毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

文字の大きさ
上 下
34 / 49

32.【Side:オスリック】決闘の提案

しおりを挟む
「け、決闘……?」

 困惑した声を上げたのはセラフィンだった。
 セラフィンへの説明も兼ねて、俺は父に向って言葉を続ける。

「私が王太子の権限を使ってセラフィンを妻にしようとしたとしても、アエルバートは納得しないでしょう」

 セラフィンの拉致監禁を企てたのはアエルバートだ。目的がセラフィンの命なら、今後も何か仕掛けてくるはずだ。
 いつもいつも後手に回るわけにはいかない。今回はこちらからチャンスをちらつかせて、行動を制限してやる。

「私が決闘に勝てばセラフィンとの結婚に今後一切手出し口出しをしないと誓ってもらう」
「私が勝ったら?」
「王太子の座をおまえに譲ろう。ただし、セラフィンに危害を加えることだけは許さない。どうだろう?」

 アエルバートは王太子の座を欲している。この提案に乗って来るはずだ。
 アエルバートは少し考える素振りを見せた後、口元に笑みを浮かべた。

「その提案、乗りましょう」




 話がまとまり、俺はセラフィンと共に謁見の間を後にした。
 二人でセラフィンの部屋に戻ると、彼女は心配そうな顔で俺を見つめてきた。

「あの、オスリック殿下! 決闘なんて……」
「セラフィンは俺が負けると思っているのか?」
「そ、そういうわけでは……」

 セラフィンがこういう反応をするのは予想の範囲内だ。

「……俺は強いよ」

 自分の手を見つめながら、ここ十年の生活を振り返る。王城でのんびりと暮らしていたときとは違い、身の回りのことの大半を自分でやっていた。アキムの助けもあったけれど、それでも自分が成長した実感はある。

「確かにオスリック殿下は以前ひったくりと戦っていましたし、弱いとは思っていません。ですが私との結婚のためになんて……」

 おおかた決闘するくらいなら身を引くとでも言いたいのだろう。

「結婚というか……アンタの身の安全のためだ」
「え……」
「今回の決闘、勝っても負けてもアンタの命は狙われなくなる。アエルバートは王太子の座に目が眩んで簡単に条件を呑んだからな」

 もちろん勝つつもりではあるが、負けたときにセラフィンが命を落とすようなことがあってはいけない。どうやらアエルバートにとって、王太子の座はセラフィンの命よりも優先度が高かったようだ。

「私……私の命のためにオスリック殿下に危険なことをして欲しくありません」

 深刻な表情で訴えてくるが、俺の意見とは合わない。

「決闘とはいっても、どちらかが命を落とすまでやるようなものではないよ。そもそも、俺だって自らの手で弟の命を奪いたいとは思っていないからね」
「そう、なんですか……」

 まだ納得できてなさそうなセラフィンに、さらに説明を続ける。

「実際に掛かっているのは俺の命ではなく王太子の座のみだ。セラフィンを手に入れるために賭けるものとしてはちょうどいい程度だと思うよ」
「……王太子の座はそう簡単に賭けていいものではありません」
「なんだか言いようがアキムに似てきたな。だが王太子の座が軽いんじゃなく、セラフィンへの思いが重いんだ。そこのところの理解は正確に頼む」

 彼女は口を閉じた。真っ赤な顔をしているところを見るに、ちゃんと俺の感情は伝わったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...