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29.求婚

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「つ、ま…………? オスリック殿下、私を妻にしたいとおっしゃったのですか?」

 信じられない。そんな展開あるはずがない。
 私はこの世界の悪役令嬢で、死ななければ幸運という状況にあった。こうして今を生きていられるだけでも奇跡に近いのに、オスリック殿下の妻になる幸せなんて考えられない。

「わ、私は、アエルバート様の元婚約者で……それも処刑されそうになって婚約破棄されたんですよ。そ、れはオスリック殿下もご存じのはずです」
「もちろん知っているさ。だがそれの何が悪い? 俺はセラフィンのことが好きだ。今アンタに婚約者がいないことが確かで、俺がアンタを好きなら、確認するべきことはあと一つだけだろ?」

 オスリック殿下の手の熱をやけに感じてしまい、のぼせてしまいそうだった。

「……俺の妻になるのは、嫌か?」
「…………その聞き方は……」
「ああ、卑怯だろうな。だが俺だって必死なんだ。アンタに『うん』と言わせるためなら手段を選んではいられない」
「……私にはオスリック殿下の望む返答をすることはできません。もっと殿下に相応しいご令嬢が他に」
「いない」

 私が言い終わるよりも先に、オスリック殿下の強い声が言葉を奪っていった。

「相応しいかどうかの基準というのは、俺が結婚したいと思うかどうかだ。その基準で言えば、セラフィンしかいない」

 オスリック殿下のように顔が綺麗で優しい性格の男性にこうまで言われてしまえば、すぐにでも「はい」と答えてしまいたくなる。それほどオスリック殿下の口説き文句は魅力的だった。
 本当ははっきり断るべきなのに心の奥底の自分がそれを嫌がってしまい、私は沈黙するしかない。

「俺ではダメか? まだアエルバートに未練があるのか?」
「そ、それは絶対にありません! ですが……」
「セラフィンの素直な気持ちを聞かせてくれ。俺はアエルバートのように感情表現が豊かではないが、セラフィンが望むなら伝える努力だってする。俺のダメなところを教えてくれ」
「オスリック殿下にダメなところなんてありません」

 オスリック殿下は今まで表舞台に出てきていなかったから他のご令嬢たちの熱視線を受けてないだけで、ひとたび目に触れれば多くの女性たちが殺到するに決まってる。殿下は間違いなく魅力的な人物だから。

「オスリック殿下は優しくて頭も良くて慈悲深い……最高の男性だと思います」
「けどセラフィン、アンタに好かれなきゃそんなのまったく意味がない。もしも俺のことを好きという気持ちがあるなら、好きだと言って欲しい。俺はアンタに好きだと言われたい」

 オスリック殿下の瞳の奥にちらりと揺れた弱気。ほんの一瞬だったけど、そんな顔をオスリック殿下にさせてしまった罪悪感が膨れ上がる。
 思わず、私は気持ちを口に出していた。

「好き……好きに決まってるじゃないですか!」

 一瞬呆けた表情をしたオスリック殿下だったけど、すぐに笑顔が浮かぶ。

「それが聞けて嬉しい」
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