毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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26.【Side:オスリック】日の出

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 日付が変わってどれくらいの時間が経っただろう。町はすっかり眠りについていて、出歩いている一般人の姿はほとんどない。
 俺たちは空き家となっている建物に入り、セラフィンの姿を捜した。
 しかし見つからない。町から出ていない以上どこかにいるはずだが、どの建物にも人の姿はなかった。
 まさか、空き家ではなくどこか人が使用している建物にいるのか?
 その可能性を考慮から外していたわけではない。だが不可能に近い。
 セラフィンに危害を加えようとしたのはアエルバートやブレアナやその周囲にいる王族貴族の類であり、城下町に住む一般人が主犯であることはありえない。

「……一般人を巻き込んだのか?」

 そんなことがあるのか?
 一般人に犯罪の協力をさせるのは難しい。貴族間の関係と違ってメリットが生まれにくく、デメリットしかない。一般人側からしたら余計なことに関わって目を付けられるのを避けたいはずだ。
 そうやってどこの誰だったら得をするのかを考えていく間に、どんどん時間が流れていく。

「オスリック殿下。いったん朝まで休んで、店が開店すると同時に再度聞き込みをしましょう」

 報告に来たアキムが深刻な表情のままでアドバイスをくれた。

「……ダメだ。朝になればセラフィンの解毒の時間だ。それまでに見つける必要がある」
「しかし殿下は式典に参加してお疲れのはずです。無理をしていては考えもまとまらないのではないですか」

 アキムの助言は的を射ている。さっきから思考が広がっていかず、無駄に何度も同じところを往復している感覚があった。

「……夜が明ける前まで一度休む」

 休む判断すらできなくなる前に休んだ方がいい。
 セラフィンの捜索は一時中断となった。




 日が昇る前に目を覚まし、開店の準備を始めた人たちを捕まえて情報収集を再開させる。セラフィンらしき令嬢の目撃証言をいくつか手に入れた。
 靴屋の主人が買い物をしようとしているセラフィンを覚えていた。

「それでその女性がどこに向かったかご存じですか?」
「ああ、それなら……ほら、向こうの道の端の方へ向かっていったみたいだよ」
「端……?」

 店主が指差した方向へと目をやるが、しばらく行くと行き止まりになっている。

「最近できた新しい店の評判がよくて人がよく集まってるよ。その娘さんもそこに行ったんじゃないかな」
「帰る姿は見なかったのか?」
「帰り? さぁ? ずっと見ていたわけじゃないから分からないな」
「そうか。忙しいところありがとう」

 セラフィンの足取りとして初めて具体的な話が聞けた。朝まで待った甲斐がある。
 新しい店とやらの近くまで行こうとすると、その手前に見覚えのない道ができている。以前までここは物置小屋が建っていて通れなかったはずだ。
 小屋がなくなったからといっても、この先に何もないのは変わらないはず……だが妙に気になる。この辺りでセラフィンが目撃されたせいだろうか。
 馴染みある城下町の中の馴染みない道。そこを慎重な足取りで進んでいく。

「ここは……?」

 誰が建てたのか、いびつな形をした石造りの小さな建物があった。
 こんな建物があったなんて、俺は知らないぞ……。
 ずっと近くの森に住んでいて、城下町にはよく買い物に訪れていた。この辺りの地理には詳しいつもりだったが、こんな建物いつの間にできたのだろう。
 俺ですら知らなかったのだから、おそらくこの中は兵士たちも調べていない。
 ドンドン、と壁を叩く。

「おい、誰かいないのか?」

 聞き逃さないように耳を澄まして返事を待つ。
 ガサッ、トン、トン。

「っ!」

 音がした。間違いない、中に誰かいる。
 中にいるのがセラフィンだと期待して、懐に忍ばせていたナイフでドアに掛かっていた錠を切りつける。二度三度甲高い音を立てながら錠に力を加えると、最後は鈍い音がして壊れた。

「おい、大丈夫か!」

 中に踏み込むとそこには手足を縛られて口に布を巻かれた侍女が倒れている。ドアの近くにいるところを見るに、さっきのは彼女が足で壁を蹴った音だったのだろう。
 急いで口を解放してやると、叫ぶように彼女が話し出した。

「奥にセラフィン様がいるんです! 先にそちらを助けてください!」
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