徒たちは食堂に集まった。屋敷の中に食事専用の施設があるのは珍しい。それも厨房と隣接している。かなり規模が大きい。
「うう~、食欲ない」
サギリは青ざめた顔で、漆塗りのお膳を見る。ほかの生徒たちも同じだった。
「食べないとチカラ出ないぞ?」
「りつ……アンタが羨ましいわ」
「白米が食べられるんだ。こんなに嬉しいことはないよ。うちでは米作ってたけど、ぜんぶお上に召し上げられて麦ばっかり食べてたから」
「わ、わかってるわよ、そのぐらい」
サギリは炊き立てのご飯を口にした。ほのかな甘みと極上の柔らかさ。まったくなかった食欲が沸いてきて、パクパクと箸が進む。
「あわてるなよ」
「うるさい」
その様子を見て、静乃は微笑んだ。
「白米なんて久しぶり……美味しいね、セナ」
「うん」
セナも久しぶりの白米がたいそう美味く感じた。
鬼童丸のもとで食べた白米は、支配下の村々から納められた物だ。本来なら都に納める物をごまかし、隠し、盗んだ物になる。都に納められた米はとても上質で、鬼童丸に献上された物は少し質が落ちる物だと気付いた。
が、今は、目の前の任務だけを考えなければ――。
※
草木も眠る丑三つ時。
セナは目を開けた。隣ではりつがぐっすり寝入っている。
束ね上げた髪の毛に黒い笄を挿し、静かに部屋から出ると、夜空には朧月が潤んだ光をはなっていた。
周囲に気配はない。門には篝火が焚かれ、不寝番の衛士が立っている。彼らの隙を見計らって、謡舞寮の屋敷を奥へと進んでいく。
謡舞寮には、歌と舞の修練場となる本殿と、食堂と合体した宿舎、そして弓御前の私邸の三つの建物が敷地内に存在する。
白砂を踏んで音が立つのを避け、軒下を素早く移動した。塀の外に枝がせり出した巨大な松の木に登る。
全体を見渡すと、特別変わった様子はない。日中に見た本殿の間取りと、外観の形状を頭の中で比べてみても、隠し部屋があるような場所はなかった。
「あとは弓御前の屋敷か……」
セナはふと振り返って、京の都を一望した。愛宕山にある鬼童丸の根城から見える景色とは違う。民家や屋敷といった人の営みが鮮明に見える。
そして、大内裏――夜でも多くの炬火を焚き、煌々と夜を照らしている。
あの奥深くに、倒すべき大妖怪がいる――。
何やら人影がサッと動いた。人影は弓御前の屋敷の裏手に消えた。
「気配を殺してた……何者……?」
セナは高い松の木から飛び降り、着地の瞬間に前転して衝撃を逃がすと走りながら体勢を立て直した。まさに猫のような身のこなしだった。
植込みに身を隠し、辺りを窺う。遠くで犬が鳴いている。
(行くか……)
黒い笄を髪の毛から抜き取り、手の中に隠し持った。
屋敷の裏手に回り込み、渡り廊下から侵入した。池を配した中庭が見える。水面には朧月を映し込んでいる。部屋がいくつもあり、どこにあの人影が忍んでいるかわからない。
セナは意識を鋭くし、気配を殺して歩く。
もっとも大きな部屋の明かり障子を開け、中を覗き込む。ひときわ立派な御帳(天蓋付きのベッドのこと)があり、そこに弓御前が寝ていると思われる。
それにしても、かなり豪奢な御帳である。帝の寵愛の深さがわかる。
本当に弓御前の部屋かどうか確かめるため、天蓋から下りた薄布の帳をそっと開けて覗き込む――と、セナはギョッとして思わず飛び退いた。
帳の向こうで、座禅を組んだ弓御前が、こちらを見ていたのである。
(まさか、気付いていたのか……)
セナは覚悟した。が、反応がない。
恐る恐るまた覗き込むと、弓御前は先ほどから微塵も動かず、静かに寝息を立てている。なるほど、これが彼女の寝姿らしい。
(目を開けて寝てる……座ったまま……恐ろしい)
セナはホッと安堵する一方、見てはいけないモノを見た心地になった。
これで屋敷の間取りと、夜間の弓御前の居場所はわかった。
(……アレは?)
