毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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17.【Side:オスリック】オスリックの計画

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 王城に戻って来てから実に忙しい日々を過ごしている。
 森の中の住宅で使っていた生活用品をアキムに持って来てもらいながら、俺は王城から出ないようにしていた。
 理由はセラフィンだ。見たところ肩の怪我は浅く、傷も回復するだろうが、問題は毒の方だった。彼女の容態が悪化したときに治療できるのは俺しかいない。

「オスリック殿下、頼まれていた本をお持ちしました」

 そう言って入って来たアキムは十冊ほどの本を抱えていた。

「ああ、助かる。まだこっちに戻って来る予定ではなかったからな。何の準備もしていなかったせいで、満足に研究ができない」

 本を机に置いたアキムは何か言いたげな様子でこちらを見ている。

「……一応聞くんですけど、この後セラフィン様のことはどうするおつもりですか?」
「セラフィンのこと? 治療を続けていくつもりだ」
「それをいつまで続けるのかという話です。大体、アロロガシー家の毒ということは、完治の方法が不明ということですよ。最悪の場合、生涯セラフィン様の治療をする必要が出てきます」
「それの何が問題なんだ?」

 セラフィンを助けると決めたときからその可能性は考えていたし、その上で大した問題ではないと思っている。
 アキムが目を眇めて嫌そうな顔をした。

「…………まさかとは思いますが、オスリック殿下はセラフィン様を妻にするおつもりじゃないでしょうね」
「そのつもりだ」
「だと思いましたよ! 好きって言ってましたもんね! アエルバート様が婚約を破棄されたのであれば、これ幸いと自分の婚約者にするのは目に見えていましたよ!」

 一人で興奮し始めて、アキムは一息でまくし立てる。

「アキム。そこまで分かっていながら、どうして問題視するんだ」
「が、い、ぶ、ん‼ 外聞ですよ、殿下! 弟王子が婚約破棄した相手を自分の結婚相手にするのは、その過程が正当であれ良くない噂が流れるものです!」

 王族や貴族が外聞を重視するのを知っている。俺だってそれを軽々しく否定するつもりはない。

「外聞というのなら、セラフィンはどうなる? 不当に婚約破棄をされた上に処刑までされかけたんだ。表立って悪く言う者は少数だが、煙たがられるのは目に見えている」
「ですが、あなたは王太子なんですよ」
「惚れた女を見殺しにするのは自分で自分が許せない、って前にも言っただろ。まぁ、外聞の方はどうとでもなるからいいとして……とりあえずこれを見てみろ」

 話をアキムに持っていかれてしまったが、アキムが来たら見せたいと思っていた本があったのだ。該当のページを開いてアキムに差し出すと、まだ少し不満そうだが素直にページに目をやった。

「城の書庫で見つけたんだ。どうやら最近の本のようだが……ほら、ここ」

 指差した先に書かれているのは、近年歴史学者が発見した新たな伝承。

「数百年に一度現れる治癒能力者はすべての病気や怪我を治すことができる、とある。これが事実なら治癒能力者とやらを見つければ、セラフィンの毒も治せるだろう」
「なるほど。そしたらセラフィン様を妻にする必要性もなくなりますね」
「……そういうことだ」

 必要性はなくなる。だがそれが結婚をしないことになるわけじゃない。
 できることなら毒に苦しむセラフィンに付け込んで妻にするよりも、健康なセラフィンに望んで妻になってもらいたい。
 きっとアキムは反対するだろうが、これが俺の望んでいるセラフィンとの関係だ。
 それに――。
 治癒能力者がすべての病気や怪我を治せるのなら、この左目もきっと……。
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