毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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33.オスリックの過去

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「そうだ。妻になるにあたって知っておいてもらいたいことがある」
「気が早くありませんか? いえ、いいですけれど」

 こういうときのオスリック殿下には何か考えがある。だから指摘するだけ無駄だ。

「俺の」

 オスリック殿下は左目に手をやり眼帯を外す。久しぶりに見るオスリック殿下の青い瞳。

「この青い瞳についての話だ。アンタにも関係する」
「私に?」
「この青い瞳はアロロガシー家の毒の作用によって引き起こされるものだ。まだ定着していないが、セラフィンにもその兆候が出ている」
「え……待ってください。それって……」

 まるでオスリック殿下も同じ毒に侵されたことがあるみたいな言い方だわ。
 オスリック殿下は「ああ」と大きく頷いた。

「十年前に俺もセラフィンと同じ毒を受けた。どうやら食事に混ぜられていたらしい」
「……よくご無事でしたね」

 アロロガシー家の毒は強力で厄介だと聞いている。それなのにオスリック殿下はこうして元気にしている。

「あの日、俺は外で見つけた珍しい草を試しに口に含んだのだが、どうやらそれが良くなかったらしくてね……胃の調子が悪い中無理に夕食を食べて戻してしまったんだ。同時に毒も吐き出せていて、体に入った量が少なくて済んだ。相手が経口摂取を選んでくれたおかげで助かったってわけだな」
「なるほど……」

 十年前にご病気と発表されて、それ以降姿を消していたのはこういう訳があったのね。

「毒は俺の命を奪うまではいかなかったが、その代わりに左目の色を変えてしまった」
「私も同じように……?」
「おそらくな。青い瞳は、体の中に抗体ができて解毒が不要になったということも示している。そしてその抗体は毒に対する解毒薬になる。俺の唾液が解毒薬になるのも、俺の中に抗体があるのが理由だ」

 解毒が不要になるということは、オスリック殿下の手を煩わせなくて済むということ。それは私にとって喜ばしいことだった。

「命の心配がなくなるのはいいことだが、それで良しとは思わない」

 オスリック殿下の顔が近づいて来て、息がかかるほどの至近距離で顔を覗き込まれる。

「この綺麗な真昼の空の色をした瞳が別の色に変わってしまうのは惜しい」
「オ、オスリック殿下……」

 ち、近すぎる。
 眼帯をしていないオスリック殿下の素顔を間近で見ることになって、鼓動が加速していく。
 ほんの一瞬、唇にキスが落とされた。

「俺は体内から完全に毒を消す方法を探しているんだ。この十年間、俺が薬師として仕事をしてきたのもそれが理由」
「そんな理由が……方法はまだ見つかっていないんですね」

 もしも私がちゃんとDLCまでプレイできていたらオスリック殿下の事情もその解決方法も知っていたのだろう。つくづく悔やまれる。
 しかし私の落胆に反して、オスリック殿下は強気に微笑んだ。

「確実な情報ではないが、数百年に一度現れる治癒能力者とやらがすべての病を治せるそうだ。その治癒能力者とやらを見つけることができればと思っている」
「え……」

 それって――。
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