毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ

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2.死ぬ前のこと

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 私、セラフィン=ハイタッドは日本という国に住んでいた。正確に言えば、そのときはまだセラフィンという名前ではなかったけれど。
 受験も無事に乗り越えて念願の大学生となり、人生の夏休みを謳歌していた。授業に出たり、バイトをしたり、友達と遊んだり……楽しいことが尽きない生活だったと思う。
 すごくお金持ちとかすごく頭がいいとか、そういう特別感はなかったけれど、幸せな人生を歩んでいた。
 そんな日々の中で、私はバイト代を乙女ゲームに使うこともあり、最近……一番最後に買ったのは『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』という作品だった。
 どんな作品かというと、特殊な治癒能力を持ったヒロインが多種多様な問題を抱えた攻略対象たちを救うというものだ。そのヒロインのデフォルト名が〝ブレアナ〟で、容姿は女の子が一度は憧れる砂糖菓子のように繊細で可愛らしい可憐なもの。そう、私が憎いと感じてワインを掛けようとしたピンク髪の令嬢その人。
 この乙女ゲームにはライバル……というよりも敵と呼んだ方が相応しい人物が登場していた。それが高飛車で傲慢な野心家の〝セラフィン〟だ。
 セラフィンはどの攻略対象のルートでも最後は命を落とすことになる、というネットの情報を見かけた。如何せん発売したばかりのゲームで、自力で全クリはしていないから曖昧な情報しかない。無料DLCでさらに攻略対象追加という情報も出ていたのに、その日を待たずに私は死んでしまった。
 死ぬ前のことは鮮明に覚えている。忘れたくても忘れられない……いえ、忘れてたけども。
 提出を明日に控えたレポートを徹夜覚悟で取り組んでいたとき、不運にもレポート用紙が切れてしまい、近くのコンビニへと買いに出かけた。
 そこでまさかのコンビニ強盗と遭遇。奥にいた私は店から逃げることができずにパニック。強盗もまさか店員以外に人がいると思わずパニック。パニック×パニックの相乗効果で、無理に逃げようとした私が強盗に刺されてしまうという事件が発生した。
 こうして不幸にも人生に幕を下ろしたのは……まぁもう仕方がないから諦めるとして、目下の問題は私がセラフィンに転生してしまったということにある。
 セラフィン……死ぬんだよね。きっとどうあがいても死ぬんだよね。
 どうにかして死ぬのを回避できないものかしら。
 ブレアナがアエルバートと仲良さそうに話していたということは、おそらくこの世界はアエルバートルートのはず。上手くブレアナにアエルバートを譲ることができれば、死ぬのを回避できるかもしれない。
 ゲーム内のセラフィンは野心が強くてアエルバートとの婚約にご執心だったけど、私にしてみれば王妃の座は身に余りすぎるから全然欲しくないし。
 よし! 頑張って波風立てない婚約破棄を目指そう! ガンバレー、私!
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