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13.【Side:オスリック】王太子の帰還

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「何者だ⁉ 兵士たち、この不審者を捕らえよ!」

 アエルバートは俺を見るなり腕を引き、周囲に控えていた兵士に指示を出す。

「不審者だと? 口を慎め、アエルバート=アロロガシー!」

 あえてフルネームで呼んでやるとアエルバートの顔色が変わる。
 アエルバートの姓は俺と違って国の名のコンポードではない。この国では、王の子の中でも王太子にのみコンポードの姓が与えられる。それ以外の子供は母方の姓を名乗らなければならないのだ。
 王太子とそれ以外の王子ではまったく地位が違う。それがこの国での常識である。
 王になるつもりがあるのならアロロガシーの姓を呼ばれることに抵抗があるだろうと踏んでいたが、想像以上にアエルバートに効いたらしい。

「だ、黙れ……どこの国の者かは知らないが、この国で僕にそんな口をきいてただで済むと思っているのか?」
「ああ、当然思っている」

 俺を取り囲もうとしている兵士に対して指示を出す。

「オスリック=コンポードの名において命ずる。アエルバートはどうやら錯乱しているらしい……落ち着くまで彼を別の部屋に」

 兵士たちは戸惑いを見せ、俺とアエルバートの顔を交互に見る。どちらの命令を聞けばよいのか分からないのだろう。
 アエルバートも俺の顔を見てポカンと口を開けていた。しかしそれも数秒のことで、アエルバートは頭を振って正気を取り戻す。

「騙されるな! オスリック兄様が姿を見せなくなったのはもう十年も前のことだ。この者がオスリック兄様だと証明できる者がいない!」
「いるぞ。――アキム!」

 名を呼ぶと、すぐにその姿を見せる。どうやら俺がアエルバートを止めに入ったときに、何かあればすぐに対処できるよう近くまで来ていたらしい。

「お呼びですか、オスリック殿下」

 アキムのその一言で周囲の人間がにわかにざわめき出す。
 オスリック殿下と呼んだか、聞き間違いじゃないよな、口裏を合わせているだけじゃないか、だがあのアキムだぞ、じゃあやはり本物の王太子なのか……。

「アキムが嘘を吐いているとは言わないが、アキムがそもそも騙されている可能性だってあるじゃないか!」
「証人はアキムだけではない」

 アエルバートに掛けた声の主は俺でもアキムでもない。もっと低くて落ち着いた響きだった。

「……こ、国王陛下……」

 アエルバートはカラカラの声で言う。
 国王陛下――父は俺が生きていることも知っているし、何よりこうして夜会に参加できるようにしてくれたのも父だった。

「オスリック、随分と派手な演出で登場してくれたものだな。おまえはもう少し落ち着いた性格だと思っていたが……子供というのはいくつになっても手がかかる」
「それは申し訳ありません。緊急事態でしたので」

 国王まで認めるとあっては誰も異を唱えられない……はずだった。

「国王陛下、この者が兄のオスリックであるというのは受け入れましょう。ですが、それはセラフィン=ハイタッドの処刑を止める理由にはなりません」

 ただ一人、アエルバートだけは国王に反論する。どうしてもセラフィンの命を奪いたいらしい。
 彼女へ視線をやると、すでに意識を失っていた。毒が体に回っているのだろう。

「陛下、まずは彼女の手当てをさせてください」
「ダメだ! セラフィンは処刑する必要がある!」

 セラフィンに近づこうとすると、そうはさせまいとアエルバートが邪魔をする。

「今回の件、私は細部を知らない。となれば、おまえたちそれぞれの判断に委ねることになる」

 父の言葉を聞いて、俺はすぐに兵士たちに命じた。

「聞いたな、おまえたち。処刑は中止だ! アエルバート王子を自室へお連れし、セラフィン=ハイタッドを手当てのできる部屋に運べ!」
「はい!」

 王太子の権限をもって命じると、今度は迷いなく動き始めた。セラフィンは丁重に抱きかかえられ、アエルバートは両脇から取り押さえられる。

「クソッ! クソッ‼ 離せ! 僕は王子だぞ!」
「王太子殿下のご命令ですので」

 暴れるアエルバートだが、兵士たちが力を緩めることはない。王太子の命令であれば王子であっても拘束する。俺とアエルバートの間には絶対的な差が存在しているのだ。

「こんなはずじゃ……ごめん、ブレアナ……」

 拘束を解こうと暴れるほどに兵士の力が強くなり、最終的にアエルバートは大人しくなった。王太子でもないのに、ここまでアエルバートの気が大きくなってしまったのは、俺の不在が理由だろう。

「セラフィンの部屋には俺も付き添おう。案内してくれ」

 兵士に声を掛けて、俺はセラフィンの眠る部屋へと急いだ。
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