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第9話

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「くっそ~俺っちも運ねえなぁ……あの確率で負けるか普通……」
ぶつぶつと呟いているのは守兵の一人。銃を背中に背負ってだるげに立っている。
「私はお酒苦手なので別に構わないんですが寒さは別ですよ」
「ぼかぁ酒好きだからさぁ……参加できなくて残念だったなぁ」
「俺は酒どうでもいいけどめんどくさいのは勘弁だよ。いつもの範囲をたった5人で見て回るんだろ?」
「……そうだ……さっさとすませてしまおう……」

メモンは鉱山で唯一灯りがついている建物のそばで聞き耳をたてている。どうやら5人だけのようだ。
「なぁ俺思いついたんだけどみんなバラバラになってよぉ、1人ずつ監視場所いかないか?そしたら効率も5倍!そんでその後は部屋戻っておねんねよ」
「私も賛成、寒い」
「俺っちもさんせーい」
「僕はどっちでもいい。酒飲みてえなあ」
「……反対。一人じゃ何か起こったら対処できないだろう……」
「多数決で決定だ。俺の天才的な発想がまた人の役に立ってしまった……」
「んなわけねえだろさっさといくぞ」
だれかがツッコミを入れ5人はバラバラに散っていった。

鉱山方面に2人、獣人宿舎方面に2人、鉱山を囲む森方面に1人。
メモンは1人の方から片付けることにした。
十分にバラバラになったあと、そろり、そろりと足音を消し近づく。
あと一歩で腕が届く距離まで近づいた。まだ進む。
一気に両腕を伸ばし片手で口を塞ぎもう片方の腕で首を引き寄せ体と挟み締める。
「!?……ぐっ……」
守兵はもがくがそれも少しすると終わり、気絶した。
メモンは人間から迫害され故郷を追われ家族ともバラバラになった。そのため、人間に対してそのお返し、をすることに罪悪感はない。
それに守兵は迫害の原因ともなった銃を背負っており、それはメモンにいやな思いをさせる。
人間の技術の発展で銃が発展し、人間社会の拡大で獣人との争いが多くなり、獣人との争いで銃が活躍する。
獣人にとって銃はいやな思い出であることが多い。

一人片付けたメモンは他を探す。
ここから近いのは獣人の宿舎。
宿舎は完全に灯りが消えており誰も起きていないだろうと推測される。
近くの木に隠れ観察すると宿舎の表と裏に一人ずつ守兵がいるようだ。
幸い、表と裏は宿舎のおかげで互いに見ることができない。
宿舎の表に寄っていく。
表にいる守兵は両腕を上で組みあくびをしている。
先ほどと同じ要領で近寄り、気絶させる。
それを繰り返し裏の守兵も気絶させた。
メモンの羽織っているローブは夜によく馴染み見つかりづくなっていた。

足音と人の気配からすると鉱山の入り口に一人、鉱山の周りをぐるぐると周っているのが一人だろう。
鉱山の入り口の守兵が鉱山の方を向いた隙を突き気絶させる。

このまま続けていこうとメモンが立ちあがろうとした時、
「……やけに静かだと思っていたら……!……誰だ……!?」
鉱山を周回していた守兵がメモンを見つける。
守兵は背中の銃をするりと手に持ち肩にかけ射撃準備を整えた。労働力の獣人を傷つけることは少ないためおそらく麻酔弾が装填されているはずだ。メモンと守兵との距離は10メートルほど。
メモンは力強く踏み出し距離を詰める。
守兵は引き金を引き銃を撃つ。
ダダダという音と共に細長い弾が飛ぶ。
弾はメモンに向かって飛ぶがメモンは進行方向を90度変え右に踏み出す。
弾はメモンの首のそばを通り抜ける。
「……クソ……!」
守兵は焦りながら引き金を引き銃を撃つ。
今度はメモンの右にも弾が飛んでいくのが見える。
メモンは翼を広げて1回大きく羽ばたき左に移動する。弾は虚空を通過する。
「……!」
守兵はもう一度がっしりと構え直し再び照準を合わせ銃を撃つ。
今度は翼を片方だけ大きく羽ばたかせ風を起こし弾を反らせる。
弾はメモンから離れた方へ飛んでいった。
カチッカチッと弾切れの音がし二人の攻防は大きく変化する。
守兵は急いでポケットから細長い弾を2個手に掴み装填しようとする。1発でもあればいいと判断したのだろう。
メモンはカチッと音がした途端前方に向かって駆け出した。
二人の距離は1メートルを切った。
メモンは腕を伸ばし首を掴もうとする。
守兵は装填の途中で首を掴まれないために後ろに倒れる。
倒れながらも装填を続け、地面に横たわった時には1発の装填に成功した。
バッとメモンに向かって銃口を向けるがメモンは銃を横から蹴り銃を吹き飛ばす。
「……グッ……!」
続けてメモンは両足で力強く飛び、守兵に飛び乗ろうとする。
それを避けようと守兵はゴロゴロと転がり、そして立ち上がる。
守兵は手早く懐からナイフを取り出して戦闘に備える。
メモンはまた翼を広げて、今度は地面近くで羽ばたき大量の砂埃を巻き上げる。
「……くっ!」
守兵は砂埃で目をやられ、攻撃を避けるために本能的に後ろに下がる。
メモンは早く、右手で振り払いナイフをはたき落とした。
そしてそのままこの戦いを終わらせた。
首を腕と体で挟み締めた。
こうして最後の守兵をも倒すことに成功した。
また、鉱山労働用のロープで守兵全員を縛り上げた。もちろん銃も取り上げてある。

ドレッドとメモンは城で合流したが、ドレッドは睡眠薬の効果で眠っていた。アウルム商会と共に。

メモンは城のアウルムとその部下もロープで縛りそのまま朝を迎えた。
獣人たちは労働の指示をする人間がいないため狼狽している。
メモンが獣人たちに言う。
「あなたたちはもう自由よ。これからはなにをしてもいいの」
獣人たちのリーダーらしき者が出てきて言う。
それは猫の獣人で毛がたくさんあるため薄着であり、顔のひげはピンと張っており凛々しかった。
猫の獣人は数が多いため猫の獣人の誰かがリーダーになったのだろう。
「アウルム商会とはもうおさらばってこと?どこにいってもいいの?」
「ええそうよ。私たちがこの鉱山と城を制圧したの」
獣人たちはざわざわとし始めた。
「……じゃ、あたしたちはこの鉱山を乗っ取るわ」
リーダー格の猫の獣人が言う。
「これからはどれだけ働くかも自分たちで決める。生活のためにはお金が必要だし、鉱山で働くのには獣人の方が効率いいわ。人間より優れてるってとこ見せてあげる」
「それと、私はあなたたちの過去を知らないから、アウルム商会の奴らの処遇はまかせるわ」
そう言ってメモンは守兵の一人を指差す。
「任せといて。これはあたし達とアウルム商会との問題だしね」
メモンと猫の獣人は握手を交わしメモンはそこを立ち去った。


「ドレッド起きて、起きなさいよ」
ペチペチと頰をたたきドレッドを起こそうとする。刺激が睡眠薬の効果を上回りドレッドは目を覚ます。
「おお……メモン、首尾はどうだ?」
「成功よ、うまくいったわ」
「そうか、よかったよかった」
ドレッドは寝ぼけながら答える。
「労働させられてた獣人たちはどうなるかな……」
「あの子達、労働者として組織立ってたから独立してもなんとかなると思うよ」
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