40 / 49
38.ブレアナのお願い
しおりを挟む
兵士に案内されてやって来た控室に、私とブレアナは二人残された。
決闘後の挨拶に手間取っているらしく、オスリック殿下たちが戻って来るまではもう少し時間がかかるという話だ。
この時間にブレアナにオスリック殿下の目を治してもらえないか話してみよう。
けれど、私が口を開くよりも先にブレアナが話し出す。
「私、セラフィン様にお話しなければならないことがあるんですの」
可憐なブレアナは、珍しく真剣な眼差しだ。
「――オスリック様は治癒能力者を探していらっしゃいます」
「っ!」
私が話そうとした内容と同じ!
突然のことで私は返事ができないでいた。
「その様子ですと、セラフィン様はすでにご存じのようですね。そしてその治癒能力者というのは私のことなのです」
「そ、そう……」
前世の情報がある私はブレアナが治癒能力者であると知っていたけれど、事情を話すわけにはいかないので曖昧に返事する。
「私はオスリック様の妻になれば、オスリック様の望む治療をすると約束します。ですからどうか、セラフィン様からオスリック様に話を通してください」
「え……」
オスリック殿下の妻に……誰が? ブレアナが?
「オスリック様がセラフィン様を大切にされていることは知っています。ですので、セラフィン様から話してくだされば、オスリック様もきっと納得」
「ちょ、ちょっと待ってくださいブレアナ様。殿下の妻への推薦などという出過ぎたまねは、とてもではないですが私にはできません」
「そんなことありませんわ。セラフィン様を妻にと考えているオスリック殿下ですもの。セラフィン様直々にお伝えになれば、必ず考えを変えてくださいます。あ、もしかして私が治癒能力者というのが信じられませんか?」
強引に話を進めるブレアナの圧に負けて、少しずつ後ずさる。
「確かセラフィン様も同じ毒で苦しまれてますわよね。それを取り除いて差し上げます」
「な、なにを……」
今のブレアナの言葉で、さっき彼女が言っていた『オスリック様に毒の心配はありませんが』が聞き間違いでなかったことを理解する。
理由は分からないけど、ブレアナはオスリック殿下が毒に侵されて今なおその後遺症に悩んでいることを知っているようね。
ブレアナは私の前で両手を組み祈り始める。
光の粒が視認できるようになり、それが私の周りに集まって来ていた。
「なに、これ……」
不思議なことに危険な感じは一切しない。温かい光が私の体を覆い隠し、やがて影のようなものを私の中から引きずり出して消えていった。
「これで、セラフィン様の解毒は完了です。ね、信じていただけるかしら?」
まるで喉に布でも詰められてるみたいに、ブレアナへの返事ができない。
ブレアナは小さくて可愛くて、誰からも愛されるような子なのに……なのに私は、初めて彼女のことを怖いと感じた。
決闘後の挨拶に手間取っているらしく、オスリック殿下たちが戻って来るまではもう少し時間がかかるという話だ。
この時間にブレアナにオスリック殿下の目を治してもらえないか話してみよう。
けれど、私が口を開くよりも先にブレアナが話し出す。
「私、セラフィン様にお話しなければならないことがあるんですの」
可憐なブレアナは、珍しく真剣な眼差しだ。
「――オスリック様は治癒能力者を探していらっしゃいます」
「っ!」
私が話そうとした内容と同じ!
突然のことで私は返事ができないでいた。
「その様子ですと、セラフィン様はすでにご存じのようですね。そしてその治癒能力者というのは私のことなのです」
「そ、そう……」
前世の情報がある私はブレアナが治癒能力者であると知っていたけれど、事情を話すわけにはいかないので曖昧に返事する。
「私はオスリック様の妻になれば、オスリック様の望む治療をすると約束します。ですからどうか、セラフィン様からオスリック様に話を通してください」
「え……」
オスリック殿下の妻に……誰が? ブレアナが?
「オスリック様がセラフィン様を大切にされていることは知っています。ですので、セラフィン様から話してくだされば、オスリック様もきっと納得」
「ちょ、ちょっと待ってくださいブレアナ様。殿下の妻への推薦などという出過ぎたまねは、とてもではないですが私にはできません」
「そんなことありませんわ。セラフィン様を妻にと考えているオスリック殿下ですもの。セラフィン様直々にお伝えになれば、必ず考えを変えてくださいます。あ、もしかして私が治癒能力者というのが信じられませんか?」
強引に話を進めるブレアナの圧に負けて、少しずつ後ずさる。
「確かセラフィン様も同じ毒で苦しまれてますわよね。それを取り除いて差し上げます」
「な、なにを……」
今のブレアナの言葉で、さっき彼女が言っていた『オスリック様に毒の心配はありませんが』が聞き間違いでなかったことを理解する。
理由は分からないけど、ブレアナはオスリック殿下が毒に侵されて今なおその後遺症に悩んでいることを知っているようね。
ブレアナは私の前で両手を組み祈り始める。
光の粒が視認できるようになり、それが私の周りに集まって来ていた。
「なに、これ……」
不思議なことに危険な感じは一切しない。温かい光が私の体を覆い隠し、やがて影のようなものを私の中から引きずり出して消えていった。
「これで、セラフィン様の解毒は完了です。ね、信じていただけるかしら?」
まるで喉に布でも詰められてるみたいに、ブレアナへの返事ができない。
ブレアナは小さくて可愛くて、誰からも愛されるような子なのに……なのに私は、初めて彼女のことを怖いと感じた。
2
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる