毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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39.痛む心

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 ブレアナの丸い目に見つめられて何も言えないでいると、廊下から足音が聞こえてくる。

「セラフィン、待っていてくれたのか」

 入って来てすぐにオスリック殿下は私を見つけて真っ直ぐ歩み寄ってきた。眼帯の外れた右目は閉じられている。

「あの……オスリック殿下……」

 本当なら決闘に勝利したオスリック殿下に対して祝福の言葉を送りたいのに、ブレアナのことがあって普通の態度が取れない。

「アエルバート様、オスリック様、お疲れさまでした」

 何事もなかったかのようにブレアナは二人に労いの言葉を掛けた。もしかしたら彼女にとっては本当に何事もないのかもしれない。

「オスリック殿下……あの、その……おめでとうございます」

 ブレアナとは違い、さすがに私はアエルバートに声を掛けるのははばかられて、オスリック殿下にだけ声を掛けた。

「これであんたを嫁にできる」

 オスリック殿下が極上の笑顔を見せる。それは今まで見てきた表情の中でもひときわ優しくて、オスリック殿下が喜んでいることが伝わってきた。本来なら喜ばしいことのはずなのに、ブレアナの言葉が頭にこびりついていて上手く笑えない。

「どうかしたのか、セラフィン?」
「その……婚約のことですが、いったん保留にしていただけないでしょうか?」

 胸がつぶれるような思いになりながら、必死に言葉を吐き出す。オスリック殿下の顔が固まった。

「おい、それはどういうつもりだ」

 私にそう尋ねたのはオスリック殿下ではなく、近くで話を聞いていたアエルバートだった。

「オスリック兄さまはおまえとの結婚を賭けて決闘までしたんだ。それを終わった後に保留というのは、決闘そのものに対する侮辱ではないか!」
「それは……」
「まさかオスリック兄さまに決闘をさせておいて、オスリック兄さまが負けると思っていたわけではないだろうな!」

 アエルバートは怒りを露わにしていて、今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。

「ち、違います!」
「やめろ、アエルバート。そうセラフィンを責めるな」
「でも……」
「いいんだ」

 アエルバートを嗜めると、オスリック殿下は私へ視線を合わせる。はちみつ色の右目はその色の持つ印象もあってどこまでも優しい。
 すごく心が痛い。
 でも――。
 ちらりとブレアナを見ると、彼女は得体の知れない笑みを浮かべていた。

「セラフィン、俺は待つさ。セラフィンが自らの意思で俺を受け入れてくれるのを」
「……オスリック殿下」

 ごめんなさい、と心の中で謝罪した。何度も何度も。
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