毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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43.【Side:オスリック】セラフィンへの想い

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 セラフィンのことは俺も話したいと思っていた。

「アエルバートがなんと言っても俺はセラフィンを妻にする」
「僕がどうこう言う以前に、セラフィン本人に保留にされてるじゃないですか」
「……っぐ」

 確かにその通りではあるのだが、諦めるつもりはまったくない。

「決闘に敗れた僕にはもうなにも言う権利はありません。あとはセラフィンの説得を頑張ってください。それよりも聞きたいのは…………その、兄さまはセラフィンのどこを見てそうまで惚れ込んだんですか?」

 言葉の表面だけを見れば世間話だ。だがきっとアエルバートが聞きたいのはそんな穏やかな話ではない。
 アエルバートが知りたいのは俺の『人を見る目』だろう。自分が断罪したセラフィンにいったいどんな価値を見出したのか、それをアエルバートは問うている。

「全部だ」
「……僕の知るセラフィンは傲慢で意地が悪く、自己中心的かつ攻撃的な卑怯な人です」
「そうまで悪口を並べられると頭にくるのを通り越して意味が分からないな。まったく別人の話をしているとしか思えない」

 もしもセラフィンがアエルバートの言う通りの人物だったなら、そんな人間を選んだ俺は大間抜けに見えただろう。

「セラフィンは――」

 俺はアエルバートに語る。セラフィンと初めて出会ったあの日のことを。
 悪徳商人に一歩も引かない勇敢さ、引ったくりを追い掛けたときに見せた聡明さ……そして純粋な優しさ。
 オッドアイのこの瞳を見ても気味悪がることもなく綺麗だと言ってのけた。こちらの事情などなにも知らないセラフィンから出た言葉だからこそ、胸に響いた。毒の後遺症だと知ったうえで彼女が言った言葉だったなら、同情だと切り捨ててしまったかもしれない。

「……そんなことがあったんですね」

 話を終えるとアエルバートから力が抜けたように見えた。彼はふらふらと立ち上がる。

「話を聞けてよかった。では失礼します、兄さま」

 まだ混乱の中にいるらしいアエルバートの背中を見送る。
 これで納得してくれるといいのだがな。




 アエルバートが話を聞いてくれたのは事態が好転したと言える。けれどもっと大きな問題はこちらだ。
 解毒の時間になって、俺はノックをしてセラフィンの部屋に入った。

「あ……オスリック殿下」
「顔色はいいみたいだな」

 具合が本当に悪かったときはベッドに横になっていて、体を起こすのも大変そうだったのに、今は椅子に座っていても元気そうだ。

「じゃあ解毒をしようか」
「……!」

 なんだかセラフィンの様子がおかしい……? 解毒なんていつものことなのにやけに緊張しているような……。

「あ、あの……今日はだいぶ体調もいいので解毒しなくても大丈夫かなーって思っているのですが……」

 彼女の言葉を聞いて、自分の眉間に力が入るのが分かった。

「そういう油断が毒を増幅させる。また苦しい思いをしたいのか?」
「そ、そういう訳では……」

 セラフィンに顔を逸らされ、嫌な想像が頭をよぎった。

「もしかして俺と口づけをしたくないということか?」

 思わず彼女の手を掴んでいた。
 婚約を保留にして欲しいと申し出たことといい、セラフィンは俺と距離を置こうとしているのかもしれない。
 困った。つじつまが合ってしまう。

「ち、違います! 違うんです……」

 困っている。俺も困っていたがセラフィンも困っている様子だ。
 避けられるようなことをした覚えはない。決闘の前は婚約を了承してくれていたのに、いったいなぜ?
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