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31.憂い

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 謁見の間に入ったのはアエルバートの婚約者に決定したときの一度きり。オスリック殿下が一緒とはいえ緊張するなというのが無理な話だった。
 目の前には玉座に座った国王陛下がこちらを見下ろしている。

「こうして二人で訪ねてきた段階で予想されていると思いますが、私、オスリック=コンポードはセラフィン=ハイタッドを妻とする決意を致しました」

 凛とした声音でオスリック殿下が国王陛下に宣言する。

「……セラフィン=ハイタッドはアエルバートの婚約者だった」
「はい」
「アエルバートが婚約者の資格なしと判断した者を、おまえは妻とするのか?」

 私も同じ懸念をしていたから、国王陛下が言いたいことは理解できた。婚約者にしておくわけにはいかない、と失格の判を押された私を、今度は王太子が妻にしようと言い出したのだから国王陛下だって心配する。

「アエルバートが何をもって婚約破棄……いえ、処刑をするまでに至ったのかは知りませんが、私は自分の見る目を信じます。彼女は聡明で勇敢で優しい女性です。私の妻に、そして未来の王妃に相応しいと信じています」

 隣で淀みなくそう述べたオスリック殿下の横顔に、褒められた本人の私が唖然としてしまう。そんな風に思われていたなんて知らなかった。

「……分かっ」
「お待ちください、国王陛下!」

 兵士の静止も聞かずに強引に扉を開けて入って来たのはアエルバートだった。

「私は納得できません。オスリック兄さまはこの国の王太子であり、今後国王となられるお方。そのオスリック兄さまの婚約者にセラフィンは相応しくない!」

 なんて目で見るの。その目には憎しみの炎がメラメラと燃えている。
 今にも腰のレイピアを抜いて襲い掛かってきそうな勢いのアエルバートに思わず後ずさる。そこにオスリック殿下が私をかばうように立ちはだかった。

「口を慎め。国王陛下の御前だぞ」
「オスリック兄さまは騙されているんです! その女はこの国を自分の思うように動かしたいだけの強欲な女だ。とてもじゃないが王妃になんかなるべき人ではない‼」
「おまえがセラフィンの何を知っていると言うんだ!」

 アエルバートの勢いに対してオスリック殿下も言葉が強くなる。
 このままじゃ喧嘩になってしまうわ。
 二人の間に入って仲裁したくとも、二人は王太子と王子な上に原因は私。どうすることもできずにオロオロするばかり。

「止めないか、二人とも!」

 低く威厳ある声が二人をいさめる。

「今回の話はオスリックの婚約者についてだ。オスリックが決めなさい」

 その言葉は国王陛下がオスリック殿下の味方であることを示していた。

「そんな……クソッ!」

 アエルバートが苛立たし気に床を蹴る。そのまま私をきつく睨んだ。
 それを見ていたオスリック殿下が何かを決意したように国王陛下の前に進み出た。

「私から提案があります。私とアエルバート、決闘を行いどちらが正しいのかはっきりさせましょう」
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