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40.【Side:アエルバート】惑い

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 決闘中、僕は見た。
 レイピアの先がオスリック兄さまの眼帯を切り裂くと、そこに現れたのは独特な青の瞳。それは僕の母方の実家であるアロロガシー家に由来する毒の証だった。
 青い目が語る、オスリック兄さまはアロロガシー家の毒を盛られたことがあるという事実。ならばいつ? そんなの決まっている。兄さまが姿を消した十年前だ。
 決闘の最中だというのに、その真実は僕を動揺させるには十分だった。
 オスリック兄さまが姿を消したのは毒のせい? 誰が毒を盛った?
 そこまで考えたとき、自分の持っていたレイピアが弾き飛ばされた。あっという間の出来事だった。
 勢いに押されて地面に倒れ込んだと同時に、青空を背景にしたオスリック兄さまの姿を見上げる。
 やっぱり青い。はちみつ色のはずのオスリック兄さまの左目は、空よりも濃い青い色をしていた。
 決闘は僕の敗北で終わった。これで僕が王太子になる話はなかったことになり、オスリック兄さまはセラフィンとの結婚を進めることになる。
 でも今は、そんなことよりもオスリック兄さまに聞きたいことがある。誰に毒を盛られたのか、毒からどうやって生き延びたのか、十年間どこにいたのか……僕は『兄さまのことを何も知らない』と知った。
 決闘を終えて控室へ戻ると、ブレアナが出迎えてくれた。そこにはセラフィンもいて、またブレアナが酷いことをされていないか心配になったけれど、ブレアナの様子は元気そうだったから無用な心配だったらしい。

「その……婚約のことですが、いったん保留にしていただけないでしょうか?」

 セラフィンが発した言葉に、頭が沸騰しそうになった。
 兄さまも僕も自分も誇りを賭けて戦ったというのに、その結果をセラフィンは無効にしようと言うのだ。
 やはりろくでもない女だ。こんな女と結婚しようという兄さまの気が知れない。
 そう憤りながらも、心の中では迷いが生まれた。
 幼い頃から優秀だったオスリック兄さま。そんな兄さまが、今後后となる女性を選ぶのにこんなに分かりやすい間違いを犯すはずがない。僕は何かを見誤っているのだろうか……。
 オスリック兄さまと話がしたい。セラフィンのことも、左目のことも、兄さまの口から説明して欲しい。
 そしたらきっと、前に進める気がする。




 オスリック兄さまの部屋を訪ねると、そこには兄さまだけでなくアキムの姿もあった。

「話がしたいと聞いている。アキムも一緒だが構わないな」

 兄さまの言葉は疑問形ではなく、頷くしかなかった。けれど自分の今までの態度を考えると、決闘に敗北した僕が兄さまに対して武力行使に出ると疑われても不思議ではない。
 椅子をすすめられて腰掛けると、世間話も挟まずに直球で聞きたいことを尋ねた。

「兄さまの左目を見ました。兄さまは……僕の母の生家であるアロロガシー家が使う毒を受けましたね」
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