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招かざる来訪者

朝の来訪者

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その朝、ぼくは、ゆうきが目を覚ますのを「今か今か」と待っていた。まるで散歩を待つ飼い犬みたいだと情けなくなる。

最近、みっともない所をばかり見られてる。レオにも、ゆうきにも。

ぼくは、もう大人になって待っていても良いんじゃないかと、魔力を勢いよく体内で発動させようと意気込んだ。それと同時に、ゆうきのシルバーピンクのスマートフォンがピロロンピロロンと少し間抜けな音で鳴った。

「…………………………………。」

集中が途切れて大人になり損ねた。

ゆうきは目を閉じたまま「ん~~んん。」とか、言いながら手探りでスマホを引き寄せると何か操作していた。

「え~~~。急だなぁ~~~~。」

と、小さく独り言を言って、むくりと起きると

「由希人くん、おはよう。」

と言ってぎゅーっと、ぼくを抱き締めた。

「お、おはようございます。もう大人になっていいですか。」

自分でも余裕が無いと思うけれど、ゆうきの言葉に被せ気味で、そう言った。

する、しないはともかくとして、早く大人の姿になりたい。大人の姿で、ゆうきと、これからの話をしたい。

それに、大人の姿になった由希人になら、ゆうきは魅力を感じてくれるかもしれない。「情け無いお願い」ではなく、もっと自然に、ぼくに欲情してくれるかもしれないじゃないかと考えると気持ちが迅る。

「ん~~。それがね、仕事の事で朝一番で書類とSDカードを渡したいってメールが来たの。こんな事、初めてなんだけど、どうしたんだろう。」

「…………誰からですか?。」

眉間に皺を寄せて、尋ねる。嫌な予感しかしない。

「会社の先輩。」

「性別は?」

「男の人だよ。」

「行かないで下さい。」

ぱきっと脊髄反射で、そう口にする。

「ええ!そう言う訳にもいかないよ。すごくすごく申し訳ないけど急な案件で資料作成を手伝って貰えないかって。困ってるって、こん事初めてだし、本当に困ってるんだと思う。」

「困らせとけばいいじゃないですか。そんな無能な奴。」

冷たい声で、言い捨てる。

「長谷川さんは無能じゃないよ。社内では優秀だよ。私もフォローしてもらったり何度かしてるし……。」

「他の男の話なんて聞きたくない。」

「と、とにかくSDカードと書類だけでも受け取って来るから待ってて。」

「どこで会うんですか?」

「車で、こっちに向かっているから、10分くらいしたら、こっちに着くって、家の前に着いたら出て来て下さいって。」

「ソイツはストーカーですか!家には居ませんって断りの連絡入れて下さい。何で家、知ってるんですか?気持ち悪い。」

「え、もう、いいですよって返信しちゃったよ。家は前にお通夜の時、来てくれたから。」

「やっぱり居ませんって送って下さい。一人暮らしの女性の家に、こんな土曜日の早朝に急に来るなんて、どう考えても頭オカシイでしょう。」

「一人暮らしじゃないって知ってるよ。何度か会社帰りに食事に誘われて、親戚の子供が来てるからって、お断りしたから。」

「この10日の間に何度も誘って来てるんですか。怖っ。それ完全に狙われてますよ。危険過ぎる。執着系のストーカーですよ。今すぐ、着拒して警察に連絡するレベルです。」

「由希人くん、落ち着いて。普通の先輩だよ。今まで、こんな事、一度も無かったし。たまたま面倒な案件に巻き込まれてテンパってるんだよ。確かに先輩らしくないけど。今まで何度かご飯とか飲み物とか奢って貰っているし、少しくらい仕事のお手伝いしてあげてもいいでしょう?」

「既に餌付けされてる訳ですね。ノコノコ出掛けて行ったら一体、何のお手伝いをさせられる事やら。車まで、ぼくも行きますから。いいですね。それだけは譲れません。」

「いいよ。先輩の長谷川さんに紹介してあげるね。すごく可愛いから、きっとビックリするよ。」

「紹介なんて別にいいですから。ああ、もう、どうして、こう上手くいかないんだろう。」

ブツブツ言っているぼくを放っておいて、ゆうきはとうに顔を洗ったり髪を梳かしたりして外出の準備をしている。もともと、目鼻立ちが整っていて肌も綺麗なので、彼女はいつも薄化粧だから支度は早い。

ぼくも着ていたTシャツと下着を脱いで、一瞬でいつもの半袖シャツと紺の短パンに着替える。

ゆうきが何度も、子供服を買おうよー。一緒に見に行こうよー。可愛い格好させてよーと、何度も言い続けているのをぼくは無視し続けていた。子供服なんか要らない。すぐに大人になる予定なのだからと。そう言い続けて10日いや11日な訳だが。

長谷川って奴め、ぼくの子供の姿は今日限りなんだから、次に会う時はテキトーに記憶操作してやると、忌々しく考える。

「あ、もう家の前に着いたって。早いな。」

ゆうきが緊張感の欠けらも無い平和な声でスマホを見ながら呟いた。

水色のワンピースが眩しい。何で、この愛らしい姿を他の男に見せなきゃいけないんだ。理不尽さに無意識に舌打する。

「わ・か・り・ま・し・た、す・ぐ・い・き・ま・す。」

と、ゆうきが、小さく口に出しながら返信している。他の男に「すぐイク」とか送るなと、何もかも気に入らなくてイライラする。

ゆうきがパタパタと玄関に向かって歩いて行って、ぼくは、その後を重い足取りでついて行く。

ピンポンと玄関のインターフォンが鳴る。

「あ、長谷川さんだ。」

ゆうきが玄関のチェーンと鍵を開けて扉を開く。

「おはようございます。はせが」

そこまで言ったところで、玄関から長谷川と呼ばれる男が厳しい表情のまま恐ろしい勢いで飛び込んで来て

「山口さん、無事か!」

と叫んだ。



ゆうきの玄関は鬼門なのか………次から次へと変なのが湧いてきやがって。



ビックリして尻もちを付いている、ゆうきを後ろで支えながら、長谷川と言う男を睨み付けた。
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