寝室の隣に、もう一つ大きな部屋があることに気付く。そっと近づく。
すると、いきなり明かり障子が開いた。セナはあわてて飛び退き、背後に面した中庭の軒下に身を隠す。
障子を開けた何者かは夜の闇に消えた。
(この部屋に誰かが忍び込んだ……?)
セナは周囲を確かめ、調査のために部屋に入った。
中は真っ暗――のはずが、月の光を受けてぼんやりと輝く何かがある。
そこには、太陽を模した天冠、白綾の狩衣、薄色の袴が――まるで一人の舞人が纏っているかのように飾られていた。夜の中でも輝きを失わず、ひっそりと部屋の中にあった。
(綺麗……でも、どうしてこれだけこんなところに……)
そのとき、部屋の外から声がした。セナはとっさに舞装束の後ろに隠れる。
「おい、見つかったか?」
夜間警備の衛士らしい。セナは息を止め、闇に溶けて存在を無にした。松明の橙色の光に地面が照らされ、衛士の足音がこちらに近づく。
「いいえ、逃げられました」
もう一人、別の若い衛士が答える。
「異変はありませんが、とにかく報告を」
「いや……このことは忘れろ」
「なぜです?」
「猫一匹でも侵入を許したと知られれば、家族のクビも六条河原に並ぶぞ」
「ひっ……」
「明日から見回りを強化する。今夜はまばたきするなよ?」
「は、はいっ」
衛士たちは去って行った。気配の移動を察して、セナは部屋から出た。
「まずいな……しばらくおとなしくするか」
セナは自室に戻った。そっと寝床に入るとりつが話しかけて来た。
暗闇の中、声だけがする。
「どこ行ってたんだ?」
「……かわや(トイレのこと)」
「そっか。なあ、セナ……ありがとな」
「何のこと……?」
「セナのおかげで、あたしは謡舞寮に入ることが出来た。あのときセナが諦めなかったから、あたしも諦めないでいられた。そのお礼」
「私は別に……何も」
「そんなことない。セナがいなかったら今ごろ村に戻って隠れて泣いてた。そんで死ぬまでノラ仕事。誰かの嫁に行って、子供産んで……」
「……嫌?」
「そうじゃない。ただ、あたしには夢があるから」
「夢?」
「親父が誉めてくれた歌で、みんなを楽しませたい。セナの夢は?」
「私は……」
何もない。考えもしなかった。ただ、目の前の『使命』を果たすのみだ。
「ない。でも、舞人にはなる。それだけ」
「ふうん……舞人になって、どうしたいってのは?」
「……」妖怪を殺す――とは言えなかった。
「ま、いいさ。夢も後から見つければいい。さ、寝よう」
セナは、真っ黒な天井をしばらく見つめていた。
ひと月後――毎朝の走りの修練にもみんな慣れて来た。謡舞寮から出て戻るまで、全員が一刻を切るようになったのである。
だが、本格的な舞の修練にはまだ入っていない。食事の支度や掃除、貴人を前にした礼儀の習得が続き、みんな少し飽き始めていた。
くわえて、この座学――。
「舞には二つの姿があります」
筆頭女官・望月による『お勉強』である。
「まず一つは文舞――ゆったりと雅な調べに乗り、その身で『陰』を体現せしめる静かな舞」
次に、と望月は続ける。
「もう一つは武舞――強く雄々しい調べに乗り、その身で『陽』を体現せしめる激しき舞」
そして、と望月は語調を強めた。
「陰と陽が合わさる時、天女の舞が顕現するという――」
しかし、セナは頭の左半分で講義を聞き、右半分で別のことを考えていた。
あの夜、弓御前の屋敷に侵入した者は一体何だったのか。
外から侵入するには高い塀を越えねばならず、身体一つではとうてい難しい。謡舞寮の周りにはつねに警備の衛士が巡回している。自分でも困難を極める。
では、内部の人間か――?
セナはそれとなく生徒たちを見渡した。みんな、だらけている。朝の修練を終えて腹いっぱい食べたとあって、あくびがそこかしこで起こった。
隣ではりつが慣れない勉強に頭を抱え、サギリもうつらうつら。静乃は変わらず凛とした姿勢で講義を聞いているが、時おり小さなあくびを一つ。
この中にいるとは思えない。だとすると女官たちになるが。
「――喝!!!!」
突然、望月が怒鳴った。みんなビクリとして目を覚ます。
「何たる態度かお前たちは! なにゆえ入門できたか忘れたか!」
全員の背筋がピンと伸びる。少し遅れて目覚めたサギリもよだれを拭って、何やら怖い雰囲気を察して身を縮めた。
「ゆめゆめ忘れるな――入門叶っていざ漕ぎ出したお前たちの舟は、叶わなかった者たちの涙の海に浮いていることを」
「涙の海……」
セナはその言葉が妙に印象に残った。
試験の日、さまざまな想いを抱いてみんな謡舞寮の門を叩いたはずだ。自分がここにいる一方で、涙を流した者がいる。セナは隣のりつを盗み見た。
セナが諦めなかったから――。
違う、そうじゃない。諦めなかったわけじゃない。そうするしかなかっただけだ。だから本当は、入門する資格なんてなかった。セナはそう思った。
望月は、よいか! と強く言った。
「これより謡舞寮に帝がおいでになる。お前たちは光栄にもお言葉を賜るのだ」
帝が来る――。生徒たちはざわつく。
「だまらっしゃい! ともかく粗相のないように」
座学はそこで終わり、それぞれの部屋に戻った。
セナたち四人は静乃とサギリの部屋に集まった。
「なあ、帝だってさ。どうする?」
「どうするって……ねえ?」
りつのふわふわした問いを、サギリが受け流す。
「帝は日ノ本で一番偉いお方よ。きっとお顔を見ることもかなわないわ。本来なら御簾の向こうにおられる方だから。もし覗き見たら……」
静乃の脅かすような口ぶりに、りつもサギリも青ざめた。
「そ、そんな帝が何しに来るんだ?」
「謡舞寮は帝がお作りになったのよ? 別に不思議じゃないわ。それに弓御前さまは帝のお師匠なのだから」
「えーっ、そうなの!?」
「何だぁ? 知らなかったのかぁ?」
りつは鼻で笑いながらサギリを見る。
「し、知ってるからってエライっていうの!?」
「別にぃ……なあ静乃、帝はよく来るのかな?」
「さあ、それは私にも。でもどうして?」
「いや、ちょっと気になっただけさ」
「あっ、さてはアンタ! 帝に媚び売って抜け駆けする気ね!?」
サギリはりつに詰め寄った。
「ばっ、バカ言うな! そんなことしないよ。なあ、セナ……セナ?」
セナは心ここにあらず。思わぬ好機の到来に少し戸惑っていた。
さて、どうするか――帝を殺せる絶好の機会だ。しかし、ホオヅキに知らせて鬼童丸の指示を仰ぐ時間はない。黒い笄ならば、かすり傷一つでも付ければ仕留められるはずだが、ここでやってしまっていいものか。
その時は、みんなの前で帝を襲う必要がある。
(あとのことは考えてもムダ……帝を殺すことが目的……そうだ)
セナは心の中で呪文のように繰り返す。
「おい、セナ!」
やっと気付いてセナは顔を上げた。
「なに?」
「なにって……こっちの台詞だよ」
「さては、寝てたわねェ!」
サギリは得意げに言った。静乃は無言で見つめる。
「サギリ、あんたじゃないんだから……ま、とにかく行こうか」
りつは腰を上げた。サギリも、なによぉ、と言いながら立った。
※
生徒たちは白砂の庭に集められた。試験会場にもなった場所である。
みんなそわそわしていた。望月たち女官も顔が強張っている。
その頃、謡舞寮の前の路地を、ゆっくりと進む行列があった。
先頭には、十四人の力者(担ぎ手)の肩に担がれ、数多の衛士に守られた帝の輦輿(乗り物)があった。金粉を塗った屋根に宝玉の装飾、屋形の窓の四方には簾がかかっている。
ちなみに、帝は車輪のついた牛車には乗らない。こうして人が担いだ輦輿で移動をする。牛車に乗るのは主に公家たちである。
行列は一歩ずつ、一歩ずつ、謡舞寮に向かって進んだ。
回廊から弓御前がその白頭巾姿を見せた。
「畏れ多くも帝のご到着です。みなの者――心せよ!」
弓御前の発声が、生徒たちの呼吸の乱れをキリリと正した。不思議と空気が冷たく感じる。
そして、帝が姿を現した――。
「あれが……妖怪」
その容姿は、つるりと剃ったハゲ頭、真四角の顔、ギョロリと剥いた目玉、拳が入るほど大きな口、背は高くないが芯の通った立ち姿、純白の生地に金の鳳凰の刺繍を施した豪奢な法衣――だった。
そして、そのすぐ後ろに一人の巨漢を、随身(ボディーガードのこと)として連れている。素朴な顔立ちだが、全身の筋肉が盛り上がってまるで鎧を着込んだような体躯。帝のそばにも関わらず、まさかりを担いでいる。
