毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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21.習慣

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 夜になって、オスリック殿下が私の部屋を訪ねてきた。その顔には心配と呆れが浮かんでいる。

「元気になったと思ったらすぐにベッドに逆戻りか。あまり心配をさせないでくれ」
「すみませんでした」
「階段から落ちたと聞いたときには肝が冷えたよ」
「……すみませんでした」

 二度同じように謝ると、オスリック殿下はもういいとでも言うように頭を振った。どうでもいいとかそういう悪い意味ではなく、自分の気持ちを抑えるみたいな感じだ。
 オスリック殿下の言ってることは共感できる。私もまさかこんなにすぐにベッド生活を再開することになるとは思ってなかった。

「アンタを診た医者から背中と腕の打ち身だと聞いた」
「骨は折れてなかったみたいです。けっこう頑丈なんですよ、私」

 ふふふ、と笑ってみせたけれど、オスリック殿下の表情は晴れない。

「……治療薬は持ってきた」
「あ、治療ですか」

 普段通りに目を閉じる。
 当たり前のように待っていた。けれどいつまで経っても唇に何かが触れる気配はない。
 どうしたんだろう。

「……?」

 一度目を開けてみると、ポカンとした様子のオスリック殿下が目に入る。

「どうしたんですか?」

 首を傾げて尋ねると、オスリック殿下の頬に少し赤みが差した気がする。
 オスリック殿下は手に持っていた袋を掲げて見せ、その中から缶を取り出した。

「……毒の治療ではないからキスを待たずに腕を出して欲しい」
「っ~~っ⁉」

 頭が真っ白になった。
 私ったらなんてことを! 恥ずかしい!
 絶対に顔が真っ赤になってる、と後悔しながら広い袖口をまくって腕を見せた。

「……熱を持ってるな。これは腫れるぞ」
「お、お医者様もそう言っていました」

 オスリック殿下の手が私の腕をなぞるように触れていく。その指先の熱が肌に伝わって来て、それがさらなる緊張を煽る。

「……このあたりか」

 薬を手に取ったオスリック殿下がぬるぬる粘り気のある液体を腕に塗っていく。怪我で熱を持っていた箇所が冷えていって気持ちいい。

「……反対の腕も」

 オスリック殿下の指示に従って動く。
 オスリック殿下に薬を塗ってもらっている時間、部屋の中はとても静かだった。いつもならもっとオスリック殿下の口数は多いのに。心配かけすぎて呆れられてしまったのかもしれない。

「あとは……」

 そこまで言ってオスリック殿下は口ごもった。
 腕以外の怪我の箇所は背中。薬を塗るとなると、当然服を脱がなければならなくなるわけで……。

「……すまないが、背中は侍女を呼んでくれ。俺は自分の部屋に戻る」
「あ……はい」

 私が返事するよりも早く、オスリック殿下は薬を置いて部屋を出て行ってしまった。
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