毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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36.決闘開始

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 決闘当日は快晴だった。
 オスリック殿下たちが戦う城の闘技場はすり鉢状になっていて、中央を囲むように観客席がぐるりと取り囲んでいる。
 私はオスリック殿下に招待されて会場の中ほど辺りの席に案内された。

「ごきげんよう。セラフィン様」

 柔らかさと可憐さを兼ね備えた響きの声が耳に届く。隣からだ。

「ブレアナ様……ごきげんよう」

 言われていた通り、私の隣にはブレアナが座っていた。
 緊張する。
 私は今日、オスリック殿下の決闘を見に来ただけじゃない。ブレアナと話をする目的がある。

「ブレアナ様……」
「はい?」
「……え、えっと……いいお天気ですわね」
「ええ、とっても。以前セラフィン様と一緒にお庭を散歩したときも晴れてましたわ。私たち、おひさまに縁があるのかもしれませんわね」

 随分と可愛らしいことを言っていて、アエルバートがブレアナを好きになる気持ちが分かってしまった。彼女には人を惹きつける魅力がある。
 闘技場の中央に目を向けると、オスリック殿下とアエルバートが出てきたところだった。
 眼帯を付けているのは相変わらずだけど、普段と違い動きやすそうな騎士の服を身に纏っている。帯剣しているオスリック殿下は初めて。最初に出会ったときに戦っていたけれど、剣は使っていなかった。
 そう言えば、眼帯を付けたままで不利にならないのかしら。
 オスリック殿下は青い目を隠すために眼帯を付けているだけで、視力自体に問題があるわけじゃない。この決闘のときくらい外せたらよかったのに。

「この決闘は国王陛下預かりの下に行われます。相手を完全に制圧したときに勝敗が決するものとします。決闘による決定に後から不服を申し立てないことを宣言して下さい」

 オスリック殿下たちより十くらい年上の男性がレフェリーを務め、二人にこの決闘の説明を行った。
 オスリック殿下とアエルバートが共に胸に手を当てて誓う儀式が終わると、二人は距離を取る。

「アエルバート様のレイピア……」

 もう傷は完全に治っているはずなのに肩が痛んだ気がした。私の処刑の時に使われたものと同じかしら。

「使用するレイピアは普通のレイピアだとアエルバート様はおっしゃってましたわ」
「そ、そうなんですか?」

 よく考えれば毒の塗られたレイピアを使うはずがない。これは王太子と王子の決闘であり、命を懸けているわけではないのだから。

「対立していてもアエルバート様はオスリック様を慕っていますから。もっとも――」

 二人が剣を構えて、レフェリーの開始の合図がなされる。大きな歓声が観客たちから上がった。
 空気を震わせるように絶え間なく上がる歓声によってブレアナの声がかき消される。ブレアナがなんと言ったのか正確に聞き取れた自信がない。

『オスリック様に毒の心配はありませんが』

 聞き違いじゃなければ、ブレアナはそう言った気がする。
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