帝はこの巨漢一人だけをお供として、謡舞寮を訪れたのだった。
(鬼童丸は、日ノ本が震えあがる大妖怪だと言っていた……けど)
そのようには見えない。威風は備えているが、強そうでもない。
「面を上げよ」
帝の第一声はこうだった。みんな、伏せていた顔を恐る恐る上げる。
帝は満面の笑みを浮かべ、ギョロギョロの目を生徒たちに向ける。
「お前たちは、万里の国を知っておるか?」
むろん返事はない。が、帝はかまわず続ける。
「海の向こうの大陸である。そこにかつて斉という国があった。あるとき緜駒という歌上手が、街にいながらにして国の半分を歌で魅了したという。もし、緜駒が京の都にいたらどうであろうか――この問いの意味がわかるか?」
生徒たちは戸惑うばかりである。
「そこのお前、どう思う?」
帝が視線を向けたのは、遠巻きに控えていた一人の女官だった。まさか自分が指されるとは思わず、女官は冷や汗をかいて慌てる。
「は、はい……ええと」
「遅いのう……五、四、三、二」
帝は数を数えはじめた。女官は青ざめながら答える。
「こ、こ、この世の広さがわかります……!」
「その心は?」
「大陸の半分を魅了するとなれば、この日ノ本はすべて魅了されるでしょう」
「うむ、なぜだ?」
「それは……」
「なぜかと聞いておる」
冷たい沈黙が訪れた。必死に考えていた女官だったが、何と答えても正しいと思えず脂汗が白砂に垂れ落ちる。緊張が頂点に達した。
「ワッハッハッハッハ! 惜しいのう! あと少しで正解だのに!」
帝は大笑した。が、女官ホッとしたのもつかの間、笑い声がピタリとやむ。
「その答えでは五分だ……謡舞寮の女官がそれでは困る。弓御前よ」
「はい」
「あの者に暇を出す。わし好みの答えに免じて郷里の家族に会わせてやろう」
「……はい」
それを聞いた女官が、白砂の庭を駆けて帝の前でひざを突いた。
「お待ちください! それだけは何とぞ! お許しください!」
「蛾王」
帝はぼそりと言った。蛾王と呼ばれた巨漢は、無言で回廊の階段を下り、女官の着物を指でつまんで軽々と持ち上げた。そして、そのまま塀の外に向かって空高く放り投げてしまう。外では衛士たちが控えていた。
その様子を、生徒たちは引きつった顔で見ていた。
セナは、帝が妖怪と呼ばれる所以の一端を垣間見たことを知り、さらにあの蛾王という難敵の存在を知った。
(うかつに手が出せない……あの男をどうにかしないと)
「悲しいことじゃ……」
帝は、自分がしたことにも関わらず、心底悲しそうに眼を伏せた。
「謡舞寮はのう、我が分身と同じである……弓御前よ」
「はい」
「謡いの稽古は少し休んでからでよいか?」
「ええ、そういたしましょう。では、奥の御殿に」
帝が去ろうとした時、生徒たちの中から声が上がった。
「畏れながら申し上げます!」
静乃だった。これは、前代未聞である。生徒の身分で帝に声をかけるなどあってはならない。公家の中でも高位の『公卿』でさえやらないことである。
弓御前がキッと睨むのを、帝は自らの手で制した。
「……なんじゃ?」
「残り五分は何なのでしょうか。お聞きしたく存じます」
「ふむ、その意気込みは良し。だが、答えとは与えられるモノにあらず」
「……」
「精進いたせ。そちの無礼、嬉しく思う。ゆえに目をつむる」
帝は蛾王をともなって、弓御前と一緒に奥の屋敷に消えた。
※
その日の夜更け、謡舞寮の近くでは、行商に扮したホオヅキが様子を窺っていた。
セナと連絡を取るために来てみれば、凄まじい光景が広がっていた。
「チッ、なんて数だ」
物々しい警備である。松明を持った甲冑姿の衛士がずらりと並び、謡舞寮の塀を隙間なく固めている。近いうちに帝が謡舞寮を訪れるという情報を苦労して掴んだものの、まさか今日だとは思わなかった。
「帝の気まぐれには困ったものだが……さて」
衛士の数を数えるまでもなく、忍びこめる隙はない。
「以前の倍はいるぞ……何故だ――それに」
それに、謡舞寮に宿泊するとは思わなかった。
以前までは、昼に謡いの稽古を終えると大内裏にある清涼殿に戻っていた。それが今日は帰る気配がない。衛士たちも不寝番の態勢である。
「ということは、弓御前の屋敷に泊まるのか……だが、御前はかなりの高齢。男女の仲とも思えないが……」
ホオヅキは顔を覆った布をずらし、皓々と輝く月を見上げる。その頬には生々しい傷跡が左右の頬に広がっていた。
「セナのヤツ、早まってくれるなよ……」
夜更け――セナはりつが寝入ったのを確かめると部屋を出た。束ねた髪に黒い笄を挿し、夜の闇をまとって謡舞寮の敷地を黒猫のように駆けた。
目的は、弓御前の屋敷である。
(あの白い舞装束があったのが……帝の部屋ってことか……)
今宵、帝がそこにいるのはわかっている。
寝所に忍び込み、笄で突き刺せば、日ノ本を支配する大妖怪は死ぬはずだ。
弓御前の屋敷のそばまで来た。不思議とふだんの警備と変わりがない。昼間のことを考えると、謡舞寮に兵士を入れたくないのだと思われる。
だが、一つだけ違う。帝の部屋の前に例の巨漢――蛾王の姿が――。
蛾王は起きているのか眠っているのか、巨木のように立ち尽くしている。
(護衛はたった一人だけど、それだけで十分ということか……)
どうする――蛾王と戦っている間に帝に気付かれる可能性がある。それに蛾王を殺せても、自分もタダでは済まないだろう。
(死なばもろとも……か)
妖怪に傷をつけさせすれば、使命は果たせる。後のことなんか考える必要はない。たとえ捕まろうと、蛾王に絞め殺されようと、関係ない。
蛾王は巨体だ。この身の素早さをもってすれば、寝所に突入できる。
(よし……)
セナは死を覚悟して、大きく息を吸った。
そして、止める――その瞬間、背後から声がした。
「やめたほうがいいよ」
驚いて飛び退くと、そこには見知らぬ一人の少年がいた。
セナは黒い笄を抜いて構える。まったく気配に気付かなかった。
「あの蛾王という男はね、寝ないんだ。普段から頭の半分を寝かせて、半分で起きていられるから眠る必要がない。だから、あの男に隙はない」
「……誰」
「僕の名前はシュウジン――傀儡師だよ。見習いだけどね」
「くぐつし……」
ほら、と言って少年は足元に置いていた木偶人形を持ち上げる。腕や足の節まで精巧に造られた人形は、糸で操作するものだった。
シュウジンという少年は木偶人形を操り、おどけた仕草をしてみせた。
「僕はふだん大学寮で学んでいる。もとは君たち舞人も同じだったけど、十年以上前に謡舞寮ができて別れてしまった」
「そんなあなたが、なぜここに?」
「君を見かけたからさ」
「私を……?」
「謡舞寮をこっそり見学しようと来てみたら、今にも帝を殺そうとしている子がいたからね」
「どうしてそれを」
「目を見ればわかる」
雲間から月明かりが降り注ぐ。光に照らされたシュウジンは、微笑をたたえて何とも優しげな顔をしていた。年齢は同じか少し上に見える。
「それで、私をどうする気?」
「別に、何も」
「え……?」
「帝の命を狙う人間は多い。一人増えたところで蛾王がみんな殺してしまうさ。だから止めに来た。命を粗末にするなってね」
「それだけ?」
「うん。他に何かあるかい? 素性を聞いたところで話す気はないんだろ? だから聞かない、何もしない」
「そう……だけど、私にはあなたを殺すことができる」
セナは黒い笄の切っ先をシュウジンに向けた。
「なるほど……それは思いつかなかった」
シュウジンは糸を手繰り、木偶人形の両手を広げた。無防備である。この距離なら一足で飛び込んで胸をひと突きできる。
しかし、頭の中で殺しの想像をしてみるものの、どうしてか実感が湧かない。まるで水面に映った虚像でも相手にしている心地になる。このまま刺したところで殺せないような気がしてきた。こんな感覚は初めてだった。
セナは黒い笄を収めた。
「やらないのかい?」
「ここで死体の始末はできない。だからあなたを殺さない」
「見逃がしてくれるの?」
「違う。取引。これは二人だけの秘密」
シュウジンは何が可笑しいのか、ニッコリと、でも儚げに笑った。
「約束しよう。死が二人を分かつまで、今宵のことは誰にも言わない」
「……?」セナは首をかしげる。
「さあ、君も」
「……死が二人を分かつまで……今宵のことは誰にも言わない」
シュウジンはまた微笑を浮かべた。
「よし。じゃあ、頑張って舞人になるといい。いずれ帝を殺せる好機が来るかもしれない。その時には、僕は目をつむっていよう」
じゃあね――シュウジンは、それだけ言って夜の闇に消えた。
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五月雨輝
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞特別賞受賞作】北の小藩の青年藩士、黒須新九郎は、女中のりよに密かに心を惹かれながら、真面目に職務をこなす日々を送っていた。だが、ある日突然、新九郎は藩の産物を横領して抜け売りしたとの無実の嫌疑をかけられ、切腹寸前にまで追い込まれてしまう。新九郎は自らの嫌疑を晴らすべく奔走するが、それは藩を大きく揺るがす巨大な陰謀と哀しい恋の始まりであった。
謀略と裏切り、友情と恋情が交錯し、武士の道と人の想いの狭間で新九郎は疾走する。
加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!
