毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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12.【Side:オスリック】波乱の夜会

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 夜会が開催される数日前。
 アエルバートの結婚式の日取りが発表されるとの連絡を受けた。

「ちょうどいい。人を集める催しをどう開くかがネックだったから、これを利用させてもらおう」
「オスリック殿下、もしかしてお二人の日取り発表後に自分の存在も明らかにしようとしてます?」
「そのつもりだ」

 アキムはギョッとした顔をして、首を振った。

「いや、ダメですよ。十年も姿を見せていなかった王太子が現れたらみんな驚いてしまって、直前に聞いた結婚式の日取りを忘れてしまいます」
「直前に聞いた日時を忘れるわけがないだろう」
「それくらい驚くって意味ですよ! インパクトが違いすぎます!」
「早く城に戻るように急かしていたのはアキムだろう。どうして反対する?」

 俺としてはまだもう少し自由でいたいが、時機を失すれば上手くいくはずの物事が上手くいかなくなってしまう。それは避けなければいけない。

「アエルバート様のせっかくの晴れ舞台に水を差すことになるからですよ」
「…………それなら仕方ないか」

 アエルバートは異母弟で、人によっては対立を煽って来るが俺にとって弟であることに変わりはない。そんな弟の喜ばしい日を台無しにするのは本意ではない。

「だが夜会には参加することにしよう。現在の社交界で誰がどんな立ち位置にいるかを把握しておきたいしな。なに、バレやしない。父に話を通して遠い国からの来賓として扱ってもらうさ」




 夜会当日、俺は予定通り外国の貴族という扱いで夜会に参加することができた。眼帯のことをよく聞かれるので、医者にするように言われていると説明している。
 仕方がない話ではあるが、十年前よりもアエルバートを王にしようと考える人間が増えている。もっと言ってしまえば、アエルバートが王になるものだと信じている者さえいる。
 十年も姿を現さなければ、憶測が広がり死んでいるかのような扱いになるのも当然の帰結だった。これはいよいよ早めに生きていることを明かした方が良さそうだ。
 突然音楽が止み、ファンファーレが鳴った。いよいよ結婚の日取りが発表されるらしい。のんきにそんなことを考えていた。
 だが、目の前で始まったのは日取りの発表などではなくキツイ糾弾だった。弟の口から出てくる言葉はセラフィンの評判を落とすのに充分なものばかりだ。
 あの優しかった弟がこのように婚約者を扱き下ろすなど信じたくなかった。
 もし俺がセラフィンと出会っていなければ、驚きはしてもきっとアエルバートの言葉を鵜呑みにしていただろう。性格のねじ曲がった令嬢は実際数多くいるし、優しいアエルバートを怒らせるほどの人物なのだ、と。
 でも俺は出会ってしまった。セラフィンはアエルバートが評するような悪い人間ではない。勇気と賢さを兼ね備え、他人を気遣える女性だ。

「残念だよ――アエルバート」

 このままセラフィンを見殺しにはできない、と俺は二人のあいだに入ってこの騒動を止めようと動き出す。

「お待ちください」

 こっそりと袖を引かれる。アキムだった。
 アキムは普段から城に出入りしていることもあって、アキム本人として夜会に参加していた。だから俺との接触を避けていたのだが、こうして問題が発生したことで、俺の正体がバレるリスクを負いつつも近くに来たらしい。
 正体を明かしてでもアエルバートを止めようとしていたところだから、アキムの判断は賢明だろう。

「本日は情報収集だけだったはずです」
「ああ。アエルバートの結婚の報告を台無しにしないために、な」

 聞いていた話とはまったく違う方向に動き出している。もうアエルバートに遠慮する必要もあるまい。

「アキムはこの事態を目の前にして黙っている者が王に相応しいと思うのか?」
「それはそうですが……いやしかし」
「それ以前に、惚れた女が殺されそうになっているのを見殺しにするのは自分で自分が許せない」
「オスリック殿下……」

 袖を掴む力が緩んだところで、俺は視線をセラフィンたちの方へと戻す。事態は最悪な方向へと向かっていた。レイピアの先がセラフィンの肩を貫いたのだ。

「セラフィン!」

 後ろからアキムの呼ぶ声が聞こえたが、俺は止まらなかった。このままでは本当にセラフィンが死んでしまう。
 人込みをかき分けて、レイピアを引き抜き止めを刺そうとしているアエルバートの腕を掴んだ。

「そこまでだ」
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