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47.キスの代わりに
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あまりに急な話で素っ頓狂な声を上げてしまい、思わず手で口を覆う。
でも……明日だなんて。心の準備ができていない。
「あの……でもお世話になった方々へ挨拶をしようかと」
「挨拶? 挨拶なんて必要か? 必要なら今日中に済ませておいてくれ。もしアキムへの挨拶がしたいなら、俺の部屋に行くといい。出入りはあっても基本的にはそこにいるはずだ」
話はそれだけとばかりにオスリック殿下は帰って行こうとする。
「ま、待ってください!」
「なんだ?」
あっさりと帰ってしまいそうなオスリック殿下を慌てて呼び止めると、思ったよりも普通に止まってくれて自分だけが空回りしてる気分になる。
「オスリック殿下はその……明日帰る前に会えますか?」
最後だと分かっているから、殿下にこそきちんと挨拶してから去りたい。
しかし返答は無慈悲だった。
「悪いが明日は来客対応があって時間が取れない」
「……そうですか」
「セラフィン……」
声にがっかりした感情が出てしまったのかもしれない。
オスリック殿下が近づいてきた気配がして、無意識に俯いていた顔を上げる。殿下の手が私の頬を撫でた。
そして親指が唇に触れる。少しだけ押されたその力加減がまるでキスの様で心の奥がきゅんと音を立てた。
手を離した殿下が、今まで私の唇に触れていた親指にそっと口づける。
その姿がまるで絵画のように美しくて、ただただ綺麗だと見惚れていた。数秒遅れて意味が分かって、頬が熱くなる。
「……」
オスリック殿下はわずかに微笑むと、なにも言わずに去って行ってしまった。
……心臓に悪すぎるわ。
目は口ほどにものを言う、なんて言葉があるけれどまさにそれ。
オスリック殿下はブレアナを選び、私は明日にはここを出て行くというのに、あんなに愛おしい顔をされたら離れ難くなる。
好き。好き好き。感情が叫んでいる。私だけじゃない、オスリック殿下だって絶対に私のことが好き。
勘違いだなんて思わせないくらい確実に、オスリック殿下は私に伝えてくれている。
(ありがとうございます、オスリック殿下。これで私の心は少し救われました)
うっすら生まれかけていた私を選んでほしいという気持ちを頑張って押しとどめ、扉を閉めた。
オスリック殿下にはブレアナを選んでもらわないといけない。ブレアナしか殿下を救うことはできないのだから。
こうやって何度も現実を自分に言い聞かせる。そうでもしないと今すぐオスリック殿下のもとへ向かって、「愛してる、一緒にいて」と身の程知らずのわがままを言ってしまいそうだった。
時間は淡々と過ぎてゆき、アキムさんへの挨拶や身の回りの世話をしてくれていた侍女にお礼を言っているうちに、明日という日は今日になっていた。
でも……明日だなんて。心の準備ができていない。
「あの……でもお世話になった方々へ挨拶をしようかと」
「挨拶? 挨拶なんて必要か? 必要なら今日中に済ませておいてくれ。もしアキムへの挨拶がしたいなら、俺の部屋に行くといい。出入りはあっても基本的にはそこにいるはずだ」
話はそれだけとばかりにオスリック殿下は帰って行こうとする。
「ま、待ってください!」
「なんだ?」
あっさりと帰ってしまいそうなオスリック殿下を慌てて呼び止めると、思ったよりも普通に止まってくれて自分だけが空回りしてる気分になる。
「オスリック殿下はその……明日帰る前に会えますか?」
最後だと分かっているから、殿下にこそきちんと挨拶してから去りたい。
しかし返答は無慈悲だった。
「悪いが明日は来客対応があって時間が取れない」
「……そうですか」
「セラフィン……」
声にがっかりした感情が出てしまったのかもしれない。
オスリック殿下が近づいてきた気配がして、無意識に俯いていた顔を上げる。殿下の手が私の頬を撫でた。
そして親指が唇に触れる。少しだけ押されたその力加減がまるでキスの様で心の奥がきゅんと音を立てた。
手を離した殿下が、今まで私の唇に触れていた親指にそっと口づける。
その姿がまるで絵画のように美しくて、ただただ綺麗だと見惚れていた。数秒遅れて意味が分かって、頬が熱くなる。
「……」
オスリック殿下はわずかに微笑むと、なにも言わずに去って行ってしまった。
……心臓に悪すぎるわ。
目は口ほどにものを言う、なんて言葉があるけれどまさにそれ。
オスリック殿下はブレアナを選び、私は明日にはここを出て行くというのに、あんなに愛おしい顔をされたら離れ難くなる。
好き。好き好き。感情が叫んでいる。私だけじゃない、オスリック殿下だって絶対に私のことが好き。
勘違いだなんて思わせないくらい確実に、オスリック殿下は私に伝えてくれている。
(ありがとうございます、オスリック殿下。これで私の心は少し救われました)
うっすら生まれかけていた私を選んでほしいという気持ちを頑張って押しとどめ、扉を閉めた。
オスリック殿下にはブレアナを選んでもらわないといけない。ブレアナしか殿下を救うことはできないのだから。
こうやって何度も現実を自分に言い聞かせる。そうでもしないと今すぐオスリック殿下のもとへ向かって、「愛してる、一緒にいて」と身の程知らずのわがままを言ってしまいそうだった。
時間は淡々と過ぎてゆき、アキムさんへの挨拶や身の回りの世話をしてくれていた侍女にお礼を言っているうちに、明日という日は今日になっていた。
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