32 / 49
30.いつもと違う治療
しおりを挟む
――どうしましょう。
朝食を終えた私は、もうすぐやって来るオスリック殿下を待ちながらソワソワとしていた。
朝食後はいつも通り治療の時間。でも今までとは違って、オスリック殿下に求婚されてから初めてのこと。
これからはキスに意味が追加されてしまう。
落ち着かない状態でいると、オスリック殿下がやって来た。こちらは意識しているのに、殿下の表情は普段と変わらないものに見える。
「調子はどう?」
「き、緊張してます……」
オスリック殿下が小さく噴き出した。
「そうか。嬉しいよ。……他に気になるところがなければ治療を始めようか」
心臓が壊れそうなほど早い。すでに息が苦しくって、このままキスをしたら頭がどうにかなってしまいそう。
「心配しないで。怖いことなんて何もない。今までもそうだっただろ」
はちみつの色をした瞳に目を奪われると、自分の体が自分のものでなくなってしまったみたいに動けなくなる。
顎に手を掛けられ、スッと顔が上を向く。顔が近づいてきたのに気付いて、慌てて目を閉じた。
唇が合わさったのでいつも通りにそっと口を開く。舌が絡むのを期待していたのに、角度を変えて唇を吸われるだけでそこから先に進まない。
焦れた私がこっそり目を開くと、オスリック殿下がいたずらに成功した子供みたいな顔をして笑っていた。
「なっ……見ていたんですかっ?」
「アンタがどんな顔して俺とキスしてるのか知りたくなってな。……可愛い」
「もうっ!」
トロトロに溶け切った甘い蜜のような感情をダイレクトにぶつけられて、もういっぱいいっぱいだった。
「ははっ、悪かった」
全然悪びれもせずにオスリック殿下は再びキスをしてくる。
今度はちゃんと舌が絡み、唾液が混ざり合う。
こんな風にオスリック殿下の婚約者としてキスをしているなんて、まだ信じられない。夢でも見てる気分。けれどただの治療には不必要なくらいに長い時間舌を絡めていることで、このキスにはオスリック殿下の気持ちも含まれてるんだと感じた。
治療名目のキスを終えると、オスリック殿下は甘やかな笑顔から真面目な顔へと表情を変えた。
「これから国王陛下への報告に向かう。もう後戻りはできないが、覚悟はいいな?」
「……はい、としか言わせる気がないのでしょう?」
他のご令嬢の方が相応しいのかもしれないという引け目はまだある。それでも、オスリック殿下が私を選んでくださるというのなら、信じて付いて行こう。
「そうだ」
オスリック殿下が差し出した腕に手を掛ける。
「さあ、一緒に行こう――謁見の間へ」
朝食を終えた私は、もうすぐやって来るオスリック殿下を待ちながらソワソワとしていた。
朝食後はいつも通り治療の時間。でも今までとは違って、オスリック殿下に求婚されてから初めてのこと。
これからはキスに意味が追加されてしまう。
落ち着かない状態でいると、オスリック殿下がやって来た。こちらは意識しているのに、殿下の表情は普段と変わらないものに見える。
「調子はどう?」
「き、緊張してます……」
オスリック殿下が小さく噴き出した。
「そうか。嬉しいよ。……他に気になるところがなければ治療を始めようか」
心臓が壊れそうなほど早い。すでに息が苦しくって、このままキスをしたら頭がどうにかなってしまいそう。
「心配しないで。怖いことなんて何もない。今までもそうだっただろ」
はちみつの色をした瞳に目を奪われると、自分の体が自分のものでなくなってしまったみたいに動けなくなる。
顎に手を掛けられ、スッと顔が上を向く。顔が近づいてきたのに気付いて、慌てて目を閉じた。
唇が合わさったのでいつも通りにそっと口を開く。舌が絡むのを期待していたのに、角度を変えて唇を吸われるだけでそこから先に進まない。
焦れた私がこっそり目を開くと、オスリック殿下がいたずらに成功した子供みたいな顔をして笑っていた。
「なっ……見ていたんですかっ?」
「アンタがどんな顔して俺とキスしてるのか知りたくなってな。……可愛い」
「もうっ!」
トロトロに溶け切った甘い蜜のような感情をダイレクトにぶつけられて、もういっぱいいっぱいだった。
「ははっ、悪かった」
全然悪びれもせずにオスリック殿下は再びキスをしてくる。
今度はちゃんと舌が絡み、唾液が混ざり合う。
こんな風にオスリック殿下の婚約者としてキスをしているなんて、まだ信じられない。夢でも見てる気分。けれどただの治療には不必要なくらいに長い時間舌を絡めていることで、このキスにはオスリック殿下の気持ちも含まれてるんだと感じた。
治療名目のキスを終えると、オスリック殿下は甘やかな笑顔から真面目な顔へと表情を変えた。
「これから国王陛下への報告に向かう。もう後戻りはできないが、覚悟はいいな?」
「……はい、としか言わせる気がないのでしょう?」
他のご令嬢の方が相応しいのかもしれないという引け目はまだある。それでも、オスリック殿下が私を選んでくださるというのなら、信じて付いて行こう。
「そうだ」
オスリック殿下が差し出した腕に手を掛ける。
「さあ、一緒に行こう――謁見の間へ」
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる