毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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42.【Side:オスリック】兄と弟

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 優しくはあるが賢くはない。それが再会してからのアエルバートの印象だった。
 そしてその優しさも間違った方向に向いていて、俺の手を煩わせるばかり。
 しかし今日俺の部屋を訪ねてきたアエルバートは、そんな評価を覆す言葉を言い放つ。

「兄さまは……僕の母の生家であるアロロガシー家が使う毒を受けましたね」

 決闘のときに眼帯が外れたのはどうしようもなかった。それだけ俺も追い詰められていた。
 アエルバートが勘付く可能性を考えなかったわけではないが、優先して対処することでもない。だからまさかアエルバートがわざわざこうして俺を訪ねてくるとは想定していなかった。

「どうしてそう思う?」
「この期に及んではぐらかすつもりですか? その眼帯で隠した瞳は夜の色をしていた。それが毒の後遺症であることくらい、僕が分からないとでも?」

 誤魔化すのは無理か。

「……なにが聞きたい?」
「どうして! どうして僕に話してくれなかったんですか!」

 アエルバートは立ち上がらんばかりの勢いで俺に詰め寄る。

「その毒がアロロガシー家のものであることに間違いはありません。それは……つまり……」

 急速に語尾に勢いがなくなる。
 アエルバートにはすぐに言葉にすることができなかったのだろう。その毒の出どころを追えば、誰が俺の命を狙ったのかは明白だ。

「――母上が兄さまの命を狙ったということじゃないですか」

 アエルバートが絞り出した言葉は思いのほかはっきりとしていた。

「僕はなにも知らなかった……知らないまま生きてきました。もしも兄さまが死んでいたら、きっと僕はなにも知らない王になっていた」

 自らの手を眺め、アエルバートは肩を震わせている。

「僕はそれがひどく恐ろしいのです。この国を導かなければならない王が、兄を殺されてもその真相にすら気付かず玉座に腰掛けている。そんな愚鈍を王に頂く国にしてしまうところでした」
「だがそうはならなかった。俺は生きている」
「……もう僕が王の座を狙うことはありません」
「しかしアエルバートの母であるロージーは諦めていないのではないか?」

 俺にとっては当たり前の話の流れだったがアエルバートはそうは思わなかったらしく、返事になっていない言葉が返ってきた。

「僕の言葉を信じてくれるんですか?」
「なに?」
「僕が王の座を狙わないという言葉を信じられるんですか? そもそも毒だって母上が盛ったとは限らない。僕がやった可能性だって」
「それはない」

 はっきりと言い放つ。

「当時七歳だったおまえにいったいなにができる? たとえ毒を入れる行為だけはできたとしても、それは意味を理解した上での行動ではない。十年前のあのときに毒を盛ることができたアロロガシー家の人間はこの城に一人しかいない」

 これはアエルバートが犯人ではないというだけでなく、こいつの母親であるロージーが犯人であると明言する言葉でもあった。

「それに決闘のことはすでに、内容も結果も城にいる多くの者が知っている。今後おまえが王座を狙い不審な行動を取れば非難されるのはおまえの方だ」

 決闘というのはそういうものだ。互いに納得して受け入れた以上、結果を拒否するような行動は許されない。

「他に聞きたいことはあるか?」

 アエルバートが話を受け入れる態勢になっている今のうちに話せることは話しておきたい。

「…………では最後にセラフィンのことを」
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