毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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44.バイバイ、幸せな時間

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 ど、どうしたらいいの⁉
 すでにブレアナの手によって解毒が終わっている以上、オスリック殿下とキスをする理由はない。
 解毒された一連の流れをすべてオスリック殿下に伝えるのが正しいのは分かっているけれど、話してしまえばこの関係は終わってしまう。
 ……終わりにしたくない。
 私の中に存在するわがままな気持ちが、オスリック殿下への言葉を詰まらせる。

「セラフィン? どうかしたのか? 体調はいいと言っていたが、どうもそうは見えないが」
「あの……いえ、なんでもありません。ご心配をおかけして申し訳ありません。体調は……本当にいいので……」

 もう少しこのままでいたい。オスリック殿下と過ごす日々を手放したくない。それが私の素直な気持ち。
 けれどすでに時間は残されてなくて、もうすぐこの関係は消えてなくなってしまう。
 私は伝えなくちゃいけない。もう治療の必要がないことを。オスリック殿下に伝えなくちゃいけない。

「以前うかがいましたが、オスリック殿下は治癒能力者を探していらっしゃるのですよね」
「……いきなり何の話だ? たしかに探してはいるが」

 首を傾げるオスリック殿下からは困惑が伝わってくる。

「治癒能力者がいればオスリック殿下の左目も治るのでしょう?」

 ちらりと視線を移すと、彼の左目は相変わらず眼帯で隠されていた。

「いったいどうしたというんだ、セラフィン。何かあったのか?」
「……」

 終わる。伝えたら終わる。
 こんな風に二人きりで過ごせる時間は二度とやって来ないだろう。

「私、会いました」

 あぁ、さよならだ。もう戻ることはできない。

「治癒能力者に治してもらったんです。私の中にあった毒を」

 目の前のオスリック殿下の右目が大きく開かれた。突然の朗報に驚いたのか、彼は珍しく破顔する。

「……本当なのか? …………そうか、よかった。これでセラフィンが苦しむことはもうないのだな」

 私が別れを惜しんだ幸せな時間を、オスリック殿下はあっさりと手放した。
 命の危険が付きまとっていても終わって欲しくなかった私と、私の命が助かるのならそれでいいと納得できるオスリック殿下。
 寂しさを感じつつも、オスリック殿下の気持ちは理解できた。
 オスリック殿下は私を大切に思ってくれてるからこそ、感情ではなく理性で良し悪しを判断している。そしてそれは私も同じ。

「彼女なら、きっとオスリック殿下の左目も治せるでしょう」
「彼女? 治癒能力者は女性なのか」
「はい。オスリック殿下との結婚を条件に殿下の治療をするとのことです」
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