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34.決闘まで
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オスリック殿下が自分の部屋に戻ったあと、私は一人で情報を整理していた。
オスリック殿下が十年前に毒を受け、その後遺症で左目だけ青くなってしまったということ。私にも同じ現象が起こる可能性が高くて、それを治せるのは治癒能力者……。
「…………」
私は知っている、この世界の治癒能力者と呼ばれる人物が誰なのか。
ブレアナ=シュレイム――『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』のヒロイン。
そう考えると、オスリック殿下の目を治すのは難しいのかもしれない。
アエルバートがブレアナを溺愛していることから、おそらくこの世界はアエルバートルート。その場合ブレアナが結ばれるのはアエルバートだろうし、今アエルバートとオスリック殿下は対立しているから、ブレアナが素直にオスリック殿下の目を治すとは思えない。
「うーん、どうしたらいいのかな」
それに決闘というのも気になる。私がゲームをした限りではオスリック殿下とアエルバートが決闘したなんてシーンはなかった。仮にアエルバートルートでオスリック殿下との決闘シーンがあったのだとしたら、イケメン薬師が実は王太子だったって話題になったはずだし、私がDLCをできなかったから知らないだけということもないはずだ。
推測に過ぎないかもしれないけど……今のこの状況はストーリーの流れから大きく外れてる。何が理由なのかは分からないけど、私が生きてるのもゲームの話とは違ってるし。
「決闘後、オスリック殿下とアエルバートが仲直りできるのが一番いいのだけど」
私自身がアエルバートに疎まれているのを棚に上げて、オスリック殿下とアエルバートの仲を取り持てたらいいなと思った。
次の日にはオスリック殿下とアエルバートの決闘の話が城中に知れ渡っていた。どちらが勝つのかを賭ける不届きな輩もいるらしいけれど、今はそれを気にする余裕はない。
私はアキムさんに呼ばれて修練場へと向かっていた。そこでオスリック殿下が決闘に向けてのトレーニングをするらしい。
修練場に着くと、そこでは多くの兵士や騎士が自らの体を鍛えていた。
「お待ちしておりました」
「アキムさん。今日私が呼ばれたのって……」
「せっかくですので、オスリック殿下が訓練しているところを見てもらおうと思いまして」
アキムさんが視線で示す先にオスリック殿下の姿が見えた。剣を軽々と振るって練習相手と打ち合っている。あまりに易々と剣を扱うものだから、すごく軽いものなのかと錯覚してしまいそうになる。
「……殿下は心からセラフィン様のことを愛しているのですね」
「……っ、と、突然どうしたんですか?」
危うく淑女らしからぬ変な声を上げそうになったものの、なんとか抑え込んで尋ねた。
「オスリック殿下はセラフィン様のこととなると自分のことより優先されます」
「……申し訳ありません」
「責めてはいませんよ」
こうまで忠実にオスリック殿下に従っているのだから、アキムさんにとって殿下はよっぽど大切な人なのだろう。それはきっとオスリック殿下が王太子であるというだけでなく、きっと人として。
そんなオスリック殿下が、こうして私のように悪いうわさがついて回るような者と婚約しようとしているのだから、アキムさんはさぞ怒っているだろうと思っていたのだけれど。
「こうまで深く想うことのできる相手と出会えた殿下のことを祝福しているのです。セラフィン様、どうか殿下のことをよろしくお願いします」
「アキムさん、気が早いですわ。まずはオスリック殿下が決闘に勝たないことには婚約もできませんから」
「そうでしたね。もしも……殿下が負けたら、そのときはセラフィン様はどうなさいますか?」
殿下が負けた場合のことは考えないようにしていた。オスリック殿下も勝つ気でいるみたいだったし。
けれど心の中でどうするかは決まっていた。
「そのときは――」
答えると、アキムさんは一度目を丸くした後、優しく微笑んだ。
オスリック殿下が十年前に毒を受け、その後遺症で左目だけ青くなってしまったということ。私にも同じ現象が起こる可能性が高くて、それを治せるのは治癒能力者……。
「…………」
私は知っている、この世界の治癒能力者と呼ばれる人物が誰なのか。
ブレアナ=シュレイム――『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』のヒロイン。
そう考えると、オスリック殿下の目を治すのは難しいのかもしれない。
アエルバートがブレアナを溺愛していることから、おそらくこの世界はアエルバートルート。その場合ブレアナが結ばれるのはアエルバートだろうし、今アエルバートとオスリック殿下は対立しているから、ブレアナが素直にオスリック殿下の目を治すとは思えない。
「うーん、どうしたらいいのかな」
それに決闘というのも気になる。私がゲームをした限りではオスリック殿下とアエルバートが決闘したなんてシーンはなかった。仮にアエルバートルートでオスリック殿下との決闘シーンがあったのだとしたら、イケメン薬師が実は王太子だったって話題になったはずだし、私がDLCをできなかったから知らないだけということもないはずだ。
推測に過ぎないかもしれないけど……今のこの状況はストーリーの流れから大きく外れてる。何が理由なのかは分からないけど、私が生きてるのもゲームの話とは違ってるし。
「決闘後、オスリック殿下とアエルバートが仲直りできるのが一番いいのだけど」
私自身がアエルバートに疎まれているのを棚に上げて、オスリック殿下とアエルバートの仲を取り持てたらいいなと思った。
次の日にはオスリック殿下とアエルバートの決闘の話が城中に知れ渡っていた。どちらが勝つのかを賭ける不届きな輩もいるらしいけれど、今はそれを気にする余裕はない。
私はアキムさんに呼ばれて修練場へと向かっていた。そこでオスリック殿下が決闘に向けてのトレーニングをするらしい。
修練場に着くと、そこでは多くの兵士や騎士が自らの体を鍛えていた。
「お待ちしておりました」
「アキムさん。今日私が呼ばれたのって……」
「せっかくですので、オスリック殿下が訓練しているところを見てもらおうと思いまして」
アキムさんが視線で示す先にオスリック殿下の姿が見えた。剣を軽々と振るって練習相手と打ち合っている。あまりに易々と剣を扱うものだから、すごく軽いものなのかと錯覚してしまいそうになる。
「……殿下は心からセラフィン様のことを愛しているのですね」
「……っ、と、突然どうしたんですか?」
危うく淑女らしからぬ変な声を上げそうになったものの、なんとか抑え込んで尋ねた。
「オスリック殿下はセラフィン様のこととなると自分のことより優先されます」
「……申し訳ありません」
「責めてはいませんよ」
こうまで忠実にオスリック殿下に従っているのだから、アキムさんにとって殿下はよっぽど大切な人なのだろう。それはきっとオスリック殿下が王太子であるというだけでなく、きっと人として。
そんなオスリック殿下が、こうして私のように悪いうわさがついて回るような者と婚約しようとしているのだから、アキムさんはさぞ怒っているだろうと思っていたのだけれど。
「こうまで深く想うことのできる相手と出会えた殿下のことを祝福しているのです。セラフィン様、どうか殿下のことをよろしくお願いします」
「アキムさん、気が早いですわ。まずはオスリック殿下が決闘に勝たないことには婚約もできませんから」
「そうでしたね。もしも……殿下が負けたら、そのときはセラフィン様はどうなさいますか?」
殿下が負けた場合のことは考えないようにしていた。オスリック殿下も勝つ気でいるみたいだったし。
けれど心の中でどうするかは決まっていた。
「そのときは――」
答えると、アキムさんは一度目を丸くした後、優しく微笑んだ。
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