野松 彦秋
歴史・時代
加藤虎之助15歳、山崎シノ17歳
一族の出世頭、又従弟秀吉に翻弄(祝福?)されながら、
二人は夫婦としてやっていけるのか、身分が違う二人が真の夫婦になるまでの物語。
若い虎之助とシノの新婚生活を温かく包む羽柴家の人々。しかし身分違いの二人の祝言が、織田信長の耳に入り、まさかの展開に。少年加藤虎之助が加藤清正になるまでのモノカタリである。
人情落語家いろは節
朝賀 悠月
歴史・時代
浅草は浅草寺の程近くに、煮売茶屋がある。
そこの次男坊である弥平は、幼き頃より噺家になることを夢見ていた。
十五の歳、近くの神社で催された祭りに寄せ場が作られた。
素人寄席ながらも賑わいを見せるその中に、『鈴乃屋小蔵』と名乗る弥平が高座に上がる。
そこへ偶然居合わせた旗本の三男坊、田丸惣右衛門は鈴乃屋小蔵の人情噺をその目で見て、心の臓が打ち震えた。終演後に声を掛け、以来二人は友人関係を結ぶ。
半端物の弥平と惣右衛門。家柄は違えど互いを唯一無二と慕った。
しかし、惣右衛門にはどうしても解せないことがあった。
寄せ場に上がる弥平が、心の臓を射抜いた人情噺をやらなくなってしまったのだ……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
【完結】女神は推考する
仲 奈華 (nakanaka)
歴史・時代
父や夫、兄弟を相次いで失った太后は途方にくれた。
直系の男子が相次いて死亡し、残っているのは幼い皇子か血筋が遠いものしかいない。
強欲な叔父から持ち掛けられたのは、女である私が即位するというものだった。
まだ幼い息子を想い決心する。子孫の為、夫の為、家の為私の役目を果たさなければならない。
今までは子供を産む事が役割だった。だけど、これからは亡き夫に変わり、残された私が守る必要がある。
これは、大王となる私の守る為の物語。
額田部姫(ヌカタベヒメ)
主人公。母が蘇我一族。皇女。
穴穂部皇子(アナホベノミコ)
主人公の従弟。
他田皇子(オサダノオオジ)
皇太子。主人公より16歳年上。後の大王。
広姫(ヒロヒメ)
他田皇子の正妻。他田皇子との間に3人の子供がいる。
彦人皇子(ヒコヒトノミコ)
他田大王と広姫の嫡子。
大兄皇子(オオエノミコ)
主人公の同母兄。
厩戸皇子(ウマヤドノミコ)
大兄皇子の嫡子。主人公の甥。
※飛鳥時代、推古天皇が主人公の小説です。
※歴史的に年齢が分かっていない人物については、推定年齢を記載しています。※異母兄弟についての明記をさけ、母方の親類表記にしています。
※名前については、できるだけ本名を記載するようにしています。(馴染みが無い呼び方かもしれません。)
※史実や事実と異なる表現があります。
※主人公が大王になった後の話を、第2部として追加する可能性があります。その時は完結→連載へ設定変更いたします。
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