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5.謎の親切な男
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「アンタ、大丈夫かい?」
「……っはあ……だ、大丈夫です」
眼帯の男に手を引かれて全力疾走してしまった。たった数分程度とはいえ、息切れするのは避けられない。
商店街の端まで来たことで人波はすっかりなくなっていた。
「あそこの商店は気の弱そうな客を見ると高圧的な態度で金を巻き上げるんだ。慣れてる客には普通に接客するから周囲からの評判はそこまで悪くない。そこが余計に厄介なところさ」
「……詳しいんですね」
「まぁな。それよりも世間知らずなお嬢さんが供の者も連れずにこんなところで何をしている?」
「え!」
町娘の格好をしているというのに、どうして普段供を連れていると分かったのかしら。
「分かるさ。動きに隙がありすぎる」
「心も読めるんですか⁉」
「すべて顔に出ているよ」
会って間もない人にここまで見抜かれてしまうなんて、余程隙だらけなのだろう。引き締めないと、と自らの頬をペチペチと叩く。
「それで? 何が目的でこんなところに一人でいたんだ?」
「あの、それは……」
屋敷を抜け出して羽を伸ばしに来たと伝えたら、男はちみつ色の片目を丸くした。
「まいったな。それじゃあ屋敷に帰るまで一人ということか」
どうやら心配してくれてるらしい。
「大丈夫ですよ。私、今までもこうして遊びに来てましたし」
それは記憶が戻る前で、今の私よりもずっと気の強い状態だったけど。
男は呆れたように息を吐いた。
「どうやらこの国は俺が思っていたよりもずっと平和らしいな」
どことなく皮肉気な表情でそう言うと、彼は目でついて来いと合図する。
「あの、どこへ行くんですか?」
「アンタ、ハイタッド公爵家のとこの令嬢だろ?」
「え……えぇ⁉」
「なんで分かったのかって? この場所へ日帰りで行き来できるのはそこだけだから」
まさかそこまで見破られてしまうなんて……驚きだわ。私が分かりやすいことを差し引いても、このあたりの地理に詳しくないと出て来ない言葉。この人は一体……?
「助けた人間を放り出してまた危険に晒すのは、俺としても忍びない。近くまで送ってやろう」
「待ってください。私、まだ帰るつもりありませんよ?」
「何?」
せっかく城下町までやってきたのに、ぼったくり被害に遭いそうになっただけで帰るなんて、何のために来たのか分からない。私はまだまだお店を見て回りたい。
「まさか俺に一緒について回れと言うんじゃないだろうな」
「そんなこと言うつもりはありませんけど、あなたが私を送り届けたいと言うのであれば結果的にそうなってしまうと思います」
一瞬苦い顔をした眼帯の男。その姿がなぜだか記憶を刺激する。いったいどこで会ったのか……ダメ、全然思い出せない。
「分かった。ついて行ってやるから、さっさと済ませてくれ」
「あら、まぁ」
だったらこれで、とお別れするものだと思っていたのに、まさかついて来てくれるなんて。なんて面倒見がいい人んだろう。
「では決まりですわね。ついていらして」
やれやれ、という声を背中で聞きながら、私は再び商店街へと向かうのだった。
「……っはあ……だ、大丈夫です」
眼帯の男に手を引かれて全力疾走してしまった。たった数分程度とはいえ、息切れするのは避けられない。
商店街の端まで来たことで人波はすっかりなくなっていた。
「あそこの商店は気の弱そうな客を見ると高圧的な態度で金を巻き上げるんだ。慣れてる客には普通に接客するから周囲からの評判はそこまで悪くない。そこが余計に厄介なところさ」
「……詳しいんですね」
「まぁな。それよりも世間知らずなお嬢さんが供の者も連れずにこんなところで何をしている?」
「え!」
町娘の格好をしているというのに、どうして普段供を連れていると分かったのかしら。
「分かるさ。動きに隙がありすぎる」
「心も読めるんですか⁉」
「すべて顔に出ているよ」
会って間もない人にここまで見抜かれてしまうなんて、余程隙だらけなのだろう。引き締めないと、と自らの頬をペチペチと叩く。
「それで? 何が目的でこんなところに一人でいたんだ?」
「あの、それは……」
屋敷を抜け出して羽を伸ばしに来たと伝えたら、男はちみつ色の片目を丸くした。
「まいったな。それじゃあ屋敷に帰るまで一人ということか」
どうやら心配してくれてるらしい。
「大丈夫ですよ。私、今までもこうして遊びに来てましたし」
それは記憶が戻る前で、今の私よりもずっと気の強い状態だったけど。
男は呆れたように息を吐いた。
「どうやらこの国は俺が思っていたよりもずっと平和らしいな」
どことなく皮肉気な表情でそう言うと、彼は目でついて来いと合図する。
「あの、どこへ行くんですか?」
「アンタ、ハイタッド公爵家のとこの令嬢だろ?」
「え……えぇ⁉」
「なんで分かったのかって? この場所へ日帰りで行き来できるのはそこだけだから」
まさかそこまで見破られてしまうなんて……驚きだわ。私が分かりやすいことを差し引いても、このあたりの地理に詳しくないと出て来ない言葉。この人は一体……?
「助けた人間を放り出してまた危険に晒すのは、俺としても忍びない。近くまで送ってやろう」
「待ってください。私、まだ帰るつもりありませんよ?」
「何?」
せっかく城下町までやってきたのに、ぼったくり被害に遭いそうになっただけで帰るなんて、何のために来たのか分からない。私はまだまだお店を見て回りたい。
「まさか俺に一緒について回れと言うんじゃないだろうな」
「そんなこと言うつもりはありませんけど、あなたが私を送り届けたいと言うのであれば結果的にそうなってしまうと思います」
一瞬苦い顔をした眼帯の男。その姿がなぜだか記憶を刺激する。いったいどこで会ったのか……ダメ、全然思い出せない。
「分かった。ついて行ってやるから、さっさと済ませてくれ」
「あら、まぁ」
だったらこれで、とお別れするものだと思っていたのに、まさかついて来てくれるなんて。なんて面倒見がいい人んだろう。
「では決まりですわね。ついていらして」
やれやれ、という声を背中で聞きながら、私は再び商店街へと向かうのだった。
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