毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

文字の大きさ
上 下
12 / 49

11.処刑の刻

しおりを挟む
 遂に来た。来てしまった。
 抜き身のレイピアを手に近づいてくるアエルバートに恐怖しながら後ずさる。
 幸いにしてここは出入口の近くだった。会場から逃げ出すのが難しいということはない。しかし王子としてそれなりに鍛えているアエルバートと普通の小娘の私の体力差では距離を取ることが最も困難と言える。
 なんとか隙を見つけて逃げたいけれど。

「大人しくしていればすぐに済む」

 レイピアの剣先がすぐに届いてしまいそうな距離。
 死を待つだけなんて、ごめんよ!
 私は重いドレスを強く蹴って走り出した。しかし……。

「っ! 待て!」

 髪を掴まれて引きずり倒される。受け身も取れずに背中から床に叩きつけられた。
 周囲から悲鳴が上がる中、アエルバートの怒りの籠もった声が私に向けられる。

「なんという無様さ。潔く罰を受け入れもしない姿勢は醜いぞ」
「あうっ!」

 鋭い痛みが左肩を貫いた。レイピアの刺さる傷口が燃えるように熱い。逃げたいけど動けばさらに傷口を広げることになるせいで、ただ床でのたうち回るだけになる。

「痛いだろう。このレイピアには我が一族の特殊な毒が塗ってある。万が一この場から逃げおおせたとしても、この毒が必ず貴様の命を奪う」

 ど、毒⁉ アエルバートルートでのセラフィンの死因って毒殺になるの⁉
 仰向けのままアエルバートを見上げると、怒りの籠もった緑色の瞳と視線が合った。アエルバートにとって私はもはや害でしかないのだろう。
 毒というのは本当だったみたい。目が霞んできたし、頭も熱をもってぼんやりとする。

「意識が失ってからでは死を感じられないだろう。今すぐあの世へ送ってやる」

 私の様子を見たアエルバートが冷たく言い放った。レイピアが一度引き抜かれ、その切っ先が喉に照準を合わせる。
 もうダメ。このままここで死ぬしかないんだ。
 ストーリーで決まっていることは変えられない。ここでこうして死ぬのがセラフィンの運命だったんだ。
 ぎゅっと目を閉じて最期を待つ。
 ……けれど、予想した衝撃はいつまで経ってもやって来ない。
 おそるおそる目を開けると、誰かがアエルバートの腕を掴んで止めていた。
 エメラルドのような輝く髪とはちみつ色の瞳。それに見覚えのある眼帯。

「あなたは……」

 意識があったのはそこまでで、ふっと目の前が真っ暗になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

【完結保証】愛妾と暮らす夫に飽き飽きしたので、私も自分の幸せを選ばせてもらいますね

ネコ
恋愛
呉服で財を成し華族入りした葉室家だが、経営破綻の危機に陥っていた。 娘の綾乃は陸軍士官・堀口との縁組を押し付けられるものの、夫は愛妾と邸で暮らす始末。 “斜陽館”と呼ばれる離れで肩身を狭くする綾乃。 だが、亡き父の遺品に隠された一大機密を知ったことで状況は一変。 綾乃は幸せな生活を見出すようになり、そして堀口と愛妾は地獄に突き落とされるのだった。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

処理中です...