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招かざる来訪者

夢の中で

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※由希人サイドのお話になります

ゆうきは、ぼくの事を正直で礼儀正しくて勉強熱心の良い淫魔だねと、時々言うけれど、そんなことも無いんだけどなと思う。

ゆうきに嘘は言っていない。ただ、言ってない事があるだけだ。

大人になる程度の魔力は今、自らの身の内に渦巻いていた。まさに、今夜それは確定したと言ってよいだろう。


ゆうきとぼくが出会ってから10日あまり経つ。2人は、よく話し合って由希人は複雑な家庭状況のゆうきの親戚の子供ということにした。内気で気難しくて両親とも上手くいっていないが、ゆうきにだけは懐いていて、しばらく預かる事になったという設定だ。この事に興味や不信感を持つ人がいたら、ぼくが魔力を溜めてから記憶や感情を操作してごまかすからと説得した。

今まで通り、ゆうきは毎日会社に行っていた。周りから、最近いい事でもあった?などと言われたりするんだと、照れたように話してくれる。
その間、ぼくはネットや本やテレビから色々な人間社会の情報を手に入れたり家事なども少しづつやったりするようになっていた。

「食事」は、この10日の間に今夜も含めて2回した。5日に1度の割合だ。もちろん、足りない。だから、この10日間、毎晩、ぼくはゆうきの夢に潜っていた。夢に入れることは言っていないから彼女は何も知らない。

夢の中なのだから好き勝手しようと思えば出来るのだが、何故か実際とやっている事は大差ない。淫魔としては、なかなか不甲斐ない有様だ。使えるにもかかわらず「魅了」も使わないし。

魔力で作った虹色の空が広がる一面のベットの世界に、ゆうきを生まれたままの姿で連れて来るだけだ。「きゃー。」とか「わー!」とか言って恥ずかしがって慌てている、ゆうきに「夢だよ、夢だよ。」って耳元で囁く。もちろん、ぼくも裸だ。

「こんな夢見るなんて私って………。」

と、絶句して目を白黒している、ゆうきに抱き付いて肌の感触を楽しむ。まだ、これはさせてもらえないから、それだけでも幸せだ。自分の身体と、ゆうきの身体を擦り合わせてこの時は、自分の身体が少年である事を、物凄く残念に思う。ゆうきの身体に埋め込むべき部分が、おざなりに付いてはいるけれど、とてもじゃないが役に立ちそうもないからだ。

でも、だからこそ、ゆうきに無茶をしないで済むとも言える。淫魔には似つかわしくない自制が効いてしまう。彼女を大切に慈しむだけで、自分の深い場所にある部分が確かに満たされる。壊せる物を壊さない。奪える物を奪わない。それは擽ったいような不思議な感覚だった。

ゆうきにしがみ付いて「きゃー。ダメダメ。」とか言われたら、ちょっと身を引いて、軽くキスしたり肩を撫でたり背中を指でなぞったり軽いスキンシップを楽しむ。ゆうきが少し前の両親の死と言う出来事で、深く傷付いていて人肌恋しくなっている事に気付いていたから、性的なムードになんてならなくてもよいから2人で無限のベッドで転がってはしゃぐ。

運良くキスが出来たら、ゆっくり溶かしてあげる時もあるし、身体中をするする優しく撫でてあげる日もある。指先で足の間を可愛がってあげて軽く達した時は、ちょっと感動したくらいだ。無理強いした事は一度もない。これだけは胸を張って言えると思う。勝手に夢に入っておいてアレコレしている奴の言う事ではないけれど。

おかげでぼくの「食事」は、がっつりとはいかないものの取れていて、生きていく分には全く問題ないし、ゆうきとの合意の「食事」に至っては素敵なデザート感覚で、生まれた当初の魔力不足は、すっかり解消されていた。

それどころか、2人の相性の良さのおかげか、生まれて10日目の淫魔にしては、全くセックスしていないにもかかわらず、そこそこの魔力を持っていると自負できるくらいには成長していたのだった。

その自信は、後に粉々にされるけれども。

だから、今日、ゆうきに「大人になれるくらい魔力が溜まったか」と尋ねられた時、かなり動揺した。正直に、大人になれると告げたら彼女はどうするだろう。何と言うだろうと。

大人になったぼくと身体を繋げて「食事」をさせてくれるなら、すぐにでも大人になりたい。けれど、大人になったのなら他の女性でも大丈夫だよねと言われたら自分はどうしたらいいのだろうか。理論上はそうだ。問題ない。けれど、他の人間と「食事」しながら、ゆうきの家に住み続ける事は彼女の性格上、出来ないだろう。遅かれ早かれ、彼女の傍を離れなくてはならなくなるはずだ。

もちろん、「魅了」や記憶操作を使えば抜け道は幾つかあるだろうが、その方法を使う事を想像する事すら辛い。自分は淫魔としては少しおかしいかもしれない。死にかけで彼女に出会い変な執着心が生まれたようだ。まるで、鳥の雛の刷り込みのように。

ゆうきの寝顔を眺めながら、そんな事を取り留めなく考えていた時、外から近づいてくる淫魔の気配に気付いた。

はっと目を見開いて、ゆうきの周りに結界を張る。もし、相手が複数だったら自分が戦いに巻き込まれた時に、ゆうきの事を守れないからだ。

ああ、やっぱり急いで大人にならず魔力を温存しておいて、良かった。最近のゆうきは自分から見ても日に日に、美味そうになっている。それはそうだろう。毎晩、淫魔に愛されながら最後までは奪われていない清らかな身体の女。

快楽だけは仕込まれていて、蜜を滴らせながら咲く寸前の大輪の花。

淫魔から見れば、ゆうきは喰われるために用意された生贄のように見えるだろう。

「……くそ、やっぱり来たか。予想より、かなり早いな。」

強力な魔力を持った1体の淫魔が真っ直ぐ、おそらく、ゆうきに向かって、かなりのスピードで向かって来ていた。
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