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32.【Side:オスリック】決闘の提案

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「け、決闘……?」

 困惑した声を上げたのはセラフィンだった。
 セラフィンへの説明も兼ねて、俺は父に向って言葉を続ける。

「私が王太子の権限を使ってセラフィンを妻にしようとしたとしても、アエルバートは納得しないでしょう」

 セラフィンの拉致監禁を企てたのはアエルバートだ。目的がセラフィンの命なら、今後も何か仕掛けてくるはずだ。
 いつもいつも後手に回るわけにはいかない。今回はこちらからチャンスをちらつかせて、行動を制限してやる。

「私が決闘に勝てばセラフィンとの結婚に今後一切手出し口出しをしないと誓ってもらう」
「私が勝ったら?」
「王太子の座をおまえに譲ろう。ただし、セラフィンに危害を加えることだけは許さない。どうだろう?」

 アエルバートは王太子の座を欲している。この提案に乗って来るはずだ。
 アエルバートは少し考える素振りを見せた後、口元に笑みを浮かべた。

「その提案、乗りましょう」




 話がまとまり、俺はセラフィンと共に謁見の間を後にした。
 二人でセラフィンの部屋に戻ると、彼女は心配そうな顔で俺を見つめてきた。

「あの、オスリック殿下! 決闘なんて……」
「セラフィンは俺が負けると思っているのか?」
「そ、そういうわけでは……」

 セラフィンがこういう反応をするのは予想の範囲内だ。

「……俺は強いよ」

 自分の手を見つめながら、ここ十年の生活を振り返る。王城でのんびりと暮らしていたときとは違い、身の回りのことの大半を自分でやっていた。アキムの助けもあったけれど、それでも自分が成長した実感はある。

「確かにオスリック殿下は以前ひったくりと戦っていましたし、弱いとは思っていません。ですが私との結婚のためになんて……」

 おおかた決闘するくらいなら身を引くとでも言いたいのだろう。

「結婚というか……アンタの身の安全のためだ」
「え……」
「今回の決闘、勝っても負けてもアンタの命は狙われなくなる。アエルバートは王太子の座に目が眩んで簡単に条件を呑んだからな」

 もちろん勝つつもりではあるが、負けたときにセラフィンが命を落とすようなことがあってはいけない。どうやらアエルバートにとって、王太子の座はセラフィンの命よりも優先度が高かったようだ。

「私……私の命のためにオスリック殿下に危険なことをして欲しくありません」

 深刻な表情で訴えてくるが、俺の意見とは合わない。

「決闘とはいっても、どちらかが命を落とすまでやるようなものではないよ。そもそも、俺だって自らの手で弟の命を奪いたいとは思っていないからね」
「そう、なんですか……」

 まだ納得できてなさそうなセラフィンに、さらに説明を続ける。

「実際に掛かっているのは俺の命ではなく王太子の座のみだ。セラフィンを手に入れるために賭けるものとしてはちょうどいい程度だと思うよ」
「……王太子の座はそう簡単に賭けていいものではありません」
「なんだか言いようがアキムに似てきたな。だが王太子の座が軽いんじゃなく、セラフィンへの思いが重いんだ。そこのところの理解は正確に頼む」

 彼女は口を閉じた。真っ赤な顔をしているところを見るに、ちゃんと俺の感情は伝わったらしい。
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