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8.【Side:王太子】弟の婚約者
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俺――オスリック=コンポードは十年前に住居を王城から城下町近くの森の中へと移した。このことを知っているのは父の国王を含め、わずかな者だけだ。
「オスリック殿下、城からの定期連絡が届いています」
「ああ。ありがとう、アキム。後で確認する」
アキムは俺に封書を手渡すと、部屋の隅の自分の机に着いた。
このアキムという男は幼少期から俺の遊び相手として城に来ていて、住処を移すときに一緒に付いてきた。何もこんな不便なところまでついてくることもなかっただろうに、奇特な奴だ。
この青い左目をなんとか治す方法がないかと日々研究をしているが、その成果は芳しくない。この十年で優秀と評される薬師となった俺ですらも、左目を治す方法は足掛かりすら発見できなかった。
「殿下、いい加減城に戻られてはいかがですか? 弟のアエルバート様も来年で十八歳になります。そうなれば、アエルバート様を次代の王へと推す声も大きくなるでしょう。オスリック殿下が元気な様子を見せないことは無用な混乱を招きます」
「それは理解している。だから皆の前に姿を現す段取りも準備しているだろう」
「それは存じてますよ。えぇ、よーく存じてます。問題はそれがいつになるかというところです」
以前から俺が元気に生きていることを公に示す機会を設けようとしてきたが、こうして身を隠している方が動きやすく先延ばしにし続けてきた。しかしそれももうそろそろ限界だ。先延ばしを終える日も近いだろう。
「そういえば昨日、買い物に出たときにアエルバートの婚約者と会ったぞ」
「は……えぇ⁉ なんでですか、どういう経緯で?」
驚くアキムに昨日あったことを簡潔に説明してやると驚いていた。その後にハッと何かに気付いた顔をする。
「まさか名乗ったりしてませんよね?」
「当然だ。聞かれもしなかったしな」
ハイタッド公爵の娘であり弟・アエルバートの婚約者。おそらく彼女は未来の王妃になるために婚約者の座に就いたはずだ。
「……可哀想にな」
「は?」
「いや、婚約者の彼女のことだ。彼女は自分が王妃になると思っているだろうに」
「……驚きました、二つの意味で。ちゃんと自分が王座に就く予定なのと、赤の他人に同情的であること……今日の殿下はどうかしていますね」
指摘されて、確かに普段とは違うかもしれないと気付く。けれどそれはリミットが徐々に迫ってきているからだろう。
いやしかし、それでは彼女に同情的な理由には説明が付かないな。
ふと思いついたことを口に出してみる。
「俺はもしかして彼女のことが好きなのかもしれないな」
「ブッフーッ!」
ちょうど飲み物を口に含んでいたアキムは盛大に噴き出した。
「ゲホッ、殿下! 殿下! それはまずいですよ」
布巾で机を拭きながら、器用にもアキムは俺に文句を飛ばしてくる。
「そこまで動揺することか?」
「しますよ! 相手はアエルバート様の婚約者なんですよね? なんでまたそんな厄介な相手を選ぶんですか? 殿下の立場ならどこのご令嬢でも選びたい放題なのに! よりによって絶対に叶わない相手を選ばなくても……」
「好きと言ったのは、好感が持てるという意味だ。別にアエルバートから奪い取ったりしないさ」
そこまで付け加えると、アキムはホッとした表情を浮かべた。
「オスリック殿下、城からの定期連絡が届いています」
「ああ。ありがとう、アキム。後で確認する」
アキムは俺に封書を手渡すと、部屋の隅の自分の机に着いた。
このアキムという男は幼少期から俺の遊び相手として城に来ていて、住処を移すときに一緒に付いてきた。何もこんな不便なところまでついてくることもなかっただろうに、奇特な奴だ。
この青い左目をなんとか治す方法がないかと日々研究をしているが、その成果は芳しくない。この十年で優秀と評される薬師となった俺ですらも、左目を治す方法は足掛かりすら発見できなかった。
「殿下、いい加減城に戻られてはいかがですか? 弟のアエルバート様も来年で十八歳になります。そうなれば、アエルバート様を次代の王へと推す声も大きくなるでしょう。オスリック殿下が元気な様子を見せないことは無用な混乱を招きます」
「それは理解している。だから皆の前に姿を現す段取りも準備しているだろう」
「それは存じてますよ。えぇ、よーく存じてます。問題はそれがいつになるかというところです」
以前から俺が元気に生きていることを公に示す機会を設けようとしてきたが、こうして身を隠している方が動きやすく先延ばしにし続けてきた。しかしそれももうそろそろ限界だ。先延ばしを終える日も近いだろう。
「そういえば昨日、買い物に出たときにアエルバートの婚約者と会ったぞ」
「は……えぇ⁉ なんでですか、どういう経緯で?」
驚くアキムに昨日あったことを簡潔に説明してやると驚いていた。その後にハッと何かに気付いた顔をする。
「まさか名乗ったりしてませんよね?」
「当然だ。聞かれもしなかったしな」
ハイタッド公爵の娘であり弟・アエルバートの婚約者。おそらく彼女は未来の王妃になるために婚約者の座に就いたはずだ。
「……可哀想にな」
「は?」
「いや、婚約者の彼女のことだ。彼女は自分が王妃になると思っているだろうに」
「……驚きました、二つの意味で。ちゃんと自分が王座に就く予定なのと、赤の他人に同情的であること……今日の殿下はどうかしていますね」
指摘されて、確かに普段とは違うかもしれないと気付く。けれどそれはリミットが徐々に迫ってきているからだろう。
いやしかし、それでは彼女に同情的な理由には説明が付かないな。
ふと思いついたことを口に出してみる。
「俺はもしかして彼女のことが好きなのかもしれないな」
「ブッフーッ!」
ちょうど飲み物を口に含んでいたアキムは盛大に噴き出した。
「ゲホッ、殿下! 殿下! それはまずいですよ」
布巾で机を拭きながら、器用にもアキムは俺に文句を飛ばしてくる。
「そこまで動揺することか?」
「しますよ! 相手はアエルバート様の婚約者なんですよね? なんでまたそんな厄介な相手を選ぶんですか? 殿下の立場ならどこのご令嬢でも選びたい放題なのに! よりによって絶対に叶わない相手を選ばなくても……」
「好きと言ったのは、好感が持てるという意味だ。別にアエルバートから奪い取ったりしないさ」
そこまで付け加えると、アキムはホッとした表情を浮かべた。
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