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真実が明かされる日

誘拐

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ゆうきサイド

由希人くんと、一緒に出勤するようになって、早、一週間。私の心配をよそに由希人くんの仕事振りは高評価だ。うちは様々な工事に使われる工業部品を扱っているんだけど、その知識も詳しくて、思わぬアイディアで今までになかった注文を取って来たりして周りを驚かせている。

それから、アルバイトの一環と言っていた仕事の内容が昨夜テレビを観ていて判明した。男のコスメを銘打ったCMに、由希人くんが出演していたのだ。流れる水が彼の唇から首筋、胸板へと流れる様子が、恐ろしく色っぽい。煽り文句は、水の滴るいい男だ。顔出ししたくないと最後まで粘ったとの事でパーツのみなので確かに顔は、分からない仕様になっている。

「顔出ししないなら身体で払えとプロデューサーのサキュバスに要求されまして、こんなCMに………」

由希人くんは、遠い目をしている。

「さ、さすが、すごく色っぽいよ」

ネットでも、あのCMの男性が誰なのか騒ぎになっているくらいだ。第2弾の雨の中、傘を差した恋人の所に走るバージョンも、既に撮影済みらしい。

「おかげで、デート代もベッド代も心配要りません。レオに借金の返済して綺麗な身体になれて良かった。あの人に借りがあると落ち着かない」


そう、ギャラが入った日に由希人くんは迷う事無くダブルベッドを買うと言った。一緒に選んでと。……………ドンドン新婚化が進んでいる気がするのは私だけだろうか。いや、読者様も、もう諦めた方がいいんじゃね?と思っていらっしゃるのではないか。

夜は………夜は一緒に眠っているけれど、多分、夜、眠らないくて良い彼にとったら添い寝だろう。私の「熟成」を進めないように気遣って彼から性的に触れてくる事はない。私の身体に変調も無い。「した」と思い込んでいた、例のあの日の真実を聞いたのも、そんな添い寝の時間だ。

そんな物足りないような平穏なような不安な日々。



そんな、ある日、それは起こった。


会社から、いつものように由希人くんと連れ立ってしばらく歩いていた。

三課の人達は、婚約者の由希人くんの存在に最初、驚いていたけれど、安心したみたいだった。ずっと私が見かけは平気そうだけれど不安定だったから心配してくれていたのだ。

「スペック高い男を捕まえたわね~。今度、彼の友達を紹介してよね」

気さくな同僚の貴美子は軽く肘で小突いてきて、そう耳打ちした。

それに新入社員のサラさんの麗しさに三課の男性陣(長谷川さんを除く)は浮き足立っていて、幸いな事に私の話題はしばらくしたら下火になった。


「あ、スマホ会社に忘れてる。ちょっと待ってて取ってくる」

私は小走りで、今来た道をとって返した。角をひとつ曲がる。

「止まって。ぼくも一緒に行きますから」

後ろから、由希人くんの声が聞こえた。あ、いけない。待っていよう。そう、思った瞬間に爆発音があちこちから聞こえて煙が一面に立ち込めた。空間からフードを被った小柄の人が現れて、そこから私の意思はブレーカーが落ちたみたいに真っ黒になった。



由希人サイド


「ゆうきさん!」

ぼくは角を曲がった彼女のいたはずの場所に立っていた。


それは、ほんの瞬きほどの間だった。スマホを忘れたと彼女が会社に戻ろうと走り出した。慌てて、ぼくは彼女に声をかけた。その瞬間に爆発音と煙で周りの音が聞こえず、見えなくなった。その瞬間に彼女の気配が消えた。


…………消えてしまった。


爆発も煙もフェイクで音と煙以外の被害はなかった。

彼女は間違いなく淫魔に攫われた。結界内に引きずり込まれたのだ。でなければ気配自体が消えるなどあり得ない。

実は彼女を誘拐する計画は以前、一度、阻止している。彼女の会社、自宅周辺で彼女を見張っていた人間がいたので「魅了」で全て自供させたのだ。彼らは末端の末端で淫魔については何も知らなかった。まず、末端の末端の記憶を消して、彼らに指示を与えていた連中を突き止める。そうやって同じ事を延々と気が遠くなるほど繰り返して、ようやく黒幕まで辿り着いた。ヤツらはアンダーグランドの人間で、顔見知りの淫魔から短期間に「熟成」が進んだ人間の噂を手に入れて、彼女を調査し、あわよくば、誘拐して高額で売買しようと企んでいた。

黒幕は消した。記憶だけで無く存在も。見せしめだ。同じような事を画策すれば、同じような目に合う。



今回は誰だ。周囲は常に警戒していた。


淫魔なら時間など、どうにでも出来る。消えた瞬間から結界内で何がどのくらい、どの程度、起こっているのか………最悪な状況しか考えられない。人間も絡んでいるなら、幾重にも施した結界用の装備を外す事が出来る可能性はゼロではない。

落ち着け。落ち着いて、考えるんだ。今、出来る事は何だ。


いつの間にか長谷川先輩とサラも来ていたが、ぼくは、それにも気付かず、立ち尽くしていた